別にこれはいつも通りで

松葉 楓

1年生 秋 第3話


教室に戻ると男子はもう全員更衣室に移動していて、教室では女子何人かが既に着替え始めていた。
それにしても、今日は暑い。
お昼を過ぎたばかりで午前中よりも更に暑さが増していた。
こんな日にグラウンド…2周……
私は小さくため息をつく。

まあでも2周ならまだ良い方か…と強い日差しを手で押さえながら見ていると、斜め後ろで楽しそうに話していた3人の会話がなんとなく耳に入ってきた。


「早く11月にならないかな」

「11月になったら一気に文化祭シーズンだもんね」

「そうそう、高校生の文化祭っていろいろイベントあるって聞いてるからもう楽しみで楽しみで」

「修学旅行と並んで高校生活で一番楽しい行事じゃない」

「そうそう」



私は体操着に着替えた後も廊下を歩きながら考えていた。
高校の文化祭…か。
私はあまり学校行事が得意ではなく、中学の文化祭でも良い思い出が無かった。
文化祭に限らず、修学旅行や校外学習などでも良い思い出がない。
昔からとにかく学校行事というものが苦手だった。
そして、未だこのクラスに馴染めているとは言えない私には、高校の文化祭というものは大きな不安でしか無かった。
私はまた小さなため息をつき、私の心とは真逆で眩しいぐらいの外を横目で眺めた。
ちょうど外からは時計が見え、時刻は13時15分を指していた。
13時15分…

「あ…」

13時15分…⁈
考え事をしてゆっくり歩いていたからか、いつの間にか授業開始まであと5分を切っていた。
まずい、気づかなかった。
私は慌てて廊下を走った。
教室からグラウンドって意外と遠いんだよな。1年生の教室5階にあるし。
廊下を走り、階段を駆け下りる。
走る前に走ってどうすると自分でツッコミを入れたくなったが、とにかくグラウンドまで走った。
階段を駆け下り始めると、まだまばらながら他の生徒がいて、教室に戻る生徒達、未だはしゃいでいる生徒達、そして制服姿の恐らく1年の他のクラスの人達が何人か同じ方向に進んでいた。1年何組か分からないけど、移動教室か。
そんな事を思いながら彼らを横目で追い越して、私は上手にすり抜けて行く。

「あ…」

5階、4階、3階と上手くすり抜けて、
3階と2階の間の階段を駆け下りていると、良く知っている後ろ姿を見つけた。

あれ、5時間目って…
あっ、確か…

「あっ、4組つぎ化学の授業か」

「そうだよ」

ほんの十何分か前に食堂でまた後でと言ったばかりで、また会えるとは思いもしなかった。
また後での後がこんなに早いとは。 

「化学かいいな…あっ、そうだ急いでるんだった。じゃあ5時間目も頑張って!」

「ああ、お前も体育頑張って。じゃあ、また放課後」

「……あっ、うん、放課後にまた!」

遅刻するなよー。と半分笑いまじりに後ろから声が聞こえ、当の本人は2階にある化学室へと向かい歩いていった。
私も急いでグラウンドへと向かった。


…まあ、毎日一緒に帰ってはいるけど、放課後にまたと言う言葉が、私はちょっと嬉しかった。
そう、ちょっとだけね。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品