転生しているヒマはねぇ!
37話 現界魂
仕事が終わり、ソレイユをオレの部屋に原稿を取りに行くのに付き合わせてから、彼を景観ぶち壊しマンションに送り届けた。
ここは警備システムが、無駄にしっかりしているので、ソレイユの仮の宿として設定された。もちろん、無断外出は禁止。
単独外出も禁止で、オレ、もしくは秘書さんの誰かが帯同することになる。
ちなみに、マーシャと秘書さん5人はこのマンションに住んでいるので、緊急時の対応はやってくれるとのことだ。
窮屈な思いをさせることをソレイユに謝罪したら、生前や魂宿所に比べれば、とても自由だと笑っていた。
ソレイユを送り届けたその足で、オレはまっすぐに冥界新聞社に向かう。
「お待ちしてたでござんすよ、ダイチさん」
受け付けで待っていたノラは、オレから受け取った原稿を受付のおばちゃんに渡す。
「マコさん、それ、明後日分になるから。チョウさんに渡しといて」
ノラはおばちゃんに軽く手を振り、こっちですとオレを地下に続く階段へと誘う。
「申し訳ござんせんが、先方にはダイチさんがどういう立場のお魂か、すでに説明させてもらってやすよ」
「ん。全然いいよ。知られても困ることないし。
ところで、現界の魂って何人いるの?  一人?」
階段を降りながら、右手を開いてオレに見せる。
「5名でござんす。 内訳は―――――」
「ああ、細かいのはいいよ。会ったときの楽しみに取っておく」
「クックック、さすがはダイチさんでござんすな。遊び心に満ちていらっしゃる」
薄ら笑いをうかべるノラに連れられてたどり着いた部屋には、転生役所の現界行き転移魔方陣と同じ魔方陣が描かれていた。
「これって問題ないの?」
オレの質問の意味を理解し、ノラが笑った。
「もちろんでござんすよ。向こうに取材に行くのに、いちいち冥界役所に足を運ぶのは面倒でござんしょ?
冥界主様に、許可をもらって、ここにも設置させてもらいやしたので、違法ではござんせんよ。
もっとも、性能は劣りまして、5箇所の固定座標を登録できるだけでござんす。
ウチではあっししか現界の中で転移魔法を行使できやせんので、ウチの記者たちにこの魔法陣だけで現界中を取材させるには無理がござんしてな。それで、現地の方にご協力頂いてる訳でござんす」
「それが、これから会う5人ということか……」
「はい。今回飛ぶのはそのうちの一人が住んでいるダンジョンですな」
ダンジョン!  世界樹同様、異世界って感じでいいな!
くっそ〜、こういうのを聞くと、やっぱり異世界転生したかったなって思っちゃうな。
ダンジョン攻略……ロマンあるもんなぁ。
「それじゃあ、飛ぶでござんすよ。魔方陣にお乗りくだせぇ」
「はいよ」
オレが隣に立つと、ノラが魔方陣を起動させる。
一瞬で場所が移った。
そこも似たような広さの部屋ではあったが、先程の部屋と違い土と水の匂いがする。
天井部からは鍾乳石が垂れ、魔方陣の周囲には石筍が立っていた。
「こちらでござんすよ」
そう言ってノラは扉を開けずにすり抜けて行く。
オレもそれに続いた。
ゴツゴツとした岩肌が見える通路が、複雑に曲がりくねりながら奥に続いている。
迷路状の通路を、ただひたすらノラについていく。
一人だったら絶対迷ってるな、これは。
数分して、ノラは小型の魔方陣が描かれた扉の前で立ち止まった。
「この部屋には、冥界の魔法がかけられているでござんす。
あっしらを傷つけることまではできやせんが、見たり触れたりはできやすので、お心構えをひとつお願いしやす」
オレが頷くのを確認し、ノラが扉を開ける。
「キャーッ! 本物よ! 本物の異世界冥界人よ! 感動感激だわ‼」
部屋に入るなり、オレの顔に張り付き興奮した様子でしゃべりまくる、なにか。
「あたしは、南東の大陸メリードンの大森林の一画、迷いの森の妖精姫シャーロ‼
貴方には特別に『超絶可愛いシャーロ様』って呼ばせてあげる‼
嬉しい⁉ ねぇ、嬉しい⁉  嬉しいでしょ⁉
嬉しいって言えよ! このハゲ‼」
「薄いだけじゃ、ボケ‼」
オレは顔に張りついていたそれをはたき落とした。
床に這いつくばった羽のついたソレを、ノラが容赦なく踏みつける。
「シャーロさん。あんた、ウチの大事な顧問の方に、いきなりなんてことしてくれるでござんすか?
