もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

謎、謎、謎

「空振り?」

「はい、騎士団が討伐に向かったモンスターは、影も形もなく、現場にはケルンだけが残されていたそうですます。調べによると、通報のあったモンスターと同じ種類のものだったとか」

手錠騒ぎを何とか解決した俺とミルクは、二人で教会に向かっていた。

なんでも、俺が動けるようになったら教会に来るようにと、プリムから伝言があったらしい。

恐らくは、黒ローブの一件の借りを返すため、話がしたいのだろう。

もちことアインは、仲良くお留守番だ。

アインが料理を作って、もちこの好物を探ると張り切っていたからな。

ちなみに、手錠の件に関しては、不都合が多すぎるという結論が出て、アイン作の通信アイテムを携帯することで妥協してもらった。

最後に残った解錠の問題についてだが、『良く考えたら充填された魔力を‘‘ダークネス’’で吸っちゃえば良いんじゃね?』と思い立ち、実行してみたところ、あっさりと外れた。

恥を忍んだ俺の尿瓶体験は、いったい何だったんだ……。

それはそうと、現在は教会に向かいつつ、ミルクから騎士団の話を聞いている所だ。

俺が事件の発生に気づいた頃、騎士団は住民の通報を受けて、大型モンスターの討伐に向かっているという話だった。

帰ってくるのは夜になると言われており、俺が首を突っ込む決意をしたのだが、騎士団は予想に反して戦いが終わってすぐに、ミルク達と駆けつけている。

「つまり、既に誰かがモンスターを倒した後で、ソイツはケルンを回収せずに去っていた。それで、戦闘する必要がなかったから早く帰ってこられた……そういう事か?」

「はい。しかも、話はそれだけじゃない、ですます。ケルンが落ちていた周辺には、一人分の足跡があっただけで、他は戦闘の痕跡すら無かったとか」

「……要するに、その正体不明の誰かさんは、騎士団が討伐に当たるくらい危険なモンスターを、一人で瞬殺したってこと?」

「恐らくは。さらに、その残された足跡というのも、不自然な場所で途切れていたそうですます。まるで、神隠しにでも遭ったかのように……」

「あるいは、離れた距離を一瞬で移動する魔法でも使ったとか?」

「そういう魔法も、確かに存在しますが……神話クラスの大魔法ですます。魔族の王——魔王なら手が届くかも、というレベルですね」

「そんな奴が、この近くにいたとか、ゾッとしないな。通報のあった大型モンスターの方が、まだマシだ」

「……なにも起こらないと良いのですが」

それきり、俺もミルクも黙り込んでしまい、居心地の悪い沈黙が満ちる。

ミルクの懸念はもっともだ。

黒ローブと繋がっていたであろう黒幕の正体も、まだ分かっていない。

もしかしたら、同一人物かも知れないけど、違った場合は注意すべき実力者が、この街の近くに二人も居ることになる。

俺が前に見た悪夢は、これから起きる何かの予兆だったんじゃないか。

そんな不安が込み上げてきた。

「あっ、そうでした! たしか、カムさんが呪いの経過観察のために、教会の治療院で寝泊まりしているはずです。お見舞いの品を買っていきましょう!」

空気を明るくするためか、それとも本当にお見舞いしたかっただけなのか、ミルクが、そんなことを言い出した。

「あ、ああ。そうだな。ちょうど、この辺りは店が多いし、手分けして探すか」

「はい! じゃあ、ミルクは、あっちの果物屋さんを覗いてきます!」

そう言って、ミルクは足早に目的の店に向かった。

体が小さいから、すぐに人混みに紛れて見えなくなる。

まぁ、アイン特製の通信アイテムは、この街の全域を余裕でカバーしてるらしいし、問題ないだろう。

「さて、俺も適当に何か見繕うとするか……。ん?」

なにか、うめき声のようなものが聞こえた気がした。

雑踏に紛れて良く聞こえないが、なんとか耳を澄ましてみる。

すると、どうやら路地裏の方から、その声が漏れているらしいと分かった。

俺は、その声に、無意識に導かれるようにして、足を進めた。

薄暗い道を進み、行き止まりにたどり着く。

そこには——、

「うぅぅぅ。お、お腹がぁぁぁ」

盛大に腹の虫を鳴らしつつ、パンツ丸出しで目を回す、謎の美少女がいた。

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