もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

崩れた均衡

「おら、そこ、グズグズすんな! 撃ったら、すぐに最後尾まで戻れ!」

「はい! すみません!」

ぎこちない動きのメンバーに向けた、ギルド支部長の一喝が、俺達の所まで響いてくる。

ギルドで立案された作戦によると、彼らはゴーレムの牽制と陽動を担っているらしい。

そのため、隊列を組んで手数重視の魔法攻撃を敢行しているようだ。

前列が魔法を放っている間に、後続のメンバーが詠唱を済ませ、次々と最前列を交代していく。

これを繰り返すことで、間断のない攻撃を実現しているみたいだ。

たしか、信長が鉄砲の部隊で似たような事をやってたな。

歴史の授業で習った気がする。

実は嘘だったっていう説も聞いたことあるけど。

……まぁ、今は関係ないか。

大事なのは、この作戦が有効に機能しているってこと。

ゴーレムは両腕で顔を庇い、直撃を避けているが、足止めの効果としては充分だ。

その間に、騎士団が一糸乱れぬ連携攻撃を繰り出して、ゴーレムの生命力を着実に削ってるしな。

単純な打撃力だけ見れば、ミルクも、あちらの部隊に行けるハズだけど、いきなり連携を取るのは難しいだろう。

というか、ミルクを取られると、俺の体が持たない。

なんせ、今の俺は圧倒的に火力不足だからな。

攻撃魔法を何一つ、習得してないし、それ以前に白虹丸はっこうまるを構えながら安定して魔法を放つことも出来ない。

昨日は何とか賭けに勝ったけど、常に上手く発動できるとは限らないし。

なので、今の俺は、敵を出来るだけ引き付けて逃げ回る役に徹している。

そして、ミルクや他のメンバーが、背後とか側面から敵を倒してくれるまで、ひたすら耐えるのだ。

何とも情けない役回りだが、これが分相応、適材適所というものだ。

こんな所で、妙なプライドを発揮して無理したって、得るものは何もない。

それに……。

「これなら全体が良く見えるっ」 

集団で魔法を放つギルド部隊も。

背後からゴーレムを襲う騎士団も。

俺の周りで戦う知り合いたちも。

そして——、

「……アイツが来た時、すぐに気付けるように」

この大変な時に、まだ姿を見せないアイン。

まさか、怯えて足がすくんでいる、なんて事は無いだろう。

街で避難誘導でも手伝っているのか、別の用事で手が離せないのか、あるいは……。

「……だぁ、クソっ! 早く顔を見せやがれってんだ!」

頭にチラついて消えない、嫌な想像を払うように、首を振る。

そんなことより、今は戦いに集中しないと。

「つーか、コイツらを笛で操ってるっていう黒ローブは、どこにいんだよ。そんな離れた場所から操れるもんなのか? それらしい音も全く聞こえないぞ」

それとも、人間には聞こえない周波数とか?

こんなことなら、キースの仲間たちに、もっと詳しく話を聞いておくんだったな。

今さら悔やんでも遅いけどさ。

……そんなことを考えていた俺の意識は——、

「ぐぁあああ!?」

「こいつ、急に!?」

「隊長! このままではッ!」

唐突に響いた焦燥の声で、一瞬にして切り替わる。

そして、声の方角に視線を向ければ、ゴーレムが飛来する魔法を無視して騎士団を襲い始めていた。

均衡が……崩れたのだ。

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