転生しているヒマはねぇ!
59話 海魔浴
冥界。
魂の始まりの世界であり、魂の帰る場所。
冥界の中には、魂が活動する空間が島のように点在する。
これを活界と言い、大きなものでは、天国界、地獄界、裁断界、転生界、居住界、そして現界等がある。
そう。厳密には、現界は冥界という大きな枠組みの中にある。
ただ、他の冥界の活界とは存在方式がかなり異なる空間のため、たいていの場合、分けて考えられている。
さて冥界の活界以外の場所を冥海と呼ぶ。
もちろん、海とは言っても、ここを埋め尽くしているのは水ではなく、魔力である。
各活界の中にも魔力は存在しているが、その濃度が桁違いで、冥海の方がはるかに濃い。
魔力は魂が存在するのに、必ずしも必要という訳ではないそうだ。
しかしながら、濃い方が活動力を増し、魂によっては魔法という超常現象を起こすことができる。
オレはその冥海に、マーシャ所有の巨大帆船に乗って、クルージングに出て来ていた。
この間、レイラさんが言っていた、連休を利用しての海魔浴だ。
魂を現界の器に入れる転生役所が、連休をとっても大丈夫なのかと思ったが、魂を器に入れるのは、基本的に生まれる前とのことで、前倒しで入れておけば特に問題ないらしい。
オレ的には、役所破壊なんてことをしでかしてしまったので、秘密特訓のようなものを期待していたのだが……。
実際には掲示板で参加希望者を募るなど、職員旅行みたいなものになっていた。
「わ〜しは、マ〜シャ〜、転生界しゅ〜♪」
船首で仁王立ちしたマーシャが、ひとり微妙なメロディーで残念な歌を歌っていた。
ほっとくのも可哀想なので、その微妙なメロディーに合わせて、最高の歌詞を付け足してやることにする。
「そ〜れが、ど~し〜た? オレ、カワマタダイチ~」
「変な歌詞を続けるでないわ!」
振り返ったマーシャが、自分のことは棚にあげ文句を言ってくる。
しばらく、不服そうな目付きをしていたが、ふと何者をも包み込むような慈愛に満ちた目でオレを見つめてきた。
この目だ。この目をしている時だけ、マーシャが冥界で6番目に古い魂であると実感する。
「どうじゃ? 少しは気が晴れたか?」
「すまんな。なんか気を遣わせちまった」
「なに、かまわんさ。
沈んだ気持ちなど、百害あって一利無しじゃ。
それに、お前が落ち込むと、連鎖して落ち込むのがでてくるようになったからのう。
まだ結魂しとらんというのに、仲の良いことじゃ」  
呆れた口調でマーシャが言う。
しかし、今は洒落になってない。
ソレイユの落ち込みが半端ない。
この間、雷と地震を引き起こし、パニックを起こしたオレを、なだめることが出来なかったことで相当落ち込んでいる。
おまけに、目の前でチェリーがオレに正気を取り戻させるのを見てしまった。
ソレイユと仲の良いアイシスの話によると、自分はまったくオレの役にたてていないと、涙目で訴えていたらしい。
実際には居てくれるだけで、かなりの力になってくれているんだけど、たぶん、それを口で言っても駄目なんだろうな。
そういう気持ちは、本人が納得できる結果を出さないと払拭できない。
元々オレが取り乱してしまったせいだ。なにかソレイユが自信を回復してくれるきっかけを探そう。
「しかし、ダイチよ。お前、しばらく見ない間に、ずいぶんとまあ強く、そして不安定になったのう」
「えっとー、申し訳ない」
建物の破壊、職員2名分の仮体損傷。
悪気がなかったとはいえ、お咎めなしになるとは思っていなかった。
精神的にはこっちの方が堪えるから、ある意味罰と言えなくもない。
「責めているのではない。むしろ嬉しく思うぞ。
第一、魂魄の方はピンピンしとったからな。仮体を取り替えてやって、それでしまいじゃ。
役所の方は連休中にカルジャーノたちが直してくれるからのう。
奴め、儂が材料として黄金を産み出してやったら、涙を流して喜んでおったわ!」
うん。たぶん違うよ、ソレ。
……ごめん、カルジャーノ。今度、お酒差し入れるから、
「それにな、ダイチよ。今、お主が不安定なのは成長の過程にあるからじゃ。
現界の人類もそうであろう?
成長時期と多感で不安定な時期とは重なるものじゃ。
だから、次にまた自分の気持ちが不安定になるようなことを感じたら、こう思うと良い。
己は今まさに、成長しようとしているのだとな」
コイツはたまにこちらの心をうつ言葉を口にする。
「……亀の甲より年の功か」
「なんじゃ? チキュウの言葉か。どういう意味じゃ?」
「マーシャ様は、ベッコウノクシガヨクニアウ、オトナノミリョクニアフレタ、素敵な女性だという意味です」
「ハーッハッハ! そうじゃろう、そうじゃろう!
