異世界転生してハーレムルートなのにヤンデレしか選択肢がないんだが?

守村 肇

76 正解できたからって救いがあるわけじゃない





「それ、どういう・・・意味かな」


「そのまんま、だってアリアドネちゃん俺のことぜんぜん見ないじゃん」


「なにそれ、自意識過剰だよ」


「普通ならね。でも俺は勇者だし、きみは魔王だろ」




そこまで言うとはっとして、やっと俺をまっすぐ見た。といってもいつもの「あなたを殺して永遠に私のものに」みたいな湿っぽい目線じゃない。ヤンデレ要素が一切ない目線っていうのはエレーナで確認済みだ。だからアリアドネちゃんが俺をじめっとした目で見てこないのはおかしい。たとえ、魔王のルートのほうが強制力が働くんだとしてもそれなりの齟齬がおきるはずだ。たとえば、クレオがバグの話をしたときに、その目線が俺じゃなくタカミツ先生を思い描いていたときみたいに。




「体が男の子かなとも思ったけど、ロッタさん明確に娘って断言してたからな。娘なんだろうけど」


「・・・なにがいいたいの」


身体いれものが女の子だけど、なかみは男なんじゃないの?」


「ええっ!?」


「ま、魔王でもそんなことあるのね?」


「聞かない話ではないが、魔族にもあるのかそういうのが?」


「えっ、ううーん、アタシは聞いたことないけどお、あるのかもお?」




俺の予想が正しければ、アリアドネちゃんは俺のルートにならないから俺はここでどうにかして決着をつけるなり調停するなり方法を考えなくてはいけないわけで。いや、よかったんだけどね、だって魔王のヤンデレとかどうあがいても絶望な感じするじゃん?だからよかったんだと思うことにした。振り出しに戻っちまったとか考えるのはやめる。




「んでもって側近のアルバートくんが知らないとも思えないから」


「・・・それを知っていたからって、なにが変わるんです?」


「君の目線が気になる」




じっとりした湿っぽい目線。フィーアやティタニアさん、姫様やクレアと同じ目。
でもそこにあるのは執着を含めた殺意じゃないのが気になる。




「たぶん君もなかみが女の子とか、あるいはどっちでもないとかなんだろ。そんで魔王のルートに入ってるから俺に影響はしない。しないけど無関係ともいかない。なんせ「女の子」だからな」




女の子であれば無条件に。
それが俺に下されたルートだったはずだ。最初から詰んでる。もうこれ以上どうしようもなくて、どう頑張ったってなんか殺されそうな監禁されそうな食われそうな空気になるって決まってる。もし俺に執着しないのであれば男か、もっと強いルートに組み込まれてるかのどっちかでしかない。




「君は魔王のために働かなくちゃいけないとかそんなルールがあるんだろうな。魔王に当たる前に勇者を蹴散らすのとかも役目として含まれてるかもしれない。でもきみは女の子だからそれはできない」


「知ったような口を・・・っ」


「ヤンデレってのはな」


「・・・」


「自分のためにしか、好きな相手を殺せねえんだよ」




瞠目。絶句。脱力。
ぺたんと座り込んだアルバートくんをことさら驚いたようにアリアドネちゃんは見下ろした。




「あ、アルバート?戦わないと、立ってよ、ねえ」


「・・・ごめん、アリアドネ、できない」


「なんで、よ、ねえ」


「だって僕は固定役職持ちじゃないから。ルートの強制力に従うしかない」


「・・・あんたのルート、なんなの」




アルバートくんの手を握りながらアリアドネちゃんは俺たちを睨む。






「勇者で、ハーレムルートなんだけど、ヤンデレしか選択肢がない、ってところかな」

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