転生しているヒマはねぇ!
14話 マタイラ
「植物に関係するものを中心に話していく訳だが、それ以外の場合でも、絶対にはずせないのは現界の形だな」
そう言って、アイシスはレポート用紙を横向きにし、横の両端を机に垂直にたてた。当然中央が机から離れ盛り上がる。
「アーチ型・・・ですか」
平らじゃないのか・・・マタイラのくせに。
「そうだな。そして、これが透明の球体に収められていると考えてもらうと良いだろう。つまりマタイラは東西南北全て、船で進んでも最後は壁にぶつかる。
こういった造りの世界は珍しい。我らは、57の異世界と取り引きがあるが、ほとんどがダイチの出身世界であるチキュウと同じで、世界自体が球体で自らも周りながら、太陽の周りを回っている。
対してマタイラは、自らは回るが、太陽の周りを回らない。近づく離れるの2つを繰り返すだけだ」
アイシスはそこで言葉を切って、オレを見つめる。
わかっている。アイシスが本当に求めているのは、オレの知識の吸収ではない。
その先。
オレの一人立ちだ。知識を手にするだけではなく、知識を活かせと、アイシスの目が言っている。
生前のオレなら、相手の希望がわかっていても、自分の意見を言ったりしなかったろう。一つの期待に応えたら、さらにハードルの高い期待が待っている。それに応えられなければ、自分だってたいした人間でもないのに、露骨な失望をオレに向けてくる。はっきり言って馬鹿らしい。オレは落ちこぼれのレッテルを貼られたって、平穏無事にやれてたら良かったんだ。
だが、今は違う! オレに期待しているのは、自分の価値観を押しつけてくる偉そうなオッサンじゃない!!
黒髪ショートの美女だ!
どんなにハードルが高くなろうが死に物狂いで越えてやる!
というか、オレはすでにこの女のために(せいで)、一度死線を越えている! 怖いものなど何もない!!
「表面が湾曲していて自転してるということは、日の出日の入りに差が出ますから、当然、時差が生じますね。
例えば、モニター室で9時頃に咲く花を監視してたとしたら、その地点より東の地域ではすでに咲き終えた花、西の地域ではこれから咲く花を、同時にモニターで監視できますから、各地域での咲き方の差異や魂に与える影響などを見比べて記録しておくのも面白いかもしれませんね」
「うむ、そうだな。そういうことも確かにできる」
アイシスが満足そうに頷いてくれる。
心地よいな。この感じ。
「ハッ、当たり前のことを偉そうに」
「・・・あれ? お前、まだ居たの?」
「いたわ! ずっと、いたわ!!」
「マーシャ様。ダイチはつい最近まで、他の世界があることさえ知らずにいたのですよ。
それまでの常識を、・・・自分の思い込みや殻を打ち破るのには勇気と努力が必要なんです。
少なくとも、自分の常識だけで好きなように行動して、マタイラの常識を無視したマーシャ様に、懸命に前に進もうとしているダイチを馬鹿にする権利はありません」
「グッ! す、すいません・・・」
オレに茶々をいれてきたマーシャは、アイシスに完膚なきまでに窘められ、小さい身体をさらに小さくしている。
おおかた、相手にされないのが寂しくて口を挟んできたのだろうが、完全に裏目にでたな。
自己チューのお子ちゃまは、たいへんだな。
それにしても、アイシスは流石だ。
出会った初日から感じていたことだが、アイシスの言葉はオレの魂魄を揺さぶる力がある。
手が早いうえに魂魄を削ってくるから、ほとんどの相手に恐れられるだろうが、一度死線を越えて、魂魄削りへの耐性ができてしまえば、長所だらけだな、アイシスは。
黒髪ショートだし!!
「世界中に季節ごとに咲く花があるってことは、世界全体が、オレが前に住んでたニホンみたいに四季があるってことですよね。太陽に近づいている時が夏、離れている時が冬という解釈で良いですか?」
「ああ、概ね間違いない。地域によって太陽光の当たる角度が違うから、程度の違いはあるがな」
へー。でも、確か太陽の遠近によるエネルギー差は大きくなかったよな。それなのに、2つの運動だけで季節ができるってことは、動く距離がとんでもなくあるってことか。
「なるほど。それと公転はないということは、チキュウのように北半球と南半球のように季節が逆になるような場所はないってことですかね?」
庭園で見たクロスジャミール。あの花の開花時期は春から夏にかけて。気になったので、モニターで原産地である南の大陸も確認してみたら、やっぱり花が咲いていた。つまり北も南も今、同じ季節だということだ。
「その通りだ、ダイチ。よく気付いたな!」
アイシスが満面の笑顔になる。
これだけでも、勉強会を提案した甲斐があるというものだ。
「ま、待て! 同じ世界なのに季節が逆になるような現界が存在するのか!」
全く自分の勉強に集中しないマーシャが、また口を挟んできた。
空気が変わったのを敏感に察したオレは、すぐさま言葉を発した。
「ブチッ!」
「!」
これまでの経験で、自分の身に危険が迫るのを悟ったマーシャは、身を退こうとしたが、アイシスの身長にみあった長い腕は、マーシャを逃がさない。
また、マーシャの身体が宙を舞う!
