もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

ミルクと立てた誓い

「……そろそろ、パーティーも、お開きかぁ。なんか、ずっと話してばっかで、ぜんぜん料理に手を付けてない気がするな。せっかくの食べ放題なのに」

「そんなことだろうと思って、確保しといたですますよ~」

満足するまでスズリを撫で回し、再び一人になった俺のもとへ、ミルクがトコトコと歩いてくる。

その両手には、いくつかの料理が盛り付けられた2枚の皿が。

辺りのテーブルを見渡しても、まともな料理は残っていないので、ミルクが確保してくれなかったら、見事に食いそびれていただろうな。

ちなみに、見た目がスライムみたいなジェル状の【ナニカ】や、魔女の実験で生まれたような紫色のスープなど、どう考えてもウケ狙いなブツは手付かずで放置されている。

……まぁ、後で、もちこが処理してくれるだろう。

「さんきゅー、ミルク! さすがは俺の嫁」

「誰が嫁ですますっ! さっきまで散々、スズリさんとイチャイチャしておいて」

そうそう、あの後スズリはパーティーには参加せず、工房の方に帰ったんだよな。

今回の戦いでギルド・騎士団を問わず多くの武器が失われたから、スズリの店にも大量の注文があったらしい。

そこで、普段は店番のみのスズリも手伝いに駆り出されているとか。

珍しく親父さんに頼られたと、興奮しながら語ったスズリは、非常に萌えた。

まぁ、男の娘なんだけどさ。

「おっ、なんだ嫉妬か?」

「節操がないと言ってるだけですます!」

ぷりぷりと怒りつつも、律儀に料理を手渡してくれるミルク。

こういう所が可愛くて、からかうのが止められないんだよな~。

そんなことを考えながら、適当な席に着いて、料理をパクパクと頬張りつつ、荒ぶるミルクをあやす俺。

何だかんだで、やっぱりミルクと一緒に居る時が一番、落ち着く気がする。

この世界で最も付き合いが長い、というのもあるけど、どことなく妹に雰囲気が似ているのも大きいな。

…………あいつ、今頃どうしてんだろう。

「——という訳で、ハルさんは、いつも……って、どうしましたです?」

「えっ?」

「ハルさん、いま凄く遠い目をしてましたです」

さっきまでの怒りはどこへやら。

急に心配そうな眼差しで、こちらを見つめてくるミルク。

それに、なんとなく迷子を思わせる寂しげな気配も感じた。

これは、あの時の——、

「大丈夫だって。少し、故郷のことを考えてただけだ。俺は、どこにも行かないさ」

俺が魔法を暴発させたことで、不安定になってたミルクに近い状態。

そんな彼女の懸念を取り除くように、俺は頭をぽんぽんと撫でる。

そういえば、妹にも、よくこうしてやったっけなぁ。

台風に怯えて眠れなかった時とか。

やはり、似た者同士のミルクにも効果は抜群だったようで、その体から徐々に緊張が解れていった。

「……でも、故郷に帰りたくなったり、しませんです?」

「あー、そうだな。帰りたくないって言ったら嘘になるけど。今はミルク達との生活が楽しいから、それで良いんだ。それに、帰りたくても帰れないし」

なんせ、世界の向こう側だからな。

しかし、ミルクは何を勘違いしたのか、悲痛な顔を見せる。

「もしかして、ハルさんも故郷を失って?」

「いや、別に失ったって訳じゃ……。でも、確かに手が届かないという意味では、そうなのかもな」

「そうですか……」

何故か、俺以上に落ち込んでいる様子のミルク。

というか、ハルさん‘‘も’’って、言ったか?

たしか、ミルクは前に大切な人を守れなかった、とか言ってたよな。

それって、つまり故郷も含めて失ったってことか?

……とはいえ、そんな辛い話を無理に聞き出す訳にもいかないか。

なら——、

「今度は、お互い、守ってみせような。自分の大切なものを。今日みたいに、皆で力を合わせてさ」

せめて、今の俺が送れる精一杯の言葉を。

そして、いつか、ミルクの方から過去を打ち明けて貰えるくらい、強くならなきゃな。

「……はいっ!」

そんな俺の想いが通じたのかは分からないが、ミルクは笑顔で頷いてくれたのだった。

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