転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

1話 転生界

「あれ? 君、ここで何してんの?」
  

 いやいやいや、ここで待ってろって言ったのはあんただぞ!
 言葉を話せないオレは、魂を大きく揺らすことで盛大に文句をアピールする。

 掃除道具を手に部屋に入って来た、2本の角を額から生やした黒い肌のおっさんは、どうやらオレの言いたい事を理解したらしく、あれ? といった感じで首を傾げた。


 チキュウという世界のニホンという国で、当たり障りのない生き方を30年以上続けていたオレは、事故に巻き込まれてあっけなく死ぬ。
 魂だけの存在となり、気がつけば転生界と呼ばれる場所にたどり着いていた。
 そんなオレを出迎えたのは、黒いスーツに身を包んだ赤鬼。
 赤鬼の説明によると、この世からあの世にたどり着いた生物の魂は、本来であればこの世でいう裁判所のような所に行き、天国行きか地獄行きかを決定するらしいが、あの世にたどり着く魂の量が裁判所のキャパを大幅にオーバーした為、善行も悪事もたいしたことのないほとんどの魂は、この転生界で、来世の順番待ちをさせることになっているらしい。

  
「ああ、でも君は違う世界とトレード予定だから。
 知ってるでしょ? 異世界転生。アレね。
 あそこの大きな門が並んでるうちの、36番て書かれている門をくぐって。
 くぐった先で、あっちの転生界の担当者いるから、指示に従ってね。じゃ、よろしく」


 扱い軽ッ!
 とも思ったんだけど、異世界転生って現世で流行ってたからさ。興味あったんだよね。
 そんで意気揚々と門を潜ったわけよ。
 そこにいたのが、いま目の前にいる黒いおっさん。
 でも、なんか実際に魂を肉体にいれる係が忙しくってすぐに来れないから、ここの転生界の役所内にあるこの部屋で待っててくれって言ったんだよ。

  扉閉められちゃってさ、魂だけになってたから、文字通り手も足も出ないわ、声もでないわで、オレはただひたすらにこのおっちゃんが戻って来るのを待ってた。


「……うーん、おかしいな。数が足りなかったなんて話は聞いてないけどな。ちょっと、待っててね」


  オレは再び、ひとり取り残されたが、おっさんは今度はすぐに戻って来た。その手には分厚い紙の束があった。おっさんはその紙束とオレとを何度も見比べる。


「うーん、いつ来たのかなぁ? まぁ、ここにいたってことは、色も形も変わってないんだろうけど」


  正直なところ、どれくらいここで待たされたのかわからない。この部屋に時計はないし、腹は減らなければ、眠くもならないので、時間の感覚が鈍いんだ。
 ただ、相当な時間が経過してるのは間違いないと思う。別に辛くはなかったけどさ。


「あ、これかな。色と大きさは同じだよね。えーと、出身世界はチキュウで、こっちに来たのは……!」

  
 黒いおっさんの顔がみるまに青くなっていく。


「申し訳ない 」

  
 それは見事なジャパニーズ土下座だった。

コメント

  • 黒澤伊織

    予選通過おめでとうございます!

    1
コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品