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開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第38話 開拓惑星の夫婦同一職制

 入植式の賑わいの中、第1次マゼラン船団西部船団の昭和丸と平成丸、第1次マゼラン船団東部船団の明治丸と大正丸、それぞれの船団の随行警備船4隻づつ8隻が出航式に備えて、駿河市の港に停泊している。
 計画では、第1次マゼラン船団で、駿河市から比較的近い半数の重点開発地域を訪問することになっている。駿河市は、かつての開拓地No.01-01-0001を設置した場所を基準に、北緯34度東経138度ぐらいの場所にある。第1次マゼラン船団西部船団は駿河市を基準に西へ経度90度分を担当し、第1次マゼラン船団東部船団は駿河市を基準に東へ経度90度分を担当する。重点開発地域に指定されていた街は、各地区ごとに1ヶ所で全体で50ヶ所ある。例えば、開拓地区No.49の重点開発地域が大和連合の駿河市で、開拓地区No.48の重点開発地域が大東亜連合の上海市となっている。第1次マゼラン船団では、西部船団と東部船団で、それぞれ12ヶ所の重点開発地域を訪問する予定だ。


 ちなみに、この開拓惑星に到着した母船である恒星間播種船が母星の日本という国が幹事国になって建造された関係で、地名のなどの固有名称の命名規則は、日本とその周辺国にあった都市名や歴史的な地名をもとにしていることが多い。開拓地区No.49の場合には、初期に入植した第一世代のリーダーの姓が都市名になっていることが多いが、他の開拓地区では、バラバラなようである。開拓地区No.48にある街などはリーダーが変わったことで名前を何度か変更していたりする。短いとはいえ9~10世代ほど世代交代しているはずなので、その歴史もさまざまである。


 新たに大和連合の議長になった駿河孝太郎が、新しい時代の幕開けだと声高らかに第1次マゼラン船団の出航を宣言すると、クラッシックな母星のアニメーションのテーマソングをブラスバンドが演奏し始め、2つの船団はゆっくりと船出した。船は、駿河湾から外洋に出たところで帆走を開始した。遠く富士山を眺め、必ずここに無事に帰ってくることを、決意を新たにした。


 第1次マゼラン船団西部船団の最初の目的地は、大東亜連合の上海市である。昭和丸の最高速度であれば天候にもよるが4~5日で到着する予定だ。その後、南第一大陸を1周した後、大南海を横切って北第一大陸の南西部を目指し、北第一大陸に沿って東進して帰国する予定になっている。


 最初の日の夕方、昭和丸の船長になった戸田夫妻とともに4人で夕食をとった。
「こうして同じ船で、食事をするのも久しぶりですね。」
「前回は琉球震災の視察の時だったから、もう5年近く前なるな。」
「前の戸田丸より、昭和丸はいい船だ。足が速くて安定しているのがいい。」
「政変がなければ、計画を立案した私達が直接交渉に出向くこともなかっただろうがねえ。」
「戸田丸で伊達市などに交渉に出かけた頃には、使えなかったものが普通に使えるようになっているだけでも、立派な成果さ。だが、一郎はやってはいけないことを一つやってしまった。それが致命的だったと俺は思う。」
「確かに、仕事に失敗して貧しくなった人もいるが、最低限は保証されているだろう。」
「そうじゃない。経済の自由化で、家族の在り方を変えてしまったのが犯罪なんだよ。」
「家族の在り方?」
「経済の自由化で職業選択も自由化された。そこまではいい。でも、一般の人の家族観というのは、学校卒業した時の夫婦を生涯のパートナーとして、同じ職場で同じ仕事をして、同じ時を過ごし、ともに助け合っていくというのが、理想だったんだよ。職業が自由化され、結果として、夫婦が別の職場になることも少なくなくなり、夫婦が同じ時間を過ごせなくなったことを恨まれたのではないか? 特に女性が産休で職場から離れたり戻ったりした時に夫婦が同じ職場で補完し合っているというのは重要なことだったんだよ。実際元の職場に戻れずに所得が減った女性は多い。生活時間の差で離婚の発生件数も増えたっていうじゃないか。」
「産休関係は法律で権利として保証していても、慣行でしかない夫婦同一職は保証できないからなあ。駿河孝太郎は、希望すれば夫婦同一職を保証できるように公約したようだな。もっとも、経済界を中心に反対する意見も多い。私自身六花に支えられてきたのを感謝している。夫婦同一職制もあっても良いが、それで個人を縛ってしまうのも違うのではないか? いくら学校でのカップリングで同じような能力や同じような志向で篩い分けられてフィルタリングされているとはいっても、夫婦とはいえ異なる個人で能力も異なるのだから、個人の能力を評価しようとすると歪みが出てくる。一緒に学んで育って、価値観を共有できるカップルというのは理想だ。けれど、それは誰かが強制するものではない。個々のカップルの問題であって、社会で強制するようなものではない。そういった社会の状況の変化に気が付くかどうかが問題だったのだが、保守層を中心に現実を認めたくない人も多かった。まあ、この航海を終えて駿河市に帰る頃には、何らかの結論が出ているだろう。」
「個人の自由を優先するのも限度というものがある。公共の利益が無視されたり、人間関係の和が壊れたりするのは問題だ。」
「とりあえず、若い連中には広い世界の可能性というものを夢見させてあげたい。この航海も、その一端だ。」


 時とともに変わる物事もあれば、変わらない物事もある。変わって欲しくない物事が変わってしまった場合、その反動も大きい。





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