もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

また濃い人が……

『本日は【沈黙の館】に御来店いただき、誠にありがとうございます。ただいま所用により店を空けておりますので、お急ぎの方は工房まで、お越し下さい』


「しまったなぁ。忙しいかもな〜とは予想してたけど、まさか、こうなるとは……」


ラックの店の前に出された立て看板を何度も見直したものの、当然、内容が変わる事はない。


俺は、そんな当たり前の事実に落胆して、思わず溜め息を吐いた。


どうやら、さすがに無計画すぎたらしい。


この店のスペースは限られているのだから、少し考えれば、別の工房にいると分かるだろうにな。


たとえ忙しくても、せめてヒントくらいは貰えるだろうと高を括っていたが、これでは、軽い相談も出来そうにない。


立て看板には工房までの簡単な地図も記載されているので、行けない事はないが、結局は仕事の邪魔になるだけだろうし。


仕方ない、やっぱり自分の足で地道に探すか……と、踵を返した、その瞬間――、


「あれれ〜? お兄さんって、もしかして、アインさんのパーティーメンバーの方じゃないですかぁ?」


ふいに後ろから声を掛けられた。


妙に甘ったるい猫撫で声を聞いた時点で、嫌な予感はしていたが、実際に振り返って見た、その女の姿は想像以上に個性的だった。


左腕に包帯を巻き、右目に黒い眼帯を付け、ゴスロリ風のメイド服に身を包んだウサミミ少女。


しかも、お尻の辺りにはフサフサの尻尾が揺らめいているが、あれは、どう見てもキツネの尻尾だ。


設定の特盛、あるいは混沌をテーマにした奇抜なファッションと言わざるをえない。


「えっと、あなたは? どうやらアインの知り合いみたいですけど」


取り敢えず、俺より年上なのは間違いなさそうなので、敬語で対応する。


おそらく20代前半といった所だろうか。


服装のアンバランスさとは裏腹に、身体の方は均整の取れたボディラインだ。


大き過ぎず、小さ過ぎない胸とお尻。


手足もスラリと長く、身長も高めなので、真っ当な服を着ていれば美人モデルにでも見えただろう。


そんな彼女は両手をクイッと曲げ、猫のような、あざといポーズで話し出す。


「にゃはははは。私はクラリス。知る人ぞ知る隠れた名店、【雑貨喫茶アビス】の店長さんなのさっ!」


……ツッコミどころが多すぎて何を言えばいいのか分からないが、ひとまず、これだけは言っておこう。


「ネコなのか、ウサギなのか、キツネなのかハッキリしろやぁぁぁ!」


「にゃはっ♪ 良く言われるピョン!」


魂の叫びをアッサリとスルーされ、むしろカウンターを食らった俺は、ガックリと肩を落としたのだった。

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