それに、ダイチさんの髪が薄くなっていくのは、7・8年は後の肉体からでござんす。この頃は、まだふさふさでござんすよ‼」
え? なんで知ってるの? ノラさん? え? え?  え?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 足どけてください! つーぶーれーるーっ‼」
「ほれ、さっさと席に戻るでござんすよ」
ノラが足をどけると、シャーロはふらふらと飛び上がり、部屋の中央に置かれている円卓の空席のひとつに飛んでいく。
とても小さな身体の彼女は、椅子には座らず、円卓に直接座る。
「シャーロさんは、もう自己紹介はいらんでござんすな。
では、バリエンテさんから順にお願いしましょうか」
バリエンテと呼ばれた男は、オレとノラが席に着くのを待ってから立ち上がり、オレに向かって一礼する。
スキンヘッドで、肌が紫なのを除けば、チェリーの仮体に似ている肉体だった。
こめかみの辺りから生えた2本の角。蝙蝠のごとき翼。ムチのようなしっぽ。
「お初にお目にかかる、ダイチ殿。私はバリエンテ。
魔界で魔王の一人として君臨している。
貴殿は、チェリー殿と懇意にしていると聞いた。
チェリー殿には、彼女が現界にいた頃、命を救われた恩がございます。この現界で、なにかお力になれることがありましたら、遠慮なく仰って下さい」
ああ、チェリーは、元々この男と同じ種族ということか。
オレと同じで、現界にいた頃の姿に引っ張られてるんだろう。
それにしても、随分と腰の低い魔王さんだ。
なんかすごい苦労人の香りがする。
バリエンテが椅子に座り、隣に座っていた、キラキラしたブロンドロングヘアーの上に光の輪を浮かべ、背には白い対の翼を持ったおねーさんが座ったまま視線をこちらに向けてくる。
感情を感じさせない冷たい視線だ。
「風神ウェントス様に使える天使プリサと申します」
他にはなにも言うつもりはないとばかりに、オレから視線を外す。
代わりに隣のとんがり帽子をかぶった白くて長い顎髭を生やした痩せぎすの爺さんが口を開く。
「魔術師フズと申す。貴方は異世界で私と同じヒト族であったそうだな。日を改めてゆっくりとお話をうかがいたい」
爺さんが言い終えた瞬間、オレは上からのしかかるような重い圧力を感じた。
グッ。爺さんの仕業か?
いや、違う。爺さんではない。その隣の壮年の男だ。顔がにやけている。
爺さんと同じヒトの姿をしているが、その身体は大きく逞しい。それに瞳が、なんか蛇っぽい。
「ほう、冥界人がオレの威圧に気付くか。ノラの言うとおり、面白そうな男ではないか」
「エルブシオンさん。大事な顧問の方と説明したばかりでござんすが……」
「グワハハハ、怒るな、怒るな。ちょっとした冗談よ」
男が笑うと、途端に身体にかかっていた重圧がなくなる。
「ダイチさん、この方はヒトの姿をとってますが、本当の姿はドラゴンでござんすよ。竜族の方でござんす」
「古代竜五柱が一柱、極炎竜エルブシオンだ」
ドラゴン‼ マジ⁉ やべぇ、本当の姿見てぇ!
顔に張り付きたい
 裸で‼
どんなファンタジーでも、高級素材になるその肌に、直に触れてみたい‼
裸で‼
「な、なんだ!? 急に寒気が!
クッ! まさか、貴様か!?
馬鹿な! 炎をこの身に宿すこのワシに、寒気を感じさせるなど!
な、なんなのだ! この纏わりつくような、ねっとりとした冷気は‼
わ、悪かった。先程の無礼は詫びる!
