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開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第10話 開拓惑星からの報告

 朝食が終わった後、一花さんが持ってきたデータと証言から、開拓地No.49-89-0002の被害報告と、一花さんの生存報告と、開拓地No.49-88-0001への移住申請……と母船に対する申請や報告書を二人で作成していく。彼女は、時折情緒が不安定になって涙ぐんでいるが、これからここで一緒に暮らしていくには必要なことだからと叱咤激励して、私が書類に記入していく。彼女は、一緒に暮らすということに特別な感情と憧れがあるようで、昨日の残りのじゅくじゅくした甘柿を食べながら、泣いたり、笑ったり、怒ったり、百面相で忙しい。ただ、「一郎君に責任取ってもらうんだからね。」と繰り返し呪縛してくる言葉が重い。責任といっても食事を食わせて寝場所を提供した以上のことはしていないのだが、ペットを飼うなら最期まで責任をもって飼えと言わんばかりに、これから私にいろいろしてもらうつもりらしい。私にも付き合っていく覚悟が必要になりそうだが、その負担を内心楽しみにしている自分に気が付く。後悔しないように二人のペースを探りながらのんびり付き合っていきたい。お互いに誰かと一緒に暮らすなんて経験に乏しいので苦労はするだろうが、その苦労に今まで憧れてきたのだ。


 開拓地No.49-89-0002から数km離れたところに今回の洪水でも水没しなかった高台があったそうだ。最初から開拓しなおすことになるが、温暖で開拓可能な広大な平地というのは無視できない。実際、これまでの収穫実績はここと同じぐらいで良かったようである。度重なる洪水で失われたことが悔やまれる。


 昼食は朝食の残り物で済ませて、彼女の開拓地No.49-89-0002からここまでの冒険談を聞く。衛星写真から予想されていたことだが、山からすぐに海になっていて、ボートで上陸できるような海岸は少なかったようだ。日が暮れるまでに上陸地点を探して上陸し、朝になったら船出して東に向かうということを繰り返して、やっと昨日ここについたのだという。ボートを陸揚げして、テントを張って夜を過ごしたはいいが、潮の満ち引きを見誤って、朝になって起きてみたらテントの側まで波が来ていたなんてことが何度かあって怖かったと涙ぐむ。彼女が撮影した上陸地点周辺を映像を見ても、海岸と山との間が1~2kmほどしかない場所が多く、効率がいい開発ができそうもない。私は、話を聞きながら彼女のタブレット端末に記録された行動記録を参照してレポートにまとめていく。彼女は最後に撮影した山の写真を指さして、「前に写真を見せてもらったけれど、やっぱり、きれいな山だよね。この山を見た時の私の気持ちわかる?」と微笑む。何日も移動して、前日に食料を食べ尽くして空腹になったそうだから、私にとっては見慣れた山であっても彼女にとってはさぞや嬉しかっただろう。


 レポートを作成し終えてたら、話したいことは話したとすっきりした顔で、一花さんがお茶にしようと提案してきた。
「まだ、ほかにも柿あるよね?」
「ああ、全部食べちゃったんだ。ちょっと早いけれど、夕飯ついでに別のものにしよう。そんなに柿が好きなの?」
「好きというより、私にとって特別なものになったという感じかな。」
「じゃあ、まとめた書類を確認しておいて。適当に作ってくる。」
 冷蔵庫から塩漬けしたマスと餡子と餅を取り出して、『ニジマスの塩焼き』と『善哉』を用意する。
「覚えていてくれたんだ。」と嬉しそうに彼女が舌鼓を打つ。


 母船に報告書を送信して、オペレーターを呼び出す。しばらくして、いつもの女性のオペレーターと見知らぬ男性のオペレーターが通信画面に現れた。
「あらためまして、開拓地No.49-88-0001担当の駿河睦月です。隣は元開拓地No.49-89-0002担当の名古屋芳春です。」
「駿河一郎君、初めまして。一花さん、無事で良かった。」
隣にいた一花さんが不安そうに私の腕に抱き着いた。
「私の開拓地、無くなっちゃいました。ごめんなさい。報告書にも書きましたが、一郎君のところで暮らしたいです。」
駿河睦月さんが複雑な表情で話を続ける。
「上に報告して、明日以降に今後の計画変更を含めて連絡することになります。一花さん、今更、何もない開拓地に戻れとは言いませんので、安心しなさい。」
「本当ですか?」と、一花の表情はパッと華やぐ。
「開拓地No.49-89-0002の消失が確認された時点で、次の入植時期に開拓地No.49-89-0002に入植する予定の人員を開拓地No.49-88-0002に入植させる予定になっています。確実に仕事は前倒しになって、増えますので覚悟しておいてください。」
「男女のカップルで暮らすとなるといろいろ問題が出てくると思いますが、二人でどうにかしてください。」


「ところで、ここからはプライベートな話になります。」
 睦月さんが、深呼吸した後、覚悟を決めた険しい表情で話し出す。
「ここだけの話ですが、入植後、私は一郎さんと、芳春さんは一花さんとカップリングする予定になっていました。そのために専任のオペレーターになっていたのです。残念ですが、こうなった以上は、一郎さんと一花さんをカップリングさせることになります。ほかの入植予定の人員のカップリングは一部を除いて既に済んでいますのであきらめてください。恋愛の自由なんて私たちの世代にはないのです。私たちには地上で人口を増やすことを期待されています。恋愛の自由なんて、私たちの子供の世代以降の特権です。」
「僕の方は、一花は亡くなったものとして、別の娘とカップリングして、明日、担当者がいなくなった再開発の開拓地に降下することになっています。最後にもう一度会えて良かった。一郎君、一花のことは任せた。いい子だから幸せにしてやってくれ。」
「芳春さん、ご心配かけました。今まで、ありがとう。」
一花の返答を聞くのを待たずに逃げるように芳春さんが姿を消す。


「一郎さん、いいかしら? 一郎さん恋しさに押し掛けた一花さんには申し訳ないけれど、一郎さんと一花さんをカップリングすると、私が余ってしまうのよ。開拓地No.49-88-0001が健在な限り、私が担当であなたが現地の最高責任者だし、私だってあなたのことを好きになっていたのよ。こんなことになるなら、さっさと情報公開しておけば良かったわ。この浮気者、責任取ってよ。」
一花さんと睦月さんに、じっと無言で見つめられる。二人の圧力に負けて「……はい。3人でよければ……」と答えるしかなかった。
「一郎さんが、側にいる一花さんと仲良くなるのは仕方がないけれど、睦月がいることも忘れないでね。こまめに連絡すること。睦月だってあなたと会えないと寂しいんだからね。」
「一花さん、私はあなたともいい友達になりたいの。私はあなたの味方です。一郎さんに何かされたら連絡しなさい。私から叱っておきます。」
「あと、二人に言っておきます。オペレーターと開拓者とのカップリングについては、当事者であるオペレーターから情報公開することになっています。他言無用に願います。」


 一花さんの生存報告だけで済むと思ったら、待っていたのは修羅場だった。





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