して、途中棒読みだった箇所を感情を込めて言うとどうなる?」
「化石になった亀の甲羅より年期のはいった」
「誰が生きた化石じゃーっ!!」
「グハッ!」
マーシャのアッパーカットをまともに受けたオレは、甲板から吹き飛ばされ、魔力の海に落ちる。
……とは言っても沈むことはなく、船と同じようにプカプカ浮いているだけ。
「フハハハハハッ! ちょうど良い! このまま特訓開始じゃ!」
甲板の縁に立ったマーシャが高らかに宣言した。
魂の始まりの世界であり、魂の帰る場所。
冥界の中には、魂が活動する空間が島のように点在する。
これを活界と言い、大きなものでは、天国界、地獄界、裁断界、転生界、居住界、そして現界等がある。
そう。厳密には、現界は冥界という大きな枠組みの中にある。
ただ、他の冥界の活界とは存在方式がかなり異なる空間のため、たいていの場合、分けて考えられている。
さて冥界の活界以外の場所を冥海と呼ぶ。
もちろん、海とは言っても、ここを埋め尽くしているのは水ではなく、魔力である。
各活界の中にも魔力は存在しているが、その濃度が桁違いで、冥海の方がはるかに濃い。
魔力は魂が存在するのに、必ずしも必要という訳ではないそうだ。
しかしながら、濃い方が活動力を増し、魂によっては魔法という超常現象を起こすことができる。
オレはその冥海に、マーシャ所有の巨大帆船に乗って、クルージングに出て来ていた。
この間、レイラさんが言っていた、連休を利用しての海魔浴だ。
魂を現界の器に入れる転生役所が、連休をとっても大丈夫なのかと思ったが、魂を器に入れるのは、基本的に生まれる前とのことで、前倒しで入れておけば特に問題ないらしい。
オレ的には、役所破壊なんてことをしでかしてしまったので、秘密特訓のようなものを期待していたのだが……。
実際には掲示板で参加希望者を募るなど、職員旅行みたいなものになっていた。
「わ〜しは、マ〜シャ〜、転生界しゅ〜♪」
船首で仁王立ちしたマーシャが、ひとり微妙なメロディーで残念な歌を歌っていた。
ほっとくのも可哀想なので、その微妙なメロディーに合わせて、最高の歌詞を付け足してやることにする。
「そ〜れが、ど~し〜た? オレ、カワマタダイチ~」
「変な歌詞を続けるでないわ!」
振り返ったマーシャが、自分のことは棚にあげ文句を言ってくる。
しばらく、不服そうな目付きをしていたが、ふと何者をも包み込むような慈愛に満ちた目でオレを見つめてきた。
この目だ。この目をしている時だけ、マーシャが冥界で6番目に古い魂であると実感する。
「どうじゃ? 少しは気が晴れたか?」
「すまんな。なんか気を遣わせちまった」
「なに、かまわんさ。
沈んだ気持ちなど、百害あって一利無しじゃ。
それに、お前が落ち込むと、連鎖して落ち込むのがでてくるようになったからのう。
まだ結魂しとらんというのに、仲の良いことじゃ」  
呆れた口調でマーシャが言う。
しかし、今は洒落になってない。
ソレイユの落ち込みが半端ない。
この間、雷と地震を引き起こし、パニックを起こしたオレを、なだめることが出来なかったことで相当落ち込んでいる。
おまけに、目の前でチェリーがオレに正気を取り戻させるのを見てしまった。
ソレイユと仲の良いアイシスの話によると、自分はまったくオレの役にたてていないと、涙目で訴えていたらしい。
実際には居てくれるだけで、かなりの力になってくれているんだけど、たぶん、それを口で言っても駄目なんだろうな。
そういう気持ちは、本人が納得できる結果を出さないと払拭できない。
元々オレが取り乱してしまったせいだ。なにかソレイユが自信を回復してくれるきっかけを探そう。
「しかし、ダイチよ。お前、しばらく見ない間に、ずいぶんとまあ強く、そして不安定になったのう」
「えっとー、申し訳ない」
建物の破壊、職員2名分の仮体損傷。
悪気がなかったとはいえ、お咎めなしになるとは思っていなかった。
精神的にはこっちの方が堪えるから、ある意味罰と言えなくもない。
「責めているのではない。むしろ嬉しく思うぞ。
第一、魂魄の方はピンピンしとったからな。仮体を取り替えてやって、それでしまいじゃ。
役所の方は連休中にカルジャーノたちが直してくれるからのう。
奴め、儂が材料として黄金を産み出してやったら、涙を流して喜んでおったわ!」
うん。たぶん違うよ、ソレ。
……ごめん、カルジャーノ。今度、お酒差し入れるから、
「それにな、ダイチよ。今、お主が不安定なのは成長の過程にあるからじゃ。
現界の人類もそうであろう?
成長時期と多感で不安定な時期とは重なるものじゃ。
だから、次にまた自分の気持ちが不安定になるようなことを感じたら、こう思うと良い。
己は今まさに、成長しようとしているのだとな」
コイツはたまにこちらの心をうつ言葉を口にする。
「……亀の甲より年の功か」
「なんじゃ? チキュウの言葉か。どういう意味じゃ?」
「マーシャ様は、ベッコウノクシガヨクニアウ、オトナノミリョクニアフレタ、素敵な女性だという意味です」
「ハーッハッハ! そうじゃろう、そうじゃろう!
して、途中棒読みだった箇所を感情を込めて言うとどうなる?」
「化石になった亀の甲羅より年期のはいった」
「誰が生きた化石じゃーっ!!」
「グハッ!」
マーシャのアッパーカットをまともに受けたオレは、甲板から吹き飛ばされ、魔力の海に落ちる。
……とは言っても沈むことはなく、船と同じようにプカプカ浮いているだけ。
「フハハハハハッ! ちょうど良い! このまま特訓開始じゃ!」
甲板の縁に立ったマーシャが高らかに宣言した。
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