もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

夢か現か

「どうして、こんなことに……」

襲い来るモンスターを倒し続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。

辺りには数えきれない程のケルンが散らばっている。

そして、俺の周囲には、動く影が一つも見当たらなかった。

そう……ただの一つも。

「……ふざ、けるな。……ふざけんじゃねえぞ!?」

ミルクが、ダディが、キースが、プリムが、カムが、騎士団やギルドのメンバーが。

みんな……みんな力尽きて倒れていた。

死んでいる訳じゃない。

でも、誰一人として立ち上がれる者は居なかった。

なぜか、ゴーレムもまた、その動きを止めているが、ケルンを残して消えていない以上、すぐにまた活動を始めるだろう。

そうなれば、俺は全てを失う。

「返せ……。俺の仲間を……俺の恩人を……俺の日常を……ぜんぶ、ぜんぶ返しやがれッッッ!」

目の前に広がる理不尽な光景に怒りが湧いて、無意識に白虹丸はっこうまるを握り締める。

しかし、こんな木刀一本で、いったい何が出来ると言うのか。

激情に任せて突っ込んだ所で、あっさり弾き飛ばされるか、踏み潰されるのがオチだ。

「俺に……俺にチカラがあれば……」

そうすれば、何も奪われずに済んだのに……。

そんな虚無感に苛まれ、俺は膝から崩れ落ちた。

まだ体力は残っていても、立ち上がる気力が枯れ果てていた。

たとえ、このままでは再び命を失うとしても。

皆を見捨てて自分だけ逃げるなんて、冗談じゃない。

かといって、皆を助ける力も、俺にはない。

ここまで、なんとか食らい付いて来たけど、全ては無駄——。

「大丈夫ですぅ。貴方は、まだ何も失っていません。それにぃ、あと一息じゃないですかぁ」

全ては無駄だった、そんな絶望に呑み込まれる直前。

背後から聞き慣れない声が響いた。

いや、この妙に気の抜ける話し方は、どこかで耳にした事があるような……。

緩慢な動きで振り返る。

すると、そこにいたのは、

「お前は……串焼きの……」

「はぁい。あの時は、お世話になりましたぁ」

かつて、街の裏路地で行き倒れていた謎の美女だった。

天高く手を掲げて存在をアピールしているが、そのせいで体が揺れ、別の部位が激しく自己主張している。

って、こんな時に、どこ見てんだ俺は……。

若干、自己嫌悪に陥る俺を見て、不思議そうな顔をしつつ、謎の美女は口を開く。

「それはそうとぉ、また面倒なモンスターが出たみたいですねぇ。昨日、近くの森で、おっきいのを狩ったばかりなのにぃ」

「……近くの森? ……なるほど、騎士団が仕留める予定だった奴を始末したのはアンタだったのか」

「そうですよぉ?」

謎の実力者が敵サイドかもしれないという危惧もあったが、どうやら杞憂だったらしい。

まぁ、今となっては、あまり関係がないか。

どのみち、あのゴーレムに街は壊されるだろうから。

「つーか、そんなことより、アンタは何しに来たんだ? 今なら、まだ逃げられるぞ?」

俺は今さら逃げる気になれないが、この美女は外国から来たらしいし、ただ立ち寄っただけの街には未練もないだろう。

街の住人も今頃は避難しているはずだ。

なんで、わざわざ、こんな場所に?

「だから、さっきも言ったじゃないですかぁ。あと一息だって。だから手伝いに来たんですぅ」

握り拳を小さく上下に振って熱弁する謎の美女だが、口調が緩いせいで緊迫感が薄れる。

本当に、こんな人が大型モンスターを倒したのか?

それに、あのゴーレムは規格外だ。

一人や二人、増援が来たところで、どうにかなるもんじゃあ……。

「えいっ♪」

ドッカァァァンッ!

「…………へっ? はぁぁぁ!?」

やけにコミカルな爆発音が響いた——と脳が認識した次の瞬間、俺は自分の目を疑った。

なぜなら、全長約100メートルを誇るゴーレムの巨体が、大きく仰け反っていたのだから。

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