転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

60話 特訓

「とう!」


 掛け声と共にマーシャが甲板から飛び出す。でも、やっぱり派手な音をたてる訳でもなく、オレと一緒にプカプカ浮いている。


「さて。すでにレイラから聞き及んでいるかも知れんが、冥界で冥力を使えたのは、隠している者がいなければ、レイラを含めても4魂しかおらぬ。
 こればっかりは、完全に魂が生まれ持っているモノで、努力しても身に付けようがない。
 しかも個々で能力が違うからのう。手取り足取り教えてやるのは無理じゃ。
 だから、わかっている事だけ教えて、後は実践あるのみじゃ!」

「いや、実践って言っても、また前みたいなことになったら……」

「アホウ。そのための儂であろうが。
 儂らの冥力と比べて、お主のは少し特殊に思う。
 冥力ではなく魔力かとも思うたが、お主の力が発動された時刻、儂は魔力の動きに気づかんかったし、魔力で構成した仮体はともかく、儂の冥力『物質創造』で産み出した鉱石で建てた役所を、冥力以外で破壊するなどできん」

「そうなのか……。あれ? でもおかしくないか? 
 カルジャーノたちが、建物の修繕するならさ、お前の出したモノ、加工しなきゃだろう?」

「さすがに、よく気づくのう」


 呆れたように相づちをうってくる。


「簡単な話じゃ。奴らの使っている道具の素材もまた、儂が産み出したモノ。
 それをレイラの『複製創造』で現界にある道具の形に変える。
 レイラの冥力は表面を真似た物を産み出すだけで、中身はスカスカなんじゃが、冥力を儂の鉱石に使用すれば、儂の鉱石を加工できる道具の出来上がりじゃ。
 ただし、すべての部位が同じ素材じゃからな。物によってはすごく重い。
 カルジャーノたちのような逞しい仮体を持っておらんと、扱うのが難しいということじゃ」

「へぇ~。ちなみにさ、残りの冥力使える二人は、何できんの?」


「ひとりは、我が母マリン。
『空間創造』じゃな。
 冥界は、元々は冥海しかなかった。そこに冥主たるお祖父様が、ひとりプカプカ漂っていた訳だが、三番目に分魂された母様が、お祖父様に再吸収されないように、お祖父様専用の空間を冥界に作った。今では冥主界と呼ばれる場所じゃ。
 それから自分や先に生まれていた魂、後から分魂され冥主界から出てくる魂の要望を叶える形で、今の冥界がある。
 ちなみに今本人は、この冥海のどこかに自分だけの空間を作って、執筆活動に勤しんでいる……はずじゃ!」


 最後、怪しくなったな。


「もう一人は、もうマタイラにはおらん。
 レイラ同様、儂の妹でな。冥力は『生体創造』。
 現界の生命体の起源は、全てソヤツが創ったものだ」


 なんか、ここまで聞く限り、オレのは、冥力とは違うと思うが……。
何も作り出してねぇし。

「その顔は、自分のはなにも創造してないぞ! といった顔じゃな。
 そうでもない。儂の予測では、主の力は『現象創造』ではないかと考えておる」

「現象創造?」

「そうじゃ。儂の予想通りであれば、レイラと同じくらいとんでもない力じゃ」

「そうなのか? 
 だとしたら、確かにオレのはとんでもないけど、レイラさんの創ったものって、中身が空みたいなモノなんだろう? それってすごいのか?」

「お主らしくないぞ。儂の話を思い出して、よく考えよ」


 ん~?  中身がないから、模造品作るときはマーシャの創った物質が必要なんだよな。
 まさか……


「もしかしてさ、すでに形がある物も、模造品創る材料にできちゃうとか?」


 マーシャが苦笑して頷く。


「まさかさ、単純な物質だけじゃなくて、今ある空間を材料にして、別の空間を模倣した空間創ったり、生物の体を材料に、現存する生物を創っちゃうなんて……出来ちゃうとか?」


 マーシャは苦笑のまま、また首を縦に振る。
 嘘だろ  レイラさん、やろうと思えば、マタイラ世界を好きにできちゃうじゃねぇか!
 コレか  レイラさんが言ってた強制力って!
 どんな形でも、強制的に作り変えられちまうってことか!


「まぁ、たぶんお前が考えておるようなことは起きんがな。
 アヤツは極端な怠け者じゃからな。そんな面倒なことはせん。
 アヤツが仕事中に、効率、効率と煩く言うのは、真面目だからではないぞ。
 アヤツが少しでも楽をしたいがため。
 部屋にいる時は、すごーいぐーたらなんじゃからな!
 お姉ちゃん、お菓子作ってだの。お姉ちゃん、食べさせてだの。お姉ちゃん、膝枕してだの。お姉ちゃん抱き枕になってだの。
 そんなのばっかりじゃ 」

「でも、お前は全部叶えてやると?」

「うむ! 可愛い妹じゃからな!」

 また、無い胸を張る。
 マーシャ、思ったよりシスコンだった。
 いや、もしかしたら、それぐらい甘やかさないと、癇癪起こしてマタイラを無茶苦茶にしちゃうとかありそうだな。


「さて、お前の話に戻るが、お前が思った現象を、自在に起こせるのであれば、かなりとんでもない力だ。
 例えば魂の消滅や復活といった現象まで起こせたら、これまでの冥界の常識が覆る。
 であるから、お前の力の限界を知っておく必要がある。
 そこでじゃ! 実践訓練もかねて、お前、儂を消滅させてみい!」


 おバカが、また無茶を言い出した。

コメント

  • ノベルバユーザー385074

    続きがとても気になる

    1
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