もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

教会で再び

「まったく、もう! ハルさんは少しでも目を離すと、すぐに居なくなるですます!」

「悪かったって。でも、そんな心配しなくても良いだろ? なにかあれば、これで助けを呼ぶ事になったんだし」

そう言って、俺は首元の紐を手繰り、その先に付いている青い水晶を見せた。

親指サイズのそれは、アインが開発した通信アイテムの本体である。

うっかり落とさないように紐で括られた、その水晶を、俺は首から下げている。

アインとミルクも同じものを身に付けてるから、いつでも会話が出来るんだけど、それを指摘しても合流したミルクは不満げなままだ。

「それを使う間もなく、一瞬で気絶させられたとか、色々と悪い想像は出来ますですっ」

拗ねたようにプイッと顔を背けるミルクは、しかし、俺のシャツの裾を掴んで離さない。

素っ気ない態度とのギャップが非常に萌えるけど、それを言葉にすると絶対に怒られる。

「……それも、そうだな。次からは気を付けるよ。ほらっ、これやるから、許してくれよ」

——なので、代わりに謝罪を口にして、お詫びの品を献上しておく。

近くの屋台で買った七色のペロペロキャンディーだ。

ミルクに装備させれば、【幼さ】と【可愛さ】のステータスが上昇する優秀なアイテムである。

まぁ、俺の脳内限定のステータスだけど。

「……ふーんだ。ミルクは、こんな子供っぽい、お菓子で買収されたりしないですます」

「と言いつつ、ペロペロ舐めてるじゃないか」

子猫が牛乳ミルクを舐めてるみたいで可愛いらしい……この例え、紛らわしいな。

「捨てたらもったいないから、仕方なく食べてるだけですます。色ごとに味が変わって、すごく美味しいとか思ってませんです」

「しっかり堪能してるじゃないか」

「……つーん」

「ああ、もぅ可愛いなぁ!」

構ってちゃんな拗ねっぷりが愛らしくて、つい頭をくしゃくしゃと撫でてしまう。

「はわっ!? な、なにするですます!? 髪が乱れますです!」

「大丈夫だ! ミルクの髪は絹みたいにサラサラだからな! 手櫛てぐしいてやれば、すぐに戻る!」

「だ、だからって、こんな往来で恥ずかしいですます!」

「大丈夫だ! 恥じらってるミルクは可愛いからな!」

「そんなの聞いてませんです!」

そのまま、ワイワイと騒ぎながら、街の通りを歩いていると、あっという間に教会に着いた。

「ふむぅ、楽しい時は過ぎるのが早いな」

「ミルクは、とても長く感じたですます……」

何か聞こえた気がしたが、空耳だと思って聞き流し、教会の扉に手を掛ける。

……そういえば、前々回に来たときに、妙な光景を見たような——。

「ほぅら、病み上がりの体には、これが良く効くでしょう?」

「はぃぃぃ! もっと、お願いします、プリム様ぁぁぁ!」

そう、ちょうど、こんな感じの不健全な、やり取りが……。

「って、なにやってんだ、お前らは!?」

俺の目の前には、四つん這いになって椅子の役目をこなすカムと、彼に腰掛けるプリムの姿が。

教会に来るのは今回で3度目だけど、そのうち2回がSM中って、どんな環境だよ、教育に悪すぎるわ!

しかも、残りの1回は不審者に襲撃されてるし。

こんだけトラブルに愛されてるのは、まさか、リンネの加護とかじゃないだろうな?

だとしたら迷惑すぎる。

「あら? ようやく来たのね」

「おぅ、プリムさんを待たせるとは、良い度胸だなぁ、おいこら」

「なんで、普通に対応してんだよ! やましい場面を見られたんだから、ちょっとは恥じらうなり
、気まずそうにしろ!」

特殊なプレイを見られても平然としている二人に、思わずツッコミを入れる。

まさか、ここまで慌てた反応がないとは思わなかった。

まさか、普段から色んな人に見られてて、気にならないとかじゃないだろうな。

たしか、ここって、孤児院も兼ねてる筈なんだけど。

「何を言っているの? わたくしは教会の盾となったカムに、褒美として‘‘リラクゼ’’の魔法を掛けているだけよ? 全身から余分な力を抜き、疲れを癒す魔法ね。椅子はカムが勝手にやっているだけだわ」

「椅子になってたら、普通はリラックス出来ないと思うけど、まぁ、それは良い。元凶は、お前の性癖だったか、カム」

「なに気安く、アダ名で呼んでやがる! 俺を、そう呼んでいいのはプリムさんだけだ! それと、これは断じて変態的行為じゃねぇ。お姫様だっこってあるだろ? あれは誰が、どう見ても紳士的な行為だよな? 椅子になるのだって、好きな人を物理的に支えるという意味では同じ。つまり、似たようなもんだ!」

「ぜんぜん、ちげぇよ!?」

その後、ギャーギャーと騒ぎ続けた俺達は、再び教会のシスターさんに説教される羽目になったのだった。

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