もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

根回し

「……という訳で、フィーアの素性については内密に頼む。もし誰かに聞かれたら、その時は俺の妹だって事にしといてくれ」

「なるほど、それで真っ先に私の所に来たんだ。確かに私は二人が兄妹じゃないって知ってるし、早めに話を通しておかないと証言が食い違うことになるぴょんね?」

フィーアを連れて街の案内をするに当たり、まず最初に立ち寄ったのは、雑貨喫茶アビスだった。

その理由は、クラリスが言ったように、情報の根回しをして協力を仰ぐためである。

なにせ俺とフィーアは、この店で初めて出会った訳で、その様子をクラリスにバッチリ目撃されているのだ。

そのまま何の説明も無しに、『フィーアは俺の妹だ』と各所で触れ回ったら、クラリスが違和感を覚えて矛盾を指摘するだろう。

そんな状況に陥って、話がややこしくなる前に、予め手を打っておこうという魂胆こんたんである。

「そういうこと。……念のため聞くけど、俺達が来るまでに、フィーアの事を喋ったりしてないよな?」

「もー、お兄さんったら心配しすぎだよぉ。大丈夫、この店は一部の熱狂的なファンに支えられてる隠れた名店だから。昨日も今日も、お客さんは、お兄さん達しか来てないぴょん。それに、フィーアちゃんがアインさんの妹だなんて、お兄さんに聞くまで知らなかったし」

「そっか、それなら良いんだ」

「ていうか、仮に知ってたとしても口外してなかったと思うけどねっ。実は昔、アインちゃんに家族の話について聞いたことがあるんだ。でも、その時は結局、複雑そうな笑顔で誤魔化されちゃったの。だから、家族と上手く行ってないのかなって、ずっと思ってたんだ。きっと、それが理由で、この街で一人暮らしをしてるんだろうなって」

「なるほど、そんな事が……。けど、そうか。別にアインやフィーアを直接、問いたださなくても、事情を知ってる周りの人間が居るかもしれないな。例えば、プリムとか。あいつも、アインとは長い付き合いみたいだし、何かの切っ掛けで、ポロッと話を聞いたりしてるかも」

「う〜ん。流石さすがに、それは楽観的すぎると思うぴょん。まぁ、でも可能性が無い訳でも無いと思うし、聞くだけ聞いてみるのはアリじゃないかな?」

まぁ、クラリスの言うことは、もっともだ。

確かに、昨日の様子からして何も知らない可能性は高い。

けど、改めて記憶を掘り返してもらえば、手掛かりの一つくらいは手に入るかもしれない。

俺だって、さすがに、一発で答えに辿り着けるとは思ってないさ。

「よしっ、そうと決まれば、次の目的地は教会だな! ほら、そろそろ、おいとまするぞフィーア!」

「…………ハッ!? お兄ちゃん、もう、お話は終わったの?」

ここまで全く会話に参加してなかったフィーアに声を掛けると、彼女は尻尾を踏まれた子猫のように飛び上がった。

俺がクラリスに話をしている間、暇そうだったので、商品を好きに眺めていて良いと言ったのだが、どうやら我を忘れるくらい夢中になっていたようだ。

楽しそうで何よりだけど、今は少しでも情報が欲しい。

俺は名残惜あごりおしそうな彼女の手を引いて、雑貨喫茶を後にしたのだった。

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