もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

急転直下

「さてと、それじゃあ、用件も済んだし、俺達は——」

プリムの問題に関しては、一旦、保留にして、そろそろ、お暇するかと腰を浮かせた、その時、

「プリム先生! 急患です! 治療をお願いします!」

治療院のドアが勢いよく開かれ、数人の集団が入ってきた。

学校の保健室くらいの広さしかない治療院は、それだけで手狭になるが、そんなことよりも気になることがある。

「お前、キースじゃないか!」

冒険者と思しき男女に支えられて、ぐったりしているのは、俺と同じ転生者のキースだった。

装備のあちこちが無惨に損傷しており、露出している素肌には毒々しい緑の斑点が浮かんでいる。

素人目にも急を要する容態だと、一目で分かる程だ。

「こちらに寝かせて。あとは装備とシャツを脱がせておきなさい。すぐに診るわ」

すぐさま医者の顔つきになったプリムが、テキパキと指示を出し、杖を構えて集中する。

すると、キースが寝かされたベッドに魔方陣が現れ、淡い光に包まれた。

「いったい何が、あったんだ?」

プリムが治療に当たっている間に、少しでも情報を得ようと、冒険者たちに尋ねる。

「お、俺達は近くの森でクエストをこなしてたんだけどさ。黒いローブを羽織った奴に、いきなり襲われたんだ」

「黒いローブ!? まさか、あのクソ野郎か!」

昨日、苦渋を舐めさせられたばかりのカムが、声を荒げた。

それを宥めるように、ミルクが続けて口を開く。

「いえ、彼は騎士団でキチンと拘束されてるハズですます。恐らくは別人だと思いますです」

「それにしても、タイミングが良すぎるな。もしかして、アイツを裏で操ってた黒幕……? なぁ、他に何か特徴は無かったか?」

俺の質問に、腕を組んで考え込む、冒険者の男。

「特徴って言われても、全身をローブで覆ってて、性別も分かんなかったし。……そうだ! あと声も何かで誤魔化してるみたいだった。そのせいで妙に聞き取りにくかったな。それと、変な短剣と笛を持ってたんだ。その短剣で斬られて、キースが、あんなことに……」

「俺の時と全く同じじゃねぇか! クソッ、黒幕だか何だか知らねぇが、俺様の街で好き勝手しやがってよぉ!」

「駄犬、うるさい。病人がいるのよ」

「す、すみません……」

もはや、お約束と言える二人のやり取りに、少しだけ頬が緩むが、事態は深刻だ。

昨日に引き続いて、今日も謎の人物による襲撃が起きた。

今回の敵の目的は……って、おい、ちょっと待て。

「なぁ、リン……じゃなかった。こいつと一緒にいた女の子は、どうした?」

「あぁ……それが、黒いローブの奴に真っ先に襲われて……。俺達も混乱してたから、ケルンを見つけて、回収する事すら出来なかった」

「……そうか」

やはり、狙いはリンネか。

地上に降りている彼女は、あくまでも分身体。

仮に殺されても、本体にダメージはないし、ケルンが残ることもない。

彼らが見落としたんじゃなくて、最初から存在しないんだ。

怪しまれずに済んだのは不幸中の幸いだが、それでもはらわたが煮えくり返る。

あいつら、リンネばかり目の敵にしやがって……!

「ハルさん」

「あ、ああ。分かってる。今度は一人で突っ込んだりしない」

ふいにミルクに袖を引かれ、真っ直ぐに見つめられて、我を忘れていた事を自覚する。

そうだ、別に俺一人で何とかしなくちゃいけない訳じゃない。

今回は切迫した状況でも無さそうだし、アインを呼びに行って、しっかり準備を整えてから——、

「っ!? 今度は何だ!?」

「これは、地震!?」

「いや、違う! まるで、巨大な何かが歩いてるような……」

唐突に大きく揺れた教会。

その原因を探るべく、俺達は足元に気を付けつつ、外へ出る。

「なん……だ、ありゃあ」

そして、街を囲む防壁越しに見えたのは、巨大な岩の塊。

いや、無数の岩を乱雑に繋げたようなフォルムの人形ゴーレムだった。

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