「マタイラのような世界の方が珍しいつったよな! あんたはダイチと違って、他の世界を勉強する時間はたっぷりあったよな~! あんたが異世界から学ぶのは菓子のことだけか? あー!」
「ギブ! ギブ! ギブ! ギブ!! ギブ!!!」
こんな調子で、時折マーシャの身を犠牲にしたアイシスとのコントで息抜きをしながら、楽しく勉強会をすごした。
そう言って、アイシスはレポート用紙を横向きにし、横の両端を机に垂直にたてた。当然中央が机から離れ盛り上がる。
「アーチ型・・・ですか」
平らじゃないのか・・・マタイラのくせに。
「そうだな。そして、これが透明の球体に収められていると考えてもらうと良いだろう。つまりマタイラは東西南北全て、船で進んでも最後は壁にぶつかる。
こういった造りの世界は珍しい。我らは、57の異世界と取り引きがあるが、ほとんどがダイチの出身世界であるチキュウと同じで、世界自体が球体で自らも周りながら、太陽の周りを回っている。
対してマタイラは、自らは回るが、太陽の周りを回らない。近づく離れるの2つを繰り返すだけだ」
アイシスはそこで言葉を切って、オレを見つめる。
わかっている。アイシスが本当に求めているのは、オレの知識の吸収ではない。
その先。
オレの一人立ちだ。知識を手にするだけではなく、知識を活かせと、アイシスの目が言っている。
生前のオレなら、相手の希望がわかっていても、自分の意見を言ったりしなかったろう。一つの期待に応えたら、さらにハードルの高い期待が待っている。それに応えられなければ、自分だってたいした人間でもないのに、露骨な失望をオレに向けてくる。はっきり言って馬鹿らしい。オレは落ちこぼれのレッテルを貼られたって、平穏無事にやれてたら良かったんだ。
だが、今は違う! オレに期待しているのは、自分の価値観を押しつけてくる偉そうなオッサンじゃない!!
黒髪ショートの美女だ!
どんなにハードルが高くなろうが死に物狂いで越えてやる!
というか、オレはすでにこの女のために(せいで)、一度死線を越えている! 怖いものなど何もない!!
「表面が湾曲していて自転してるということは、日の出日の入りに差が出ますから、当然、時差が生じますね。
例えば、モニター室で9時頃に咲く花を監視してたとしたら、その地点より東の地域ではすでに咲き終えた花、西の地域ではこれから咲く花を、同時にモニターで監視できますから、各地域での咲き方の差異や魂に与える影響などを見比べて記録しておくのも面白いかもしれませんね」
「うむ、そうだな。そういうことも確かにできる」
アイシスが満足そうに頷いてくれる。
心地よいな。この感じ。
「ハッ、当たり前のことを偉そうに」
「・・・あれ? お前、まだ居たの?」
「いたわ! ずっと、いたわ!!」
「マーシャ様。ダイチはつい最近まで、他の世界があることさえ知らずにいたのですよ。
それまでの常識を、・・・自分の思い込みや殻を打ち破るのには勇気と努力が必要なんです。
少なくとも、自分の常識だけで好きなように行動して、マタイラの常識を無視したマーシャ様に、懸命に前に進もうとしているダイチを馬鹿にする権利はありません」
「グッ! す、すいません・・・」
オレに茶々をいれてきたマーシャは、アイシスに完膚なきまでに窘められ、小さい身体をさらに小さくしている。
おおかた、相手にされないのが寂しくて口を挟んできたのだろうが、完全に裏目にでたな。
自己チューのお子ちゃまは、たいへんだな。
それにしても、アイシスは流石だ。
出会った初日から感じていたことだが、アイシスの言葉はオレの魂魄を揺さぶる力がある。
手が早いうえに魂魄を削ってくるから、ほとんどの相手に恐れられるだろうが、一度死線を越えて、魂魄削りへの耐性ができてしまえば、長所だらけだな、アイシスは。
黒髪ショートだし!!
「世界中に季節ごとに咲く花があるってことは、世界全体が、オレが前に住んでたニホンみたいに四季があるってことですよね。太陽に近づいている時が夏、離れている時が冬という解釈で良いですか?」
「ああ、概ね間違いない。地域によって太陽光の当たる角度が違うから、程度の違いはあるがな」
へー。でも、確か太陽の遠近によるエネルギー差は大きくなかったよな。それなのに、2つの運動だけで季節ができるってことは、動く距離がとんでもなくあるってことか。
「なるほど。それと公転はないということは、チキュウのように北半球と南半球のように季節が逆になるような場所はないってことですかね?」
庭園で見たクロスジャミール。あの花の開花時期は春から夏にかけて。気になったので、モニターで原産地である南の大陸も確認してみたら、やっぱり花が咲いていた。つまり北も南も今、同じ季節だということだ。
「その通りだ、ダイチ。よく気付いたな!」
アイシスが満面の笑顔になる。
これだけでも、勉強会を提案した甲斐があるというものだ。
「ま、待て! 同じ世界なのに季節が逆になるような現界が存在するのか!」
全く自分の勉強に集中しないマーシャが、また口を挟んできた。
空気が変わったのを敏感に察したオレは、すぐさま言葉を発した。
「ブチッ!」
「!」
これまでの経験で、自分の身に危険が迫るのを悟ったマーシャは、身を退こうとしたが、アイシスの身長にみあった長い腕は、マーシャを逃がさない。
また、マーシャの身体が宙を舞う!
「マタイラのような世界の方が珍しいつったよな! あんたはダイチと違って、他の世界を勉強する時間はたっぷりあったよな~! あんたが異世界から学ぶのは菓子のことだけか? あー!」
「ギブ! ギブ! ギブ! ギブ!! ギブ!!!」
こんな調子で、時折マーシャの身を犠牲にしたアイシスとのコントで息抜きをしながら、楽しく勉強会をすごした。
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