もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

教会でジョブチェンジ?

「……なるほど、それでわたくしを訪ねてきたという訳ね。けれど、お生憎あいにくさま。あの子が一人で抱えこんでいるモノの正体は、わたくしにも見当が付かないわ」

優雅な仕草で香り高い紅茶を口に運び、唇を湿らせたプリムは、カップをそっとソーサーに置きつつ、そっけなく言い放つ。

一縷いちるの希望を胸に、教会を訪れた俺を待っていたのは、そんなプリムの無慈悲な言葉だった。

それは、ある意味で予想通りの結末と言えるけど、それじゃあ困るんだ。

フィーアを懐柔かいじゅうする作戦だって上手くいく保証はないし、仮に成功してもフィーアの知識だけで真実に辿り着けるとは限らない。

ここは何としても、プリムの記憶を引き出さなくては。

「無茶を言ってるのは百も承知だけど、そこを何とか思い出してくれないか? ほんの些細ささいな手掛かりでも良いんだよ。例えば特定の言葉に過剰な反応を示してたとか、質問に答える時に意味深な間があったとか、何の変哲もない会話なのに“うっかり口を滑らせた!”って感じで動揺した事があるとか」

「……そう言われると、確かに心当たりはあるけど。いえ、むしろ、あり過ぎて良く分からないわね。あの子って秘密主義な所があるから意味深な反応なんて日常茶飯事だし。それに、秘密にする理由も、ケースバイケースだから。恥ずかしくて秘密にする時もあれば、特に意味もなく秘密にする時もある。何が重要な手掛かりに繋がってるか分かったもんじゃないわ」 

わざとらしく肩をすくめて見せるプリムだが、嘘を吐いている様子はない。

どうやら完全にお手上げのようだ。

「うーん、どうしたもんかなぁ。こうなったら、フィーアの証言に期待するしかないのか? もしくは、それで駄目なら二人の故郷でも訪ねてみる……とか?」

ああでもない、こうでもないと呟きながら、教会内をウロウロする俺。

そして、何気なく立ち止まった、次の瞬間、ドンッ! と何かにぶつかったような衝撃を受けた。

「っぶねぇな! 急に立ち止まんじゃねぇよ、シスコン野郎!」

「っとと! ……なんだ、お前かよ。つーか、そんな体勢で凄んでも全く怖くないぞ。なんなら微笑ましいくらいだ。あと、俺はシスコンじゃない」

「お兄ちゃん。シスコンって、なーに?」

「フィーアは知らなくていいんだ。というか、コイツの言う事は何一つ気にしなくていい。なんせ今のコイツは、ただの、お馬さんだからな!」

そう、プリムの犬――もといアバカムは、現在、臨時でフィーアの馬にジョブチェンジしているのだった。

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