エルエル魔魔魔〜キリキリ魔〜

yukoji

エルエル魔魔魔〜キリキリ魔〜 (2話完結の後編)

 結婚まであと三日。これまでに体験したことのない絶望感の中、今日もキリスコは学校に通っていた。登校時にいつもの様にアホエルと会い、アホエルのアホ具合にちょっぴり安堵。昨日は沢山の人に声を掛けられたが、今日はそんなこともない。教室に入ると、「キリスコ、大丈夫?」「アホエルおはよう」と、色々と話しかけて貰った。話しているうちに、昨日の朝、静まり返っていたのはラブエルが悲しそうに泣いていたからで、声を掛けられる雰囲気ではなかったのだということが分かった。「でもさ、コエンマとラブエルが付き合ってることを知らないって、キリスコなんでよ?そこはマジでビックリ」と、笑いながらモブエル。
「そんなこと言っても、知らないのは知らないよ。大体、コエンマの事なんて興味ないし」
「そうだよね。ごめんね」
 モブエルは別のクラスメイトに呼び出され、キリスコから見えないところで空気読めやこら!と頭をこつんとされる。
 結婚の話題になると、教室の雰囲気が一気にトーンダウンしたのをキリスコは感じた。みんなごめんね。と、なんだか申し訳ない気持ちになる。
 昨日、アホエルと別れて家に帰り、キリスコは色々と考えた。どうにかして前向きに捉えられないか?とも考えた。が、あのクソロック野郎と結婚。と、考えるだけでおぞましく、ねぇわ!ねぇわ!と思いっ切り叫び
身悶えした。どうにかして回避をしようと考えたのだが、神様に逆らうための手段は見つからない。父親であるキリストに抗議をしようと帰りを待っていたのだが、オカマ野郎は帰らないままで、今朝もその姿を見ることはなかった。
 「はぁ」と、タメ息をつくキリスコにオニキスが話しかける。
「キリスコ」さもだるそうに、キリスコは首を横にした。
「なに」
「ちょっと話があるんだけど」
「めんどくさい」
「いいから」
 いつもの様にキスを狙ってこないオニキス。そして真剣な顔のオニキス。なんだこいつ何があった?おかしいぞ。と思いつつも、知らんぷりをするキリスコ。そんなキリスコに、オニキスは宣言するかのように言う。
「俺が、キリスコの結婚を阻止する」
 クラス中の視線が集まる。
 キリスコも理解出来ていないようで、きょとんとした顔をしている。
「俺が、キリスコと結婚をする」
「・・・え?」
「俺、キリスコのことが好きだ」
 うわぁぁぁ!と地響きを立てるかのようにクラス中が盛り上がる!「告白しやがったぁぁぁ!」「きゃぁぁぁぁ!」「なんだそれぇぇぇ!」クラス中が驚きと好奇の声を上げる中、オニキスがさらに言葉を続け頭を下げた「結婚してください」
 ガタン、とキリスコは椅子から転げ落ちる。みるみる内に頬が赤らむ。アホエルが「けっこん!」と叫ぶ。教室は、興奮の渦に巻き込まれた。そこに、授業開始のチャイムが鳴り響く。すると同時に、コエンマとラブエルが入ってきた。
「なんの騒ぎ?」と、ラブエルが問う。「オニキスがキリスコに告白した!」と、興奮気味にオニモブが答える。
「ロック!」
 コエンマはまたしてもロックポーズをかましていた。

