もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

疑惑

「アイツだ……。きっと、アイツの仕業だ!」

全長100メートルはあろうかという、もはや小さい山のようなゴーレムを指差して、冒険者の男が叫ぶ。

あまりにも絶望的な光景に呆然としていた俺は、その声でハッと、我に帰った。

「アイツって、さっき言ってた黒いローブの奴か?」

「ああ、そうさ! 奴は、妙に意匠が凝った紫の笛を持っていた! それで、その笛を吹いた途端に、周りのモンスターが俺達を襲ってきたんだ! 近くにいたソイツには目もくれずにな!」

つまり、黒ローブが笛で操ってたって事か。

そんでもって、街に向かって侵攻して来るゴーレムも、ソイツの影響下にあると。

まったく、呪いの短剣といい、なんで、そんな物騒なアイテムがポンポン出てくんだよ!

………………物騒なアイテム?

「……いや、まさかな。そんな訳ないさ」

だって、アイツは、俺達の仲間じゃないか。

「ん? ハルさん、どうかしましたですか?」

「……なぁ、ミルク。昨日、教会に駆けつけてくれた時、アインと一緒だったよな? 家を出た時から、ずっと一緒だったのか?」

「……? はい、それが、どうかしましたですか?」

「だよな、あはははっ! だったら良いんだ」

俺としたことが、ついつい疑心暗鬼になってたみたいだ。

そんな事が、ある訳ないじゃないか。

「あっ、でも、そういえば。お留守番してる間に1時間くらい姿が見えない時がありましたです。その後、ミルクが、ご飯を食べてる時に食堂へ入って来ましたけど。なんか暗い雰囲気で、ご飯も要らないって言ってました」

「……そうか」

いや、まだ【そう】と決まった訳じゃない。

今だって、きっと家で呑気に、もちこと戯れてるに違いない。

そう……だよな、アイン。

「そんな事より、今後の対応をギルドに相談する必要がありますです。まだ、それなりに距離はあるみたいですけど、あの大きさなら、1時間もしないうちに街まで辿り着きます!」

「そ、そうだな。その前に、プリムの所に戻ろう。キースの具合も心配だし、治療が終わってるなら、プリムにも参戦してほしい」

「いや、それは俺達が行こう。キースは俺達のパーティーメンバーだからな。お前達に面倒は掛けられないさ。プリム先生への伝言も任せてくれ」

こちらに気を使ってか、冒険者の男が、そう申し出てくれる。

今は時間が惜しいし、ありがたく甘えさせて貰おう。

「そうか、分かった。頼んだぞ。ミルク、行こう!」

「はいです!」

それから俺達は冒険者ギルドへ向かい、二人の黒ローブやゴーレムについて、他の冒険者たちと情報共有を行った。

出来れば、その前にアインの所在を確認したかったが、教会とアインの家は、この街の端と端。

何故か通信アイテムにも応答がなく、この状況では諦めるしかなかった。

そして、騎士団と共に街の門を出る、今この瞬間も、俺達の隣にアインの姿は無い。

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