転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

54話 対応係

 以下の魂の所属先の異動を通達する。

 魔獸部送魂課送魂先調査係係長
 カワマタ ダイチ
 →神類部交流課対応係係長

 魔獸部送魂課送魂先調査係係長補佐
 ソレイユ・ホーレイト
 →神類部交流課対応係係長補佐

 以上の者の異動に伴い以下の者を昇格とする。
 魔獸部迎魂課調整係
 マッシュ・マーロ
 →魔獸部送魂課送魂先調査係係長
 尚、カワマタ ダイチは新所属部署出勤前に魂事こんじ部に出頭すること。  


「今度は何をしたんですか? ダイチさん」

「人を問題児のように言わないでくれたまえ、ソレイユ君」


 なぜだ?
 調査係では他の部下たちともそれなりに上手くやっていけていたと思うんだが。
 ただ最近、廊下で騒ぎすぎていたという自覚はある。
 しかし、それが原因なら異動の前に注意があってもいいだろう。
 そもそも異動の貼り紙する前に、事前通告しろよ!


「まっ、しょうがないか。ソレイユは先に神類部に行っててくれ。場所はわかるか?」

「はい。案内図もありますから、それは平気です。
 ダイチさん、まずはちゃんと謝った方がいいですよ♪」

「なんもしてねぇつうの!」

「アハハ♪ 
 それじゃあ、私は先に神類部で待ってますね」

「おう。そうしてくれ」


 ソレイユもオレの扱いが上手になってきたな。
 うん。結魂したら、尻に敷かれる自信しかないな。
 ソレイユに先に魔方陣を使わせてから、オレは魂事部付近の転移魔方陣に跳ぶ。


 魂事部のオフィスに入るとすぐに、一番奥の席に座っていた白髪混じりの5本角の壮年男性が、声をかけてきた。


「おお! 君がカワマタ ダイチ君だね。よく来てくれた。
 魂事部部長のブチブチブッチだ。
 ちょっと、ここじゃなんだから休憩室に行こうか。今なら誰も使ってないし」

「へ? え、ええ。自分はどこでもかまいませんが」

「うん。ありがとう。
 あー、神類部から催促が来たら、遅くても11時には向かわせるからって言っておいて」


 ブチブチブッチ部長は、近くの職員にそう指示を出して、オレを促し廊下に出る。
 オレを先導して歩く彼の背中は、とても疲れていた。
 ひと月前の大規模魂事で、この部署は相当忙しかったに違いない。そこの部長ともなれば心労は相当なものだろうな。
 休憩室に入ると、彼は自動販売機から缶コーヒーを2本購入し、1本をオレに渡してくる。


「これ、いいよね。マタイラにはない文明だけど、マーシャ様が他の世界から技術を入手して作ってくれたんだ。
 私みたく、まともにお茶を入れられないおじさんでも、それなりに飲めるものを提供できる」


 そう言って、オレと向い合わせで座る。


「まずは謝らせてくれ。
 連続で事前通告のない形での異動になってしまい、申し訳ない」

「いえ。先月のは所長命令みたいなものでしょ。みんな同じ条件だった訳ですから。
 ただ今回のはちょっと驚きました。事情を説明してもらえるんですよね?」

「ああ、もちろんだ。その為に来てもらった」


 ブチブチブッチ部長が机に頭を打ち付ける勢いで頭を下げてきた。


「ダイチ君! 頼む! 神類部を救ってくれ!」

「へ? 神類部を救う?」


 まったくもって話が見えない。


「昨夜、対応係係長の魂が消滅した」

「え!」

「君はここに来てまだ日が浅いから知らないと思うが、交流課と言うのは神類部、竜類部、悪魔部、異世界部の4つにしかない。
 異世界部の交流課は、各異世界との外交の窓口みたいな部門になるから、とても気の使うところなんだ。
 それに比べて現界に対応する交流課は、かつてはかなりいい加減と言うか、冥界上位の意識が強い課だったんだ。
 現界は元々、冥界の魂が生み出したものだからね。
 だから交流会に同席するのも、楽な仕事と考えられていた」

「過去形ですか」


 ブチブチブッチ部長が深く頷く。


「そうなんだ。千年前あたりから、特に神類部において、交流相手の方が強い魂である場合が増えてきたんだ。
 まぁ、当然だ。マタイラは自然崇拝、魔力重視の世界であるから、強い神になると世代交代なんてことはまずない。

 対して冥界の魂はほとんどが、時と共にすり減り消滅していくから、その度に新たな魂が分魂される。
 新たな魂は、月1回行われる主神12神定期交流会で、現界の強い魂から向けられるプレッシャーに耐えきれず、酷く磨耗する。
 仮体でいうと20歳から、一気に50前半くらいに老ける。
 酷い時だと70歳相等までいった例もある。
 このことから、新魂に対応係をさせることに対して、反対意見が急増した。
 そこで今度は逆に、老いた魂を率先して対応係につかせるようになったのだが、結果、今回のように消滅してしまう案件が出てきた。
 こんな経緯があって、神類部交流課対応係は、いまや老魂消却炉と呼ばれるようになってしまったんだよ」


 ブチブチブッチ部長の声は、すでに泣きそうになってる。


「ダイチ君! 頼む! 対応係のこの悪評を、悪循環を断ち切ってくれ!」


 ブチブチブッチ部長は、今度は本当に強くテーブルに頭を打ち付けた。

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