もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

再会

「……ナルホド。タシカニ、オマエハ、コチラノコウゲキヲ、シノイデミセタ。ソレハ、ミトメヨウ。シカシ、ダカラドウシタトイウノダ?」

相変わらず、無機質で、輪郭のぼやけた声。

しかし、その言葉には、ハッキリと、滲んでいる。

隠そうともしていない嘲りの色が。

「オマエガ、ナントカ、フセイデミセタ、アノマホウナド、コチラハ、イクラデモ、ハナツコトガデキル。トハイエ、オナジ、マホウバカリ、トイウノモ、ゲイガナイカ」

そう言って、黒ローブが杖を振ると、今度は小さな竜巻が生まれた。

それは、徐々に肥大化し、黒ローブを飲み込んでいく。

「コウスレバ、モウ、オマエノ、コウゲキハ、トドクマイ。トイウカ——」

「ぐぁっ!?」

「タチアガルコトスラ、デキヌダロウガナ」

黒ローブの傲慢な勝利宣言に、俺は反論することが出来なかった。

教会に置かれた女神像に叩きつけられ、痛みに喘いでいて、それどころでは無かったから。

今回、奴が使ったのは、恐らく風の魔法だろう。

先程の炎とは違って、何の兆候も読み取ることが出来ず、気付けば、この有り様だ。

「この、野郎……!」

たった一撃で戦闘不能の直前まで追い詰められた俺は、黒ローブを睨み付ける事しか出来ない。

既に生命力が2割を切っているらしく、意識も薄れ始めていた。

「まったく、わたくしはカムの世話で手一杯だと言うのに……!」

俺の意識が途切れる寸前。

ふいにプリムの声が聞こえた。

そして、次の瞬間、俺の体は淡い光に包まれる。

その暖かい力に、俺の意識は辛うじて踏み留まった。

「……プリム?」

「しっかりなさい! 今、この場で戦えるのは貴方だけ! 貴方が諦めればわたくしたちは全滅ですわよ!」

「……んなこと、言われてもな」

間一髪の所で気絶だけは免れたものの、体の動きが鈍いのは依然として変わらない。

生命力を失い過ぎた弊害だ。

というか、体が万全の状態でも何とかなるとは思えないんだけどな。

そもそも根本的に実力が足りていない。

駆け出し冒険者には、あまりに荷が重い役回り。

とはいえ、ここで踏ん張らないと全滅だ、というプリムの言葉ももっともだ。

俺は、ここで死ぬのか……。

リンネ、ごめんな……。

せっかく、新しい命をくれたのに……。

俺が、リンネの顔を思い浮かべ、今生の【生】を諦めかけた、その時——。

「こらぁぁぁ! 誰ですか、私の……じゃなかった。リンネ様の像に体当たりカマした、罰当たりはぁぉぁ!」

——ずっと聞きたかった声が俺の耳に届いた。

場の緊張感にそぐわない、能天気な言葉の響き。

まだ別れて数日しか経っていないのに、何故か懐かしく感じる。

ああ……お前は……。

「リンネ……」

「って、白木さんじゃないですか!? えっ、どうしたんですか! ボロボロじゃないですか!」

どこからともなく現れたリンネは、相変わらず騒がしい。

しかも、怪我人である俺の肩を容赦なく掴んで揺さぶってくる。

あぁ、頭がガックン、ガックンと揺れる、この感覚も久しぶりだ。 

なんて、感傷に浸っていると、当然のごとく吐き気が襲ってきたので、慌ててリンネの手を掴む。

……自分から握っておいて、リンネの体温にドキッとしたのは、誰にも言えない秘密だ。

「おいこら、やめろ、バカ。そのまま昇天したら、どうしてくれんだ」

「だ、だって! 再会した白木さんが急に死にそうになってるから!」

「急って訳でも、ないんだけどな……。さっきから割と、ピンチだったし」

「ピンチって……いったい、何があったんですか?」

リンネの問いに答えるように、俺は黒ローブに視線を向ける。

そこには、わなわなと肩を震わせる黒ローブの姿があった。

今までにない反応に、俺は思わず首を傾げる。

「マサカ……ホンニンガ、ゴトウジョウトハナ。クソガミガ」

そして、黒ローブの言葉から、やはり今までとは異なる憎悪が感じられた。

いったい、二人の間には何があるというのか。

「あなたは……なるほど。私が、かつて導いた方の一人ですね?」

俺の疑問の答えは、あっさりとリンネから、もたらされた。

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