「悪役令嬢」は「その他大勢」になりたい
パトリックとベアトリス
「噂に聞いていたウインチェスター侯爵令嬢は血も涙もないなんて、やっぱり噂は噂ですね」
「そ、そうかしら、お褒めにあずかり光栄ですわ」
何がどうなってこうなったんだろう、と気持ち的には放心状態だった。ヤヨイがパトリックを紹介してくれるという手はずだったのが紹介だけして、なにやら工場長のミシェルに呼ばれ席を外してしまい初対面の男と二人で顔を突き合わせるという奇妙な構図になってしまった。普通に考えてしんどいものがある。
フラグがどこで立つかわからない以上あまり二人きりでいるのは得策とは言えなかった。手を出されることはないにしても惚れましたって描写があったらもうベアトリスの負け戦だ。ヤヨイの言う通りハーレムエンドなんてことになりかねない。そんなメンタルに優しくないエンディングはごめん被る。
「ありがとうございます、俺の友達を助けてくれて」
「慣れない土地で大変だろうと思っただけですわ、あなたこそすぐに彼女を助けてあげて立派ですわね」
「そんな、俺はたまたま俺より年下の女の子が大変そうだったから」
これで下心がありましたといえば簡単なのだが、悲しいかなこれは乙女ゲーなのでそういう不純な胸キュンとはちょっと方向性が違うものがある。パトリックの行動はあくまでも善意なのだ。
「でも嬉しいな、俺、あなたと話せる日がくるなんて思ってなかったですから」
あーーーーーーー、フラグ不可避だった遅かった。やはりいい人認定された時点でもう遅かったのだろう。悲鳴をあげそうなのを何とかこらえてどうしてですのと問いかけた。
「俺、あなたより綺麗な人なんて知らないんです。けど俺は工員だし、あなたは貴族だしって。噂もあったし。ただヤヨイに親切にしてくれて、優しい人なんだって」
「過大評価ですわ、同じ状況で同じことをする人はほかにもいるはずですもの」
「侯爵令嬢に言う話でもないけど、平民には貴族嫌いも多いですから難しいですよ。天涯孤独とはいえヤヨイだって辺境伯令嬢なんだし」
「あなたはヤヨイを助けたじゃありませんの」
「でもあなただって手を差し伸べた。俺にはできないことをやってくれたでしょう?」
だめだ、何やっても墓穴を掘るような気がする。もう黙ってるしか方法がないんじゃないのかとベアトリスは笑顔をひきつらせた。どうして自分は初対面の男の子にこんな高評価をうけているんだろう、と。おかしい、なんかもう、なにかって、何もかもがおかしい。ヤヨイはなにしてるんだ早く帰ってこいと内心思う。
「身分違いなのを承知でいいますけど、貴女みたいな人がいるだけで俺の明日が明るくなるようなきがするんです」
「まあ、パトリックってばお上手ですのね、おほほほほほ」
やっとこさ戻ってきたヤヨイを睨みつけてみると「うまくいった?」といわんばかりにいい笑顔を返された。
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