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もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

初めての実戦~ただし、チュートリアルに非ず~

「……モウイイカ?」

「うぉっ!? あっぶな!」

一応、空気を読んで待っていてくれたらしい黒ローブだが、話が終わった瞬間に火球を放って来た。

だったら何で質問したんだと苦情を言いたいが、そんな暇はない。

俺は慌てて身を屈め、なんとか火球をやり過ごしたが、確かに感じた猛烈な熱量に冷や汗が流れる。

見た目に派手さはない。

大きさも速度も大したことはない。

しかし、直撃すればタダでは済まないという確信がある。

俺は、自分が死地に足を踏み入れたのだと改めて自覚した。

「……フム。サスガニ、コレクライハ、ヨケルカ。ナラツギダ」

淡々と杖を振った黒ローブの周囲に、3つの火球が浮かび上がる。

まったく……息つく暇もないな。

さっきから魔法名も唱えずに攻撃してくるが、もしかして、エルフや魔族だろうか。

あるいは、魔法ではない別の力?

いずれにせよ、危険であることに変わりはない。

「おぅ……らぁっ!」

連続して飛来した3つの火球のうち、2つをなんとか躱して、避けきれなかった最後の一つは白虹丸はっこうまるで叩き落とす。

それを見ていたプリムの瞳が大きく開かれ、黒ローブからも驚いたような気配が伝わってきた。

「貴方、その木刀は……」

「白虹丸! 少し気難しい俺の相棒だ!」

プリムの疑問に答えつつ、俺は黒ローブに斬りかかった。

これ以上、後手に回っていたら、蜂の巣にされるのが目に見えているから。

しかし、黒ローブも紫の短剣を懐から取り出し、キッチリと応戦してくる。

見るからに禍々しい紋様が入った、その短剣で、白虹丸の一撃一撃を逸らしているのだ。

ただ、やはり近接戦闘は不慣れな様子で、その動きにキレは見られない。

付け入る隙があるとすれば、ここしかない。

俺達は狭い屋内で、幾度も立ち位置を入れ替えながら、次々と刃を交えていく。

「そら、そら、そら、そらぁっ!」

「……メンドウダナ」

その声からは相変わらず感情が読み取れないが、どこか忌々しい響きに聞こえる。

黒ローブも近接戦の不利は悟っているらしい。

といっても、俺だって【基礎刀剣スキル】の恩恵に縋っているだけの素人