転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

56話 老魂消却炉

 オレとソレイユは、交流会が行われる部屋の前に来ていた。
 扉を開ける前に、座席表を確認する。
 扉を開けた正面には、かなり大きめの長テーブルが置かれているようだ。
 12神は、そのテーブルを挟むように左右に、6・6に別れて座っている。
 まず、右側。入り口の方から順番に、

 戦女神 カラベラ

 豊穣神 サクリフィシオ

 魔法神 オルター

 海神 ゲハイムニス

 太陽神 カサルティリオ

 北神 カソドス


 次に左側も入り口から順番に、

 錬成神 モージザ

 死神 クラニオ

 旅女神 レンダ

 深緑神ハラファ

 月女神 サラー

 南神 コントラクトゥス


 あくまでも、こいつらは代表だ。ここにいないだけで、こいつらと同格の神はいるに違いない。
 昔はこのメンバーだった奴もいるかもしれないし、これからメンバーに加わる者も出るかもしれない。
 オレがやらなきゃいけないのは、今日のメンバーをなんとかすることじゃない。
 継続的に現界の神との関係を良好に保つ為のシステムとして、この交流会を機能させることにあると、人事部長、神類部部長、交流課課長の話を聞いて思った。


「行くぞ、ソレイユ」

「はい。頑張りましょうね、ダイチさん」


 共に歩んでくれる相手がいるというのは、本当に心強い。       
 重量感たっぷりの扉を開ける。
 途端に中から溢れだしてくる威圧感プレッシャー
 身に襲いかかってくるのは10神分。

 あれ? でも、こんなもんか?
 ……おかしい。感じるのは間違いないのだが、平気だ。
 そよ風に吹かれている気分で、むしろ心地よい。
 なかには、初めてオレに威圧感をぶつけてきたエルブシオン以上に、強い威圧感を感じさせるものもいるのだが……。

 オレは、ふとソレイユのことが心配になり、彼女を見るが、彼女もまったく平気そうに見える。


「大丈夫そうだな?」

「それが……」


 ソレイユは言葉を濁す。もしかして、意外に堪えているのか?


「あ! これ自体は平気です。
 ただ、少しだけ過去の記憶に触れたかもしれません」

「ホントか 」


 こんな時にと言えば、こんな時にだが。


「具体的になにかを思い出した訳ではないのですが、私は以前はこれとは比べ物にならないくらい強い威圧感と向き合っていた気がします」

「……そうか。もしかしたら、これが引き金になって、また何か思い出すかもしれないな。そしたら、また教えてくれるか?」

「もちろん」


 ソレイユが笑顔で答えてくれた。


「おい! 貴様ら! 我らを待たせておいて、ようやく入って来たかと思えば、我らを無視してお喋りか!」


 太陽神カサルティリオが、こちらを怒鳴り付けてくるが、声色にどことなく怯えを感じる。


「ああ、悪い、悪い。こっちはこっちで重要案件だったんだ」

「な、何をぬけぬけと!」

「やめなさい。声が震えていてみっともない。
 だから、ほどほどにしておけと言ったのよ。やり過ぎはこういう大物を呼ぶことになるんだから」

「グゥ〜」


 月女神の言葉に、太陽神カサルティリオがぐうの音をあげる。
 この二人は姉弟の関係にあるそうだ。太陽より月の方が上なんだ。面白いなマタイラ。

 ただいまの言葉には誤解がある。


「あー、月女神サラー殿。誤解がある」


 オレが次の言葉を紡ぐ前に、月女神サラーは驚きの声をあげる。


「ねぇ、聞いた!
 殿よ、殿!
 さっきまで、あたし達を席に案内していた下っ端が、ビビりながらも、偉そうに呼び捨てていたのに!」


 マジか 
 駄目だろ、相手にだって立場があるんだから。
 オレは部屋の隅に並んで立っている職員たちを見る。
 全員が老年の仮体だ。まさに、老魂消却炉の名に恥じぬメンツだ。
 こいつらの意識改革もしなきゃ駄目だな。どうも、自分たちで自分たちの首を絞めていた可能性がある。
 もっとも、こいつらは先に対応係りをやってた魂に指導されたのだろうから、仕方ない部分もあるだろうけど。
 でも自分で考えるのを拒否して、言われたことをやるだけじゃ駄目なんだ。
 それは、生前のオレが証明している。


「えーと、感動してるところ悪いけれど、まずは挨拶をさせてくれ。
 今日付けで、この交流会を取り仕切らせてもらうことになった、転生役所神類部交流課対応係係長カワマタダイチだ。ダイチと呼んでくれ。
 堅苦しいのは苦手なんで、こんな口調で申し訳ない。
 別に貴方たちを軽んじている訳じゃないんだ。
 ただ、できる限り仲良くやりたいだけ。
 なんと言っても、これは交流会だからね。
 交流出来なかったら意味がない」


 こうして、オレの初めての神類部交流会は幕を開けた。

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