転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

12話 提案

 消滅しませんでした!
 でも、仕事中に回復した分がなかったらマジ、ヤバかった。
 生前の死ぬ瞬間を思いだしかけた。あれはいただけない。

 ただ、これで良かったって思えることもある。
 アイシスとのことだ。消滅を乗り越えたせいか、お互いに打ち解けることが、できた気がするんだ。
 恋ではないが、つり橋効果に近いかもしれない。
 つり橋を渡ったのはオレ一人だったけど……。
 ともかく、おかげでこの2日間は充実したものだった。
 アイシスはとても面倒見よく、監視をする時の注意点、報告書のより良い書き方、他の課や他の部の監視課との連携の取り方なんかを熱心に指導してくれた。
 たまに、熱心過ぎて殴られたが、1日2発以内に収まったのでセーフだ。もちろん、痛いことに変わりはないので、殴らないでくれるのが一番だが、アイシスだからな。消えちまうとわかってて、勢いで殴っちまう奴だからな。
 うん。2発は許容範囲内としておこう。
 それは良いとして、せっかく打ち解けてきているので、今日オレは、アイシスに一つお願いというか、提案をする予定だ。
 もちろん、仕事関連のことだ。
 決して黒髪ショートを心行くまで愛でさせてくれといったものではない。そんなこと言おうものなら、今度こそ消滅するまで殴られる。


「おはよう、ダイチ」

「おはようございます。アイシス補佐官」


 アイシスは、出勤が早い。
 今日は気合いを入れて30分前出勤をしてきたのに先着できんとは……。マーシャに、アイシスの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。アイツは堂々と遅刻していたからな。


「アイシス補佐官。今日はお願いと言いますか、提案がありまして……」

「あ、あれか! もちろん、殴らんように努力するぞ。ただ、勢い余ってというのがあってな……」


 急にモジモジし始めた。この予想外のリアクションは無茶苦茶可愛かった。しばらく、堪能したかったが、話が進まなくなるので我慢する。


「いえ、それは期待していません」

「なんだと! キサマ!!」

「グハッ!」

「あっ!」


 い、いつも通りのリアクションでも話が進まんとは、さすがアイシス。


「それでですね。話なんですが。今後のことなんです」


 アイシスに気の済むまで謝らせた後、オレは気を取り直して仕事に関しての提案を始める。


「私もそのうち、補佐官無しで一人立ちすることになる訳ですが、今後一人でこの仕事を続けていくには、圧倒的にマタイラに対する知識が足りないと思うんです。図書館からは歴史書なんかを借りてはいるのですが、できれば、必要な知識を優先して覚え、急ぐ必要のない知識は後回しにしたい訳です」

「ほぅ、なるほどな。効率よく学ぶために、最初から必要な部分をピックアップした参考書、もしくは教師役が欲しいということだな」

「まさにその通りです」


 さすが、武闘派とはいえ秘書課に席を置く者だ。察しが良い。


「わかった! ならば僭越ではあるが、教師役は私が務めさせてもらおう。早い方が良いな。それでは、今日丸一日、植物の監視官を勤めるうえで必要な、マタイラの知識の勉強をするとしよう」

「へ? いいんですか?」


 教師役はしてくれると思っていたが、まさか丸一日潰して学習時間にあててくれるとは予想外だった。
 アイシスの協力的な姿勢がとても嬉しいので、休日を利用しての勉強会―――――という名の、デートを期待していたことは秘密にしておこう。


「ああ。正直なところ、私も運営省の仕事を、他の秘書課の連中にカバーしてもらって来ているからな。ダイチが少しでも早く一人立ちしてくれるのは望むところなんだ。課長の許可も問題なく貰えるだろう。長い目でみたら、仕事に必要な知識を、先に身につけておく方が有益だからな」

 むぅ、やはり間接的にとはいえ、プルルさんにも面倒をかけてしまっていたか……。新人とはいえ少し悔しいな。


「しかし、ダイチからそういうことを言ってきてくれて、私は嬉しいぞ。お前は知恵はまわるのに、受け身というか、言われたことだけやって、自分で考えて仕事をするのを放棄しているように感じたからな」


 グハッ! よく見てるな。
 まあ、仕方ないだろう? オレ程度が頑張ったって、たいした成果がでるわけじゃないし、言われたことだけを淡々とやってだ方が無理なく平和に過ごせる。
 いい結果だそうとすると、必ず誰かと揉めるだろ? 出る杭は打たれる的な感じで。そういうの嫌なんだよね。
 下手に上手くいったら、今度は実力以上に期待されて、後でがっかりされるのが目に見えてるしさ。

 今回は、まあ特別だ。特別。
 こんな近くに、自分を良く見せたい相手がいるからな。
 本人には言わないけど。
 照れくさいのもあるが、なんとなく殴られる気がするから。

 下心って奴はいつだって男を突き動かす原動力さ。

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