だから、これをやめてくれ‼ なんかすごい気持ち悪い!」
……ちょっと、想像しただけなのに……。
姿に似合わず敏感な奴だな。
仕方ないので、想像でドラゴンの顔に張りついていたオレに、服を着せる。
どうやら寒気が緩んだらしく、エルブシオンの表情が露骨に和らぐ。
「ちょ、ちょっと、ダイチさん! いつの間にそんな事できるようになったでござんすか⁉」
……妄想の産物です。
テヘペロ♪
ここは警備システムが、無駄にしっかりしているので、ソレイユの仮の宿として設定された。もちろん、無断外出は禁止。
単独外出も禁止で、オレ、もしくは秘書さんの誰かが帯同することになる。
ちなみに、マーシャと秘書さん5人はこのマンションに住んでいるので、緊急時の対応はやってくれるとのことだ。
窮屈な思いをさせることをソレイユに謝罪したら、生前や魂宿所に比べれば、とても自由だと笑っていた。
ソレイユを送り届けたその足で、オレはまっすぐに冥界新聞社に向かう。
「お待ちしてたでござんすよ、ダイチさん」
受け付けで待っていたノラは、オレから受け取った原稿を受付のおばちゃんに渡す。
「マコさん、それ、明後日分になるから。チョウさんに渡しといて」
ノラはおばちゃんに軽く手を振り、こっちですとオレを地下に続く階段へと誘う。
「申し訳ござんせんが、先方にはダイチさんがどういう立場のお魂か、すでに説明させてもらってやすよ」
「ん。全然いいよ。知られても困ることないし。
ところで、現界の魂って何人いるの?  一人?」
階段を降りながら、右手を開いてオレに見せる。
「5名でござんす。 内訳は―――――」
「ああ、細かいのはいいよ。会ったときの楽しみに取っておく」
「クックック、さすがはダイチさんでござんすな。遊び心に満ちていらっしゃる」
薄ら笑いをうかべるノラに連れられてたどり着いた部屋には、転生役所の現界行き転移魔方陣と同じ魔方陣が描かれていた。
「これって問題ないの?」
オレの質問の意味を理解し、ノラが笑った。
「もちろんでござんすよ。向こうに取材に行くのに、いちいち冥界役所に足を運ぶのは面倒でござんしょ?
冥界主様に、許可をもらって、ここにも設置させてもらいやしたので、違法ではござんせんよ。
もっとも、性能は劣りまして、5箇所の固定座標を登録できるだけでござんす。
ウチではあっししか現界の中で転移魔法を行使できやせんので、ウチの記者たちにこの魔法陣だけで現界中を取材させるには無理がござんしてな。それで、現地の方にご協力頂いてる訳でござんす」
「それが、これから会う5人ということか……」
「はい。今回飛ぶのはそのうちの一人が住んでいるダンジョンですな」
ダンジョン!  世界樹同様、異世界って感じでいいな!
くっそ〜、こういうのを聞くと、やっぱり異世界転生したかったなって思っちゃうな。
ダンジョン攻略……ロマンあるもんなぁ。
「それじゃあ、飛ぶでござんすよ。魔方陣にお乗りくだせぇ」
「はいよ」
オレが隣に立つと、ノラが魔方陣を起動させる。
一瞬で場所が移った。
そこも似たような広さの部屋ではあったが、先程の部屋と違い土と水の匂いがする。
天井部からは鍾乳石が垂れ、魔方陣の周囲には石筍が立っていた。
「こちらでござんすよ」
そう言ってノラは扉を開けずにすり抜けて行く。
オレもそれに続いた。
ゴツゴツとした岩肌が見える通路が、複雑に曲がりくねりながら奥に続いている。
迷路状の通路を、ただひたすらノラについていく。
一人だったら絶対迷ってるな、これは。
数分して、ノラは小型の魔方陣が描かれた扉の前で立ち止まった。
「この部屋には、冥界の魔法がかけられているでござんす。
あっしらを傷つけることまではできやせんが、見たり触れたりはできやすので、お心構えをひとつお願いしやす」
オレが頷くのを確認し、ノラが扉を開ける。
「キャーッ! 本物よ! 本物の異世界冥界人よ! 感動感激だわ‼」
部屋に入るなり、オレの顔に張り付き興奮した様子でしゃべりまくる、なにか。
「あたしは、南東の大陸メリードンの大森林の一画、迷いの森の妖精姫シャーロ‼
貴方には特別に『超絶可愛いシャーロ様』って呼ばせてあげる‼
嬉しい⁉ ねぇ、嬉しい⁉  嬉しいでしょ⁉
嬉しいって言えよ! このハゲ‼」
「薄いだけじゃ、ボケ‼」
オレは顔に張りついていたそれをはたき落とした。
床に這いつくばった羽のついたソレを、ノラが容赦なく踏みつける。
「シャーロさん。あんた、ウチの大事な顧問の方に、いきなりなんてことしてくれるでござんすか?
