転生しているヒマはねぇ!
38話 魔界侵攻事件
「それにしても、最近は、なにやら人界がきな臭くなってきているようですな」
「さて? ワシに聞かれても困るな。ここに籠ってもう久しい。
外の様子はノラ殿に聞くといい」
「フズさんは、相変わらずでござんすな。
バリエンテさん、きな臭いと申されやしたが、これまでとそう変わりないでござんすよ。
権力闘争、宗教問題、領土問題。
人界のどこかで必ず起こっている問題でござんす。
それが、多少重なっているというだけでござんすな」
バリエンテは、違うと首を振った。
「ヒト同士のいざこざのことではない。
困るなノラ殿。私が貴殿に力を貸すのは、ひとえに魔界を守る為だ。ヒトが、また魔界に攻め込む理由にしそうなことを隠されては、協定違反と言わざるをえん」
バリエンテの厳しい口調に、ノラが首を竦める。
「あー、もしかして、ソレイユ王子の件でござんすかね?」
バリエンテが難しい顔で頷く。
「そうだ。かの者は、ヒト族の中では、勇者候補として祭りあげられていると申したのは貴殿ではないか。その者の死に関して、私に情報をもたらしてくれないとは、いったいどういう了見か?」
「なんだ。勇者候補が死んだのか。それはお前の所にとって朗報ではないか。目くじらをたてるようなことではあるまい」
エルブシオンの言葉に、バリエンテがテーブルに拳を叩きつける。
「死にかたが問題なのだ! 
ノラ殿、私とて、すべての情報を貴方頼みにしている訳ではない。危険な芽には、遠巻きではあるが、独自に監視もつけている。
王子の死には、暗殺の疑いがあるというではないか!」
「なんだ。お前らがやったのか」
茶化すような発言をするエルブシオンを、バリエンテは射殺すような目で睨みつける。
「エルブシオン殿。貴殿はわかっていらっしゃらないようだから教えて差し上げよう。
人類の、ヒト族の、我らにとって危険な存在とは、死してもなお危険なのだよ!
ヒト族は死んだ者を神聖化し、集団の意思の統一に使用する! 千年前もそうだった‼」
オレに挨拶した時の穏やかさは完全に消え去り、今は全身から怒りを迸《ほとばし》らせている。
「千年前ってなんかあったのか?」
オレは、座る場所を円卓からオレの肩に移したシャーロに小声で尋ねる。
初めは追い払おうかと思ったのだが、妖精を肩に乗せるって、ファンタジーの主人公っぽくね、と思い直し、特別に許してやることにしたのだ。
「うん。千年前にもハイエルフの預言を受けた勇者ちゃんがいてね。大勢で魔界に攻め込んで、魔族を滅ぼしかけた事があったのよ。その時のきっかけになったのが、世界的に人気のあった聖女ちゃんて子が魔族に殺されたことだったのよ」
「濡れ衣だ‼」
聞き咎めたバリエンテが怒鳴る。
シャーロは、咄嗟にオレの背中に隠れた。
「あの頃、魔界には勢いがあった。一人の優秀な魔王によって統一され、長きに渡る繁栄を約束されたようなものだった。
……それを恐れた連中が、聖女の死を魔族のせいと吹聴し、人類を焚き付けたのだ‼」
そう言って、先程エルブシオンにぶつけた視線を、隣の席に座る天使プリサに向けるが、プリサは我関せずという態度を崩さず、黙って正面を見ている。
「あー、話の腰を折って悪いんだけどさ、魔界ってどこにあんの?  地図で見た記憶ないんだけど……」
「ダイチさんが地図で確認したのが人界でござんす。
魔界はその地下深く。結界で隔離されておりやす。
その逆に空高くに結界で隔離された天界があるでござんすよ。
どちらも普通に行くことは困難でござんす」
「へぇ〜、そうなんだ。
あー、それからバリエンテ。
たぶん、今回は千年前のようにはならないと思うぞ。
ソレイユの人気は世界的なものとまではいってなかったみたいだし、国の発表は病死だ。ヒト族自体がこの一件を騒ぎにしたくない証明だな。
それに、ノラがあんたにこの件を報告してないのは、まだ報告できる程のことがわかっていないからだ。
あんただって不確かな情報に振り回されたくはないだろう?」
「……確かにダイチ殿の申される通りだ。
ノラ殿、済まない。私が浅慮であった」
思ったよりも簡単に矛をおさめたバリエンテが、しっかりと頭を下げると、ノラが慌てて首を振る。
「いや、いや、いや!  こちらこそ、そういった事情をきちんと説明しとくべきでござんした。お詫び申し上げやす」
バリエンテに頭を下げつつ、目線でオレに礼を言っていたので、オレも目だけで気にするなと伝えておいた。
「ただ、バリエンテも今回のソレイユの件の真相を知りたいのなら、オレにも協力してもらえないかな?
