開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第32話 開拓惑星の冒険家

 近年になって鉱物資源の鉱床が見つかりだしたのは、冒険家と呼ばれる人たちの功績が大きい。周辺探索チームは、公的に防災目的で生物資源や地理を調査していたのに対して、冒険家は私的に未到達ポイントへ到達したり、ボーリングマシンを携えて地下資源を調査していたりしている。


 未到達ポイントへの到達については、冒険記録を刊行するのが目的だ。風景写真集など、娯楽読み物の人気分野の一つになっている。


 地下資源を調査については、ハイリスク・ハイリターンの賭博のようなものだ。テラフォーミングの隕石による降下物や、火山噴出物の下にある地層を推定して、ボーリングして確定していく過程で、温泉を掘り当てたり、有用な地下資源を見つたりしている。
 この星にもプレートテクトニクスによる地殻変動があり、地震もある。隆起する土地があれば、川に侵食される土地もある。結果として、自然に特定の鉱物が集積された地層や地域がある。衛星軌道からの調査では、隕石による降下物や、火山噴出物が邪魔して、こうした鉱物資源を半ばあきらめていたところがあったが、実際に地上で生活して、ボーリング調査してみれば、あるところにはあるのが地下資源である。近年になってやっと利用可能な鉱床が見つかりだしたというのが実態である。


 駿河市が幸運だったのは、当初、隕石による降下物でできていると思われたクレーターの外輪山の一部で古い地層が剥き出しになっていたことである。もともと隆起して山があった土地に隕石が落下してクレーターができたということのようだ。発掘した隕石以外に鉄などの金属資源こそなかったが、伊豆と名付けられた南東の半島には、熱水鉱床が隆起した地層が発見され、錫、タングステン、銅、亜鉛、鉛、金、銀などの鉱物が採掘可能だった。採掘が開始されると、白金、イリジウム、ロジウム、パラジウムを含む鉱床も発見された。重化学工業が勃興しつつある背景には、こういった資源が使えるようになったことがある。


 こうした成果がある一方で、一部の例外を除いて冒険家の社会的地位は低い。クレーターの外輪山の内側で成果を出していた時代は良かったが、調査対象がそれよりも外側になり、かけたコストに対して成果が乏しくなってくると、労働の義務を果たさない反社会勢力とみなされるようになってきている。最近では、未到達ポイントへの挑戦者のみを冒険家といい、それ以外を山師として分類するようになった。もっとも、山師は詐欺で処罰されることが多くなり、数を減らしつつある。地下資源の探査を公的に周辺探索チームが行いだしたことも、山師の衰退に拍車をかけている。


 六花が最近販売された山岳写真集を買ってきた。小川誠二という冒険家が3年かけて撮影した富士山の景色と、富士山からの景色の写真集だという。富士山から碁盤の目のように広がる駿河市を撮影した写真のページを見ながら、六花は言った。


「こうして見ると、駿河市も広いね。」
「そりゃ、東西南北40km四方ぐらいあるからね。現在でも拡大中だしな。」
「でも、湿地になっている川の西側や、これから開発する焼津の方にしか簡単に開発できそうな平地がないんだよね。」


 ページをめくると、海から昇った太陽と、その下の海上に浮かぶ黒い点、手前に広がる緑の大地という構図の写真になっていた。
「きれいな日の出だね。これは何処だい?」
「ちょっと待って……富士山の西側だって。撮影日は……この黒い点だけど、戸田丸みたい。陸から見るとこんな風に見えてたのね。」
「あの日は、朝焼けに染められた富士山がきれいだった。」
 隣に地図を広げて、ここがこう見えるのかと、二人で写真を楽しんだ。


 数日して、六花が執務室の壁に、富士山西側から見た日の出の写真を飾った。
「戸田丸が写っているから飾ったのかい?」
「それもあるけれど、問題は手前の陸地です。ここに街を作ってみたいと思ってね。」
「……本気かい?」
「川があって水利があるそこそこ広い平地。貨物船でゆっくり行っても一晩で着く距離なのもいいでしょ? 伊達市の南300km以上離れているから駿河市で開発しても問題ないでしょう。伊達市は鉱山狙いで街の北側の土地の開発を狙っているしね。」
「私は、開拓地No.49-89-0001の跡地か、そことの間にある平地を考えていたんだけれど、こっちにするのかい?」
「交易のことまで考えると、こっちでしょう。博多市や琉球市は遠すぎる。」
「じゃあ、周辺探索チームに調査を依頼しておこう。焼津と違って陳情があったわけではないから議会への根回しが大変そうだなあ。開発に10年はかかるだろうしな。」
「でも、次の夢にとしては実現可能なものでしょ?」


 こうして、私たち夫婦は別の夢に歩きだしたのだった。





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