それに、ダイチさんの髪が薄くなっていくのは、7・8年は後の肉体からでござんす。この頃は、まだふさふさでござんすよ‼」
え? なんで知ってるの? ノラさん? え? え?  え?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 足どけてください! つーぶーれーるーっ‼」
「ほれ、さっさと席に戻るでござんすよ」
ノラが足をどけると、シャーロはふらふらと飛び上がり、部屋の中央に置かれている円卓の空席のひとつに飛んでいく。
とても小さな身体の彼女は、椅子には座らず、円卓に直接座る。
「シャーロさんは、もう自己紹介はいらんでござんすな。
では、バリエンテさんから順にお願いしましょうか」
バリエンテと呼ばれた男は、オレとノラが席に着くのを待ってから立ち上がり、オレに向かって一礼する。
スキンヘッドで、肌が紫なのを除けば、チェリーの仮体に似ている肉体だった。
こめかみの辺りから生えた2本の角。蝙蝠のごとき翼。ムチのようなしっぽ。
「お初にお目にかかる、ダイチ殿。私はバリエンテ。
魔界で魔王の一人として君臨している。
貴殿は、チェリー殿と懇意にしていると聞いた。
チェリー殿には、彼女が現界にいた頃、命を救われた恩がございます。この現界で、なにかお力になれることがありましたら、遠慮なく仰って下さい」
ああ、チェリーは、元々この男と同じ種族ということか。
オレと同じで、現界にいた頃の姿に引っ張られてるんだろう。
それにしても、随分と腰の低い魔王さんだ。
なんかすごい苦労人の香りがする。
バリエンテが椅子に座り、隣に座っていた、キラキラしたブロンドロングヘアーの上に光の輪を浮かべ、背には白い対の翼を持ったおねーさんが座ったまま視線をこちらに向けてくる。
感情を感じさせない冷たい視線だ。
「風神ウェントス様に使える天使プリサと申します」
他にはなにも言うつもりはないとばかりに、オレから視線を外す。
代わりに隣のとんがり帽子をかぶった白くて長い顎髭を生やした痩せぎすの爺さんが口を開く。
「魔術師フズと申す。貴方は異世界で私と同じヒト族であったそうだな。日を改めてゆっくりとお話をうかがいたい」
爺さんが言い終えた瞬間、オレは上からのしかかるような重い圧力を感じた。
グッ。爺さんの仕業か?
いや、違う。爺さんではない。その隣の壮年の男だ。顔がにやけている。
爺さんと同じヒトの姿をしているが、その身体は大きく逞しい。それに瞳が、なんか蛇っぽい。
「ほう、冥界人がオレの威圧に気付くか。ノラの言うとおり、面白そうな男ではないか」
「エルブシオンさん。大事な顧問の方と説明したばかりでござんすが……」
「グワハハハ、怒るな、怒るな。ちょっとした冗談よ」
男が笑うと、途端に身体にかかっていた重圧がなくなる。
「ダイチさん、この方はヒトの姿をとってますが、本当の姿はドラゴンでござんすよ。竜族の方でござんす」
「古代竜五柱が一柱、極炎竜エルブシオンだ」
ドラゴン‼ マジ⁉ やべぇ、本当の姿見てぇ!
顔に張り付きたい
 裸で‼
どんなファンタジーでも、高級素材になるその肌に、直に触れてみたい‼
裸で‼
「な、なんだ!? 急に寒気が!
クッ! まさか、貴様か!?
馬鹿な! 炎をこの身に宿すこのワシに、寒気を感じさせるなど!
な、なんなのだ! この纏わりつくような、ねっとりとした冷気は‼
わ、悪かった。先程の無礼は詫びる!
だから、これをやめてくれ‼ なんかすごい気持ち悪い!」
……ちょっと、想像しただけなのに……。
姿に似合わず敏感な奴だな。
仕方ないので、想像でドラゴンの顔に張りついていたオレに、服を着せる。
どうやら寒気が緩んだらしく、エルブシオンの表情が露骨に和らぐ。
「ちょ、ちょっと、ダイチさん! いつの間にそんな事できるようになったでござんすか⁉」
……妄想の産物です。
テヘペロ♪
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