オレはこれを暗殺事件と考えているけど、今のところ犯人もその目的もわかっていない。
ソレイユに関わること、全てが謎だらけと言っていい。転生役所でも調べは進めているけど、今のところなにも判明していない。
オレが、今日ノラの誘いに乗って、皆に会いに来たのは、もともとその件を調べる為の協力者が現界に欲しいからだ
もちろん、わかったことは、逐一そちらにも報告する」
「おお!  それは願ってもない申し出です。
チェリー殿の盟友であるダイチ殿のお力を借りられるとは心強い!」
……えっと、チェリーへの信頼が高いみたいなんですけど……。いったいなにしたんだ、あの尻軽女?
「あたしも協力する!  噂話を集めるのは得意だよ!
つーか、協力させろ! そんでもって、異世界の話聞かせろーっ!」
「それはいい提案ですな。私も協力させていただきましょう。役所とは別に独自で調べるのなら、私の転移陣は便利ですよ。人界のほとんどの場所に行けますから」
「ふむ、そういった件で、我ら竜族が役にたつとは思えんが、協力できる事があるのなら言うがいい。お前は面白い。力を貸す理由には充分だ」
全員の視線が、最後の一人に集まる。
仕方なさそうにプリサが口を開く。
「私には決定権はございません。
ですが主に報告し、協力するよう命を受ければ協力は惜しみません」
「うん。それで充分」
色々と気になる事がでてきたから、転生役所とは別口で協力者が欲しいところだった。今回のノラの申し出は、渡りに船になったな。
いずれは、こいつらを通じて、ノラとも別のオレ独自の協力網を構築できるといいな!
「さて? ワシに聞かれても困るな。ここに籠ってもう久しい。
外の様子はノラ殿に聞くといい」
「フズさんは、相変わらずでござんすな。
バリエンテさん、きな臭いと申されやしたが、これまでとそう変わりないでござんすよ。
権力闘争、宗教問題、領土問題。
人界のどこかで必ず起こっている問題でござんす。
それが、多少重なっているというだけでござんすな」
バリエンテは、違うと首を振った。
「ヒト同士のいざこざのことではない。
困るなノラ殿。私が貴殿に力を貸すのは、ひとえに魔界を守る為だ。ヒトが、また魔界に攻め込む理由にしそうなことを隠されては、協定違反と言わざるをえん」
バリエンテの厳しい口調に、ノラが首を竦める。
「あー、もしかして、ソレイユ王子の件でござんすかね?」
バリエンテが難しい顔で頷く。
「そうだ。かの者は、ヒト族の中では、勇者候補として祭りあげられていると申したのは貴殿ではないか。その者の死に関して、私に情報をもたらしてくれないとは、いったいどういう了見か?」
「なんだ。勇者候補が死んだのか。それはお前の所にとって朗報ではないか。目くじらをたてるようなことではあるまい」
エルブシオンの言葉に、バリエンテがテーブルに拳を叩きつける。
「死にかたが問題なのだ! 
ノラ殿、私とて、すべての情報を貴方頼みにしている訳ではない。危険な芽には、遠巻きではあるが、独自に監視もつけている。
王子の死には、暗殺の疑いがあるというではないか!」
「なんだ。お前らがやったのか」
茶化すような発言をするエルブシオンを、バリエンテは射殺すような目で睨みつける。
「エルブシオン殿。貴殿はわかっていらっしゃらないようだから教えて差し上げよう。
人類の、ヒト族の、我らにとって危険な存在とは、死してもなお危険なのだよ!
