開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第26話 開拓惑星の船出

 新規の農地の拡張が、終わったばかりということもあって、港の拡張と長距離大量輸送可能な大型船の建造については、大きな反対はなかった。
 港の拡張については、既存の部分については、水揚げ作業の効率化を図るように整備しなおしたうえで、従来の30m級の漁船を2倍の隻数の漁船が停泊できるように拡大した。追加で拡張した部分に100m級の船を複数取り扱える岸壁とドックを整備することになった。これまでの規模の3倍となり、工期は5年かかった。
 船は、70m級の2本マストのスクーナー型機帆船を2隻建造した。長距離の運用を前提にしているため、補助的なものだが、帆走可能にしている。19世紀から第二次世界大戦ぐらいの時期に使われていた船種に似たデザインだ。1番船が貨物用のプロトタイプで戸田丸と名付けられ、2番船が漁船の母船として使うための機能を拡充した清水丸と名付けられた。




 計画立案から7年経った。その間に私達夫婦の間に子供が一人増え、その子が学校に通うために巣立っていった。私の相談によく応じてくれていた長老夫妻は、戸田丸の進水を見送るように亡くなった。「これからの新しい時代を頼む。」というのが、最期の言葉だった。街の住民のほとんどが血縁者か教え子だったこともあり、街は悲しみに静まり返った。一つの時代が終わった瞬間だった。


 戸田丸は、進水してから1年かけて船員の訓練と船の性能試験を繰り返してきた。前回の航海では、漁船団の母船として活躍し、遠洋でカツオの類やマグロの類を漁獲して、街の話題になっていた。今月初めに進水した清水丸の本格運用に期待が高まっている。


 戸田丸の次の航海では、いよいよ開拓地No.49-86-0001や開拓地No.49-87-0001に出かけていくことになっている。最後に通信してから80年以上も経っている。街同士の交流は今まで行われていなかったので、相手方の街がどんな状況になっているのかはわからない。願わくば、発展していて、交易可能な状態であって欲しいものである。


 外交使節団の代表には私達夫婦が指名された。この計画を推進しているうちに、六花の両親が駿河市の市長になったこともあって、計画を率いてきた私たち夫婦が適任とされたようである。
 港に停泊している戸田丸に荷物が積み込まれて行っている。燃料は満載で、帆走も併用すれば、10000kmぐらいの航続距離は期待できる。2ヶ月分の水と食料を積み終え、現在は交易品が積み込まれている。持っていく交易品についてはいろいろ議論されたが、木綿、絹、麻といった繊維製品と、日本酒や焼酎などの酒類、醤油などの調味料類、過去100年間に作られた本などのコンテンツを持っていくことになった。だぶついていても無駄にならないものをという配慮である。もっとも、メインは私が持っていく市長の親書と、交易可能な産品のリストと、欲しい産品のリストだったりする。


 戸田丸の船長は、戸田吾郎と鱒子の夫婦である。鱒子は、清水丸の船長になった清水夫妻の鮎の妹になる。
 出航を明日に控えて、簡単な宴会を行った。市長である義父と、漁業組合の組合長である鮎・鱒子姉妹の父親の二人が、宴会開始の音頭を取った。


「戸田丸も、清水丸もいい船だねえ。組合員たちの期待が大きい。ご祝儀相場だったが、獲れた魚も好評だ。」
「相手次第だが、交易で新しい物や情報が得られて街が活性化できるといいねえ。」
「駿河市の発展に乾杯!」


 戸田丸の船長夫妻にエールを送る。
「吾郎船長、明日から長い航海になりますが、よろしくお願いします。」
「鱒子さん、どんな街か楽しみね。一郎ともどもよろしくお願いします。」
「吾郎、無事に帰って来い。本当は俺が行きたかったんだがなあ。義父に次期組合長だから、清水丸でリーダーをとれと言われたら、仕方ない。」
「鱒子、吾郎さんを支えてしっかり大役を果たしてきなさい。」


「船で見知らぬ土地に行ってみたいというのは、船乗りなら誰もが一度は夢見るものだからな。一郎達のおかげで、夢がかないそうだよ。」 
「母星の大航海時代の物語のように1回の航海で巨万の富が得られるなんて夢のような話はないが、何か新しいものがあるだろうから、それが楽しみだ。少なくとも、新しい歌とか、本とか、料理とか、技術とかはありそうだからなあ。」


 年長者は捕らぬ狸の皮算用をし、若手は夢と未来を語りつつ、夜は更けていった。
 翌日、晴天の中、多くの市民に見送られて、戸田丸は出航した。





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