開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第7話 開拓惑星の母船からの便り

 水田の3分の1にあたる早生米の収穫が終わった。あと数週間したらに晩生ともち米も収穫する予定だ。堆肥と家畜用に利用する予定の稲わらの山が夕日に照らされて、赤く染まっているのが見える。今日の作業結果を眺めつつ、宿舎に戻る。
 新米による香り豊かなご飯と、養殖しているニジマスの塩焼きと、とろっとしたカボチャのポタージュが今晩の夕食だ。大きな災害に見舞われなかったことに感謝して、食事をいただく。


 月が昇る時間帯になると、母船からメールが届いた。この星に降りてから6か月の統括と、激励であった。もう半年たったのだなと、今まであったことを思い出す。
 開拓地は、陸地の面積と気候条件の都合で、北半球に900ヶ所、南半球に300ヶ所ある。南半球では冬であったこともあり、大きなトラブルは無かったそうである。赤道付近にから亜熱帯地域では風水害で大きな被害が100ヶ所で発生しており、温帯以北でも20ヶ所発生していた。被害が酷かった30ヶ所については、開拓地を放棄して、新しい場所を追加で開発し始めたそうである。近所にも被害が出ているところがあるので、身につまされるところがある。
 人的被害も大きく、赤道付近にから亜熱帯地域と風水害があったところを中心に120名の犠牲者が発生している。原因は、水難事故による行方不明が60件、事故による死亡が30件、残りが調査中だそうだ。水難事故については、川や海に調査に行ってそのまま行方不明になったり、水害で行方不明になったものである。うちのところは水槽で養殖をしているのでまだ必要がないが、そうでないところでは水辺の生物資源の調査をしたところも多く、慣れない水辺での作業で事故が多かったと推論されている。それ以外の事故については、高所からの転落事故や、機械に巻き込まれた事故である。残念なことだが、ロボットや大型の機械を使っている以上は、何らかのトラブルに巻き込まれることがある。私も気を付けたい。調査中のもののうち、熱中症や食中毒で自滅したと推測されるところが10ヶ所あったことから、衛生管理と熱中症対策について改めて注意喚起されている。明日は我が身である基本対応を見直しておこう。 念のため、問題が発生した開拓地うち開発を継続するものについてには医療と生物の専門家を含む男女2名づつの4名のチームがそれぞれ派遣されたそうである。一人で活動している以上は、病気などの体調不良で倒れてしまうと、発見が遅れてロボットによる救助対応で対応できないと死につながる。複数人による対応が必要とみなされたのであろう。まだ、未知の感染症が発症した可能性があるとの調査結果が判明していないのが救いである。夢半ばに亡くなった仲間に、哀悼の意をささげたい。


 私たち開拓者の共通の夢は、派遣された開拓地が発展し、街になり、寿命を全うして、この地上で生まれた子供たちによって看取られることである。私たち、母船で生産されて派遣された第一世代には、親なんていない。しいて言えば、母船の教育AIが母親といえる。No.49とラベルが張られた同じ保育ゲージで遊んだことがあるという知り合いこそ何人か思い出があるが、促成教育課程になってから隔離されていたこともあって、あまりよく覚えていない。作られた記憶かも知れないが、楽しかったことだけは覚えている。だからこそ、成功して再び仲間に囲まれ生きていくことに憧れている。あと2年半、無事に開発が進めば新たな仲間が母船から降下してくる。その日のために現在を頑張ることにしたい。


 私たちの教育課程では、宗教というものは母星の文化に多大な影響を与えた概念として教えられるだけで、積極的に布教は行われていない。この惑星を改造したのは母船であり、創世記神話が必要な状況ではない。母星の計画立案者が、宗教的な非合理的な論理は開拓地の生き残るサバイバルでは不要としたことも大きい。実際、開拓地には宗教施設はない。しかし、農業を営み、生物を扱い、自然の営みに触れていると、不安の裏返しで、理不尽な超常的な存在を感じることはある。文学小説や映像コンテンツの影響で、神を持ち出す者もいるが信じているかどうかは定かではない。


 気象情報を確認すると、弧状列島の南2000km付近に、大型で非常に強い台風が発生し、1~2週間以内に上陸する可能性があるとの警告が表示されていた。台風自体はすでに何回か通過しているのだが、これまでで最大のものがやってくるようだ。どうやら、救いの神はいないが、災いをもたらす鬼はいるらしい。明日、作業計画を見直す必要がありそうだ。



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