開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第33話 開拓惑星の大陸東岸事情

 投入する人的資源や建設資材の量をめぐって、紆余曲折はあったものの、新たな開発計画は承認され、実行に移された。
 3隻目の貨物船となる下田丸が進水すると、焼津に向けて重機や資材が搬送されるようになった。今後5年間ぐらいで用水路と10km四方を開拓し、その後は需要と人口増加に応じて拡大していく予定である。
 富士山の西側の地域は小田原と名付けられ、周辺探索チームのベースキャンプと港の建設が開始された。資源の調査結果次第だが、当面は今後10年間で用水路と10km四方を開拓することを計画している。計画が認められた背景には、交易を推進していくのであれば、駿河市と伊達市の間に避難港が欲しかったという理由がある。


 季節が巡り、焼津への資材搬入が一区切りつく頃には、ヒマワリの花が咲く時期になっていた。駿河市は、同僚の沼津長太郎夫妻を団長にして、下田丸で博多市と琉球市に交易交渉団を派遣した。函館市や伊達市と同じく、お互いに商館を建てることと、繊維製品の輸出が決まった。博多市からは鉄などの鉱物資源と石灰石などが輸入され、琉球市からは香辛料の類が輸入されることとなった。博多市と琉球市は、数年前から大陸東岸の街のいくつかと既に交易を始めていたそうである。ただ、現在使用している30m級の船では海難事故が多く、交易で得られる利益と危険とを比べると、採算が合わないそうだ。


 沼津長太郎は、残念そうに私に報告してきた。
「大陸東岸の街はどうなっているのだい?」
「どこもあまり変わらないようだが、産業革命以前の状態になっているそうだ。」
「やっぱり、資源と物流の問題か?」
「農業には成功して、広大な農地を開拓して、人口もそこそこあるそうだ。しかし、その人口を支えられるほどの物流が発展していなくて、資源の偏在で重工業を維持できなかったようだ。産業革命以前の広大な自給自足の農村が広がっていると考えた方がいい。」
「商売はできそうか?」
「やり方次第かな。繊維製品や工業製品を売って、手工業的な工芸品……美術品や、鉱物資源を買うことになりそうだ。」
「生産量の問題もあるから、当面は、博多市と琉球市に売れる分で出荷量を抑えて、博多市経由で必要な鉱物を買った方がよさそうだな。」
「基本的な交通網ができて、資源の産出場所と資源の加工場所、資源の消費地などが結ばれて、連携できるようになるまでは、発展は難しいだろう。将来的な市場規模自体は大きいけれど、工業製品を普及させるだけの物量と、物流がなければ難しいだろう。」
「教育水準や文化資源なんかはどうだい?」
「一部を除いて、最低限の読み書き、計算ができるだけのようだ。人口密度が低い農村ということもあって、文化資源にも期待できない。まだ、博多市と琉球市の方が期待できる。」
「……そうなのかい。ひどいなあ。」
「食べていくだけで精いっぱいだから仕方なかろう。勉強する時間があったら働けというのが実態のようだ。」
「民度も低いということか?」
「そもそも治安維持ができていない。大陸東岸の街同士は個人レベルでの小規模な交易がおこなわれているそうだ。数こそ多いが、流通量は少ない。そのうえ、海賊や山賊の跋扈でリスキーなものになっている。海難事故といわれているものには、海賊による被害も含まれているようだ。」
「物騒な話だね。」
「生産性が低くて、貧しい地域だからなあ。下手にこちらから繊維製品を輸出すると、産業革命後のインドのような状況になりかねない。支配階層が、ここでなら普通にできる生活水準を実現するために、何万人も犠牲にするなんて悪夢だねえ。」
「変な野望を持った支配者が攻め込んでくる前に、街同士で同盟を組んで警備した方がいいって事かい?」
「犯罪者は、犯罪者の欲望に従って、勝手に攻めてくるものだよ。攻めることで得られる富がそこにある限り、非武装中立なんて絵に描いた餅だろうねえ。」
「金食い虫の軍隊を再発明して、軍艦や巡視艇を再発明するなんて悪夢だなあ。」
「備えあれば憂いなしだよ。街同士の連合と海上警備の強化は、内容はともかく、必要だ。」
「……支配下に入れて、せっかく投資して発展させても、19世紀から20世紀にかけての世界大戦と植民地の時代の朝鮮半島のように逆恨みされてもつまらないからなあ。」
「豊かになったらなったで、その富を以前のように独占したがる指導者が出てきて、独立しようとするのは歴史が証明している。」
「情報収集を継続して、警備強化を議会に打診、とりあえず弧状列島内の街同士の連合の協議を開始ってところか……ふぅ。」


 世知辛い世の中だ。







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