異世界転生してハーレムルートなのにヤンデレしか選択肢がないんだが?

守村 肇

07 閑話・そういやあいつらのホワイトデー





「オーグレス様、これ私たちからです」


「わあ、ありがとうございます!嬉しいなあ」




 一応、顔もポジションも人当りもいいし戦闘さえしなければマトモなオーグレス、もといロスに好意的な女性は多い。
 宮仕えのメイドたちなんかはまさにそうで、近しいイケメン良いわよねみたいな子からあわよくば抱いてはもらえないかという子からなんとか恋人になれないかという子まで様々居る。主人公よりチーレム待遇?あーあ―聞こえなーい。


 まあそんなわけであるからして、大量にチョコレートを貰うのが恒例な彼もまたホワイトデーに悩める一人だった。この世界でのホワイトデーは基本的には花を返せばいいけれど、生憎戦闘狂いの彼はラフレシアとカスミソウの違いもわからないくらい花を見る目がなかった。花は花じゃん?である。


 店員に任せてもいいけれどせっかく好意でくれてるのだから少しは自分の頭で考えなくてはという良識も一応持っている。センスがないだけで。冷たく見えることもあるが基本的に身内には優しいしそれが女性ならなおさら丁寧に接しようという気持ちがある。センスがないだけで。




「(いままでは悩みっぱなしだったけど、今回は相談相手もいるし…)」




 そうやって彼が意気揚々と向かったのは、事務局……つまりリトのところであった。




「リトさん!お暇ですね?」


「なんで断定してからはじまるっすか!」




 転生事務局は基本的には多忙だが、部門や役職によっては多少の浮き沈みがある。リトの所属するデータ管理部門は転移・転生者の登録とその後の生活のサポートを含めた異世界人の監視なので大事になりそうななにかがなければ基本は平和的だ。そしてその安寧が崩れるというのはそれこそマツリカやウタキのレベルなのである。暇ではないが忙しくもなかった。




「珍しいっすね、なにか御用っすか?」


「ホワイトデーが近いのでお返しを用意しようと思っているんですが、なにぶん僕はセンスがないので。リトさんは女性からよくアプローチされてるしもしかしたらお詳しいかなって」


「ああ……そういえば先月は地獄でしたね……」


「地獄?」




 お忘れの方もいるだろうから改めて言っておくとリトは女性恐怖症だ。エレーナやティタニア(あとほぼ強制的に)フィーアとはなんとかなっていたものの、クレオは男の娘だからいいけどクレアはダメだったりロッタ―ルにびくついていたり、とにかく女性が苦手だった。




「本編ではとくに言及されないしヘタレキャラだから気にされてないでしょうけど綺麗な顔してますもんね!」


「顔褒めるの1に対してけなしてくるの2ってどうなんすか?喜べないっすよ?」




 挿絵がないからしかたないけど、と不満そうに言うリトの顔はまあ整っている。庶民派からすればちょっとそこらに居ていいレベルの顔ではないのはたしかだ。普段はしゃべり方や少々気弱なところも相まってギャグ路線のことが多いものの顔だけはよかった。


 そしてその顔のせいで彼は昔からよく苦労した。自分のあずかりしらぬところで女の子がバチバチして、それに巻き込まれて、名前もしらない女の子が恋人だみたいなはなしになって、また違う女の子が現れて。


 経歴だけならラブコメ主人公も真っ青だった。




「だから俺に相談されてもよくわかんないっす、花でいいとおもいますけど」


「可哀想すぎて腹も立たないイケメンがいるんだなと再認識しました」


「パキラがいるから寄ってくる女の子へったっすから感謝してるっす」


「獣を虫よけみたいに使うんじゃないよ」




 肩の上でジト目でそういうパキラだが、なるほどなとロスは思う。
 ヴァニキソスはその希少性もあって謎が多いが、その中の一つに飼い主以外には容赦なく襲い掛かる、というのがある。いくらリトがそばに居ようとヴァニキソスがいたのではと敬遠する子がいるのだろう。まあ類を見ないほど賢く理性的な子の生き物が軽々と襲い掛かるとはとても思えないが。




「うーん、困ったな。僕本当に花とか分かんなくて。昔、綺麗だと思って紫陽花を送ったら泣かれたことあったし、何が駄目なんだろうって、実用性かなってハエトリグサあげたら怒られたし、去年なんかは大輪が立派だったのでラフレシアを用意しようとして陛下に止められたり」


「それはセンスで片づけていいんすか?人間やめてません?」


「だってゼラニウムとかカスミソウって儚いじゃないですか。敵将の首くらいのインパクトになるとどうしても」


「なんでお返しのイメージが首なんすか……?」




 さすがのリトでも「本気かこいつ」みたいな顔をした。美的感覚に文句を言いたくは泣けれどさすがにこれはどうなんだと言わんばかりである。




「薔薇とか百合とかいい匂いで大ぶりな花とかにしたらいいじゃないっすか、やっぱいい匂いの花のが貰ったら嬉しいでしょうし」


「なるほど!においとかは気にしたことがありませんでした」




 それでラフレシアってまじかこいつ。である。まあロスさんだしな、とリトはため息をついた。
 後日、ロスが選んだ花がエリューニスだと聞いてリトは再度頭を抱えたのだった。




「本編で不穏だった花よく送る気になるっすね!!??」


「番外編なので」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品