ヒト族は死んだ者を神聖化し、集団の意思の統一に使用する! 千年前もそうだった‼」
オレに挨拶した時の穏やかさは完全に消え去り、今は全身から怒りを迸《ほとばし》らせている。
「千年前ってなんかあったのか?」
オレは、座る場所を円卓からオレの肩に移したシャーロに小声で尋ねる。
初めは追い払おうかと思ったのだが、妖精を肩に乗せるって、ファンタジーの主人公っぽくね、と思い直し、特別に許してやることにしたのだ。
「うん。千年前にもハイエルフの預言を受けた勇者ちゃんがいてね。大勢で魔界に攻め込んで、魔族を滅ぼしかけた事があったのよ。その時のきっかけになったのが、世界的に人気のあった聖女ちゃんて子が魔族に殺されたことだったのよ」
「濡れ衣だ‼」
聞き咎めたバリエンテが怒鳴る。
シャーロは、咄嗟にオレの背中に隠れた。
「あの頃、魔界には勢いがあった。一人の優秀な魔王によって統一され、長きに渡る繁栄を約束されたようなものだった。
……それを恐れた連中が、聖女の死を魔族のせいと吹聴し、人類を焚き付けたのだ‼」
そう言って、先程エルブシオンにぶつけた視線を、隣の席に座る天使プリサに向けるが、プリサは我関せずという態度を崩さず、黙って正面を見ている。
「あー、話の腰を折って悪いんだけどさ、魔界ってどこにあんの?  地図で見た記憶ないんだけど……」
「ダイチさんが地図で確認したのが人界でござんす。
魔界はその地下深く。結界で隔離されておりやす。
その逆に空高くに結界で隔離された天界があるでござんすよ。
どちらも普通に行くことは困難でござんす」
「へぇ〜、そうなんだ。
あー、それからバリエンテ。
たぶん、今回は千年前のようにはならないと思うぞ。
ソレイユの人気は世界的なものとまではいってなかったみたいだし、国の発表は病死だ。ヒト族自体がこの一件を騒ぎにしたくない証明だな。
それに、ノラがあんたにこの件を報告してないのは、まだ報告できる程のことがわかっていないからだ。
あんただって不確かな情報に振り回されたくはないだろう?」
「……確かにダイチ殿の申される通りだ。
ノラ殿、済まない。私が浅慮であった」
思ったよりも簡単に矛をおさめたバリエンテが、しっかりと頭を下げると、ノラが慌てて首を振る。
「いや、いや、いや!  こちらこそ、そういった事情をきちんと説明しとくべきでござんした。お詫び申し上げやす」
バリエンテに頭を下げつつ、目線でオレに礼を言っていたので、オレも目だけで気にするなと伝えておいた。
「ただ、バリエンテも今回のソレイユの件の真相を知りたいのなら、オレにも協力してもらえないかな?
オレはこれを暗殺事件と考えているけど、今のところ犯人もその目的もわかっていない。
ソレイユに関わること、全てが謎だらけと言っていい。転生役所でも調べは進めているけど、今のところなにも判明していない。
オレが、今日ノラの誘いに乗って、皆に会いに来たのは、もともとその件を調べる為の協力者が現界に欲しいからだ
もちろん、わかったことは、逐一そちらにも報告する」
「おお!  それは願ってもない申し出です。
チェリー殿の盟友であるダイチ殿のお力を借りられるとは心強い!」
……えっと、チェリーへの信頼が高いみたいなんですけど……。いったいなにしたんだ、あの尻軽女?
「あたしも協力する!  噂話を集めるのは得意だよ!
つーか、協力させろ! そんでもって、異世界の話聞かせろーっ!」
「それはいい提案ですな。私も協力させていただきましょう。役所とは別に独自で調べるのなら、私の転移陣は便利ですよ。人界のほとんどの場所に行けますから」
「ふむ、そういった件で、我ら竜族が役にたつとは思えんが、協力できる事があるのなら言うがいい。お前は面白い。力を貸す理由には充分だ」
全員の視線が、最後の一人に集まる。
仕方なさそうにプリサが口を開く。
「私には決定権はございません。
ですが主に報告し、協力するよう命を受ければ協力は惜しみません」
「うん。それで充分」
色々と気になる事がでてきたから、転生役所とは別口で協力者が欲しいところだった。今回のノラの申し出は、渡りに船になったな。
いずれは、こいつらを通じて、ノラとも別のオレ独自の協力網を構築できるといいな!
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