 Ⅲ
 「キリスコ、早く準備をしなさい」
 頭に草の輪を被り、白くてスリムなジャケット、白いミニスカートを着たオカマが、娘であるキリスコに話しかける。
「あなたがどう足掻こうが、神様の決定は変わらないのよ」
 足掻く。そう、キリスコは足掻くことを決意し、今日まで色々な策を練って、実行してきた。いきなり告白してきたオニキスが言ってきた「結婚してください」に応えることは出来なかったが、オニキスは共に闘う事を約束してくれた。クラスに協力を仰ぎ、クラスのみんなから意見を貰った。はじめのうち、コエンマは協力的ではなかったが、「俺はコエンマとラブエルが上手くいくことが、お前にとって一番のロックだと思うぜ」というオニキスの一言に心を動かされたようだった。
 最初はクラスの署名から始まった。『結婚反対声明』この運動は瞬く間に学校全体に広がり、生徒全員分の署名を集めた後、先生まで巻き込んでいった。最初は戸惑っていた先生だったが、オニキスの熱心な説得により、ほぼ全員分が集まった。そのままの勢い止まらず、各生徒たちは自分の親や兄弟にも署名を求めていった。
 それと並行して、「神様の弱点を探そう」と言ったゲスのゲスエルに先導されて、神様の弱点探しが始まった。何を隠そう、霊界学校のサラマンドラゴン校長は、神様の元乗り物なのである。ゲスエル一行は度重なる交渉の末、神様の元乗り物サラマンドラゴン校長との面会の機会を得た。ゲスい情報を望むゲスエル。ゲスの極みである。
 しかし、サラマンドラゴン校長から得た情報は「神様の弱点?う~ん。弱点という弱点はなかったなぁ。ワシは神様を乗せて、鞭でぺちぺち叩かれていただけだしなぁ」ちょっと嬉しそうに笑うサラマンドラゴン校長はとても気持ち悪かった。元乗り物として、あまりにも当たり前の事を言われたゲスのスペシャリストであるゲスエルは、これでゲスるのは無理だと判断した。
 数多くの署名が集まり、神様に提出をしたキリスコだったが、神様が下した判断は結婚断行であった。そして、今日に至る。神様の神殿の前には所狭しと霊界者たちが集まっている。神様は今日の仕事を全面的に休暇とし、霊界に昇ってきた人間たち様に、審判の門の前に『セルフお茶菓子』と書いた張り紙と『本日結婚式の為、しばしお休み下さい』というやっつけ仕事で事を済ました。

 純白のウェディングドレスを着たキリスコが神様の神殿に俯きながら入場してくる。目には、涙がたまっている。
 なんでわたしが結婚しなくちゃいけないの。と、キリスコは今でも納得が出来ないでいた。好きでもないコエンマと、コエンマだってラブエルが好きなのに。
「キリスコ」神様が言う。「キリスコ、前を向きなさい。なんだね君はこれから結婚だというのにそんな顔をして。コエンマに失礼であろう」
 だけど神様、という声も出ない。結婚がどういうことなのかまだわかっていない。愛というものもわからない。そんな小娘が神の命令のままに結婚をする。ちらり、と、キリスコは父親の顔を見る。自分の父親、キリストに最後の助けを求める気持ちもあったかもしれない。
 そんなキリスコの目に飛び込んできたのは、涙を流している父親の姿だった。キリストは閻魔大王の隣でむせび泣いていた。そんな父親の姿を見て、キリスコも涙を禁じえなかった。
 キリスコが出てきた反対側から、黒い袴を着たコエンマが入場する。
覚悟を決めたような、しっかりとした顔をしている。そのコエンマの顔を見て、キリスコは『あぁ、わたしは本当にこれから結婚をするのか』と深く感じた。
 キリスコの隣までゆっくりと歩いてくるコエンマは神様と対面した。
「それでは、」と神様が厳かな雰囲気で口を開く。「これより、天国と地獄の大反省会及び大親睦会を始める!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 ☆☆☆

「キリスコー!」いつもの通学路いつもの場所で、アホエルに声を掛けられる。
「なあにアホエル?」
 アホエルが、嬉しそうに駆け足で近付いてくる。
「おはよう!」
「おはよう」
「キリスコ良かったね!」
「昨日の事?」
「昨日はオスマンドラのたまご炒めと、天界草のおひたしを食べたよ!おいしかったよ!」
 キリスコは、とても優しい女の子。
「アホエルのお家は天界草のおひたしが好きね」
「うん!」
「で、なにが良かったの?」
「うーんとね」アホエルは考える。
「これで、オニキスと結婚出来るね!」


                           終 






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