開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第18話 開拓惑星の料理事情

 露地栽培のトマトが黄色い花を咲かせ始めた頃、睦月が食事会に使っている大食堂を貸して欲しいと言ってきた。明日の午後に女性だけのお茶会がしたいそうだ。定期開催しているお食事会を引き継いで、そのままお茶会にするので、会場設営等は問題ないとのことだったので、了承しておく。菓子の差し入れをしてあげるので何人ぐらいになるか教えてくれと言ったら、言いにくそうに開拓地の女子22名全員だという。私が責任者として知っておくべき話題があったら教えてくれるように頼んでおく。


 お食事会を定期開催しているのは、住民間の親睦を図る目的と、希少な食材をできるだけ平等に消費するためである。今回のメインは鶏である。鶏に限らず、肉は供給が少なくて希少だ。あと2年もすれば、供給量が安定して、割当量の範囲で自由に消費できるようになるだろう。製塩プラントが稼働し始めたことで、にがりに含まれるミネラルが自由に使えるようになったことで多少改善できるかもしれないという報告が上がっていた。鶏は、唐揚げと鶏がらスープを使ったスープ料理1品にすると聞いている。ちなみに、調理担当は、献立を決めた私と、持ち回りの当番と、希望者で男女関係なく割り当てている。睦月が献立を決めた時も希望者枠で調理に参加しているので、私はほぼ毎回調理に参加している。今回の献立は睦月が決めた。


 一般的なレシピは、母船から配信されたものがあるので、レシピそのものは多いのだが、食材や調味料の都合で作れないものが多い。香辛料関係は露地や温室で栽培しているので、使える種類は多い。希少なのが、卵、肉、各種のミルクと、一部の調味料である。調味料については、鰹節や昆布といった『だし』をとる食材がないのが痛い。キノコだって培地となる素材の関係で現状では大量生産が難しい。代用となる必須アミノ酸系の化学調味料は、発酵プラントが稼働し始めたことでテスト生産を開始したばかりである。


 食事会の後片付けを遠江太郎と伊豆一樹が手伝ってくれた。お食事会には感謝していて、お食事会の日程で周辺探索チームのスケジュールを決定しているところがあるそうだ。彼らは、外部でキャンプすることも多いので、持ち運びできる食材が限られていることもあって、食事事情が悪い。


「古い時代の古いレシピなら、応用可能なものがあるが保存性優先で、味は二の次だったりする。母船が出発した頃の比較的新しいレシピだと、材料がそろっていなくて作れないない料理が多い。」
「自分たちで、新しいレシピを開発するしかないか。」
「良かれと思って工夫すると、不評で怒られる。」
「あるある。それで喧嘩して、相手に料理番を押し付けたりしてね。」
「おいおい。家庭争議の仲裁なんて仕事を増やさないでくれ。」
「報奨金で釣るにしても、その報奨金で買えるものって、賞味期限切れ間近の余剰食糧とか、余剰生産品だから、どうなのかねえ。」
「他の家庭がどうしているのかわからないが、うちは持ち回りなんで、それなりに料理をするが、下手に工夫すると、不味いだけだから、才能が必要だろう。誰か得意な人いないかねえ。」
「駿河さんとこの一花さんや一郎さんは、一人で地上にいたときにそれなりに工夫したんじゃないのか?」
「たまに母船では見かけない料理が出たりするだろ? あれが成果だよ。」


 共通の話題となると、担当している仕事の話か食事の話になるけれど、結局、無いものは無いから工夫するしかないという結論になる。


 差し入れ用にガレットを焼いていく。10cm角ぐらいに畳んで、桃と洋梨とトマトの冷やした缶詰を開けて実を適当な大きさに切って、それぞれ別のガレットの上に置いていく。色味の調整にミントを添えておく。名づければ、『余剰缶詰のガレット風』だ。差し入れを作ったので、取りに来るように睦月に連絡する。


 一花を先頭にうちの4人が来たので、手伝って運んでしまう。お茶と料理が全員にいきわたったのを確認して、会場と食器の片づけをよろしくと去ろうとしたら、一花に拘束されて、強制参加させられた。


 一花によると、料理を口実とした喧嘩が増えてきているそうだ。
「そんなに料理に問題があるのかい? 畜産関係とうま味調味長関係は、無いものは無いから、関連担当部署の努力に期待するしかないよね。使えるもので、できる範囲で何とかするしかない。少なくともうちは、みんなの意見を聞きながら、いろいろ試しているよね。」
 リーダーがこれだからと、一花が立腹する。
「私や一郎は、一人で無い無い尽くしのところで去年苦労したから、今年の方が物が豊かなのを実感できている。料理もそれなりにできている。けれど、みんながそうとは限らない。」
「睦月や、弥生、卯月だって料理ができてるじゃないか。」
「あれは、背に腹は代えられないから、私や一郎と一緒に料理しながら必死に勉強したからできているだけで、特別なの。感謝しなさい。」
「一花を基準にしてた。ごめんなさい。私の場合、最初に一緒に暮らしたのが一花だったから、他の人も一花ぐらいには料理ができると勝手に考えていたようだ。」
「料理なんて、苦労して自分でやらないと覚えないからね。調理済みの料理の配給が当たり前だった母船組には辛かったみたいよ。」
「それで、限られた材料で不味い料理の毎日で、喧嘩かあ。料理教室でもやればいいとかいうレベルの話なのかい。今まで問題が発覚しなかった方が驚きなんだが。」
「ご飯に魚の塩焼きにサラダか果物ぐらいで、胡麻化していたみたい。医療責任者として栄養状態や食事の状態を把握しておくべきでした。」と睦月が萎れる。
「いい機会だから、研修会を企画する。情報共有は必要だし、他にも不満がありそうだからな。一花と卯月、睦月と私の分の仕事を3日ほど肩代わりしてくれ。睦月と私で研修会の内容を検討する。」


 後日行った研修の一部として、料理教室をしたが、料理ができる人とできない人との差があまりにも大きく、料理ができない人には、包丁の持ち方や野菜の皮の剥き方から、実習する必要があった。たかが料理、されど料理……自分で勉強してやってみないと身につくものではない。


 研修後、うちの家族が仲良くやっているのを見られたらしく、男性陣から、一人のパートナーでも大変なのに4人も抱えて仲がいいなんてと尊敬され、コツを教えてくれという相談が地味に増えた。



「開拓惑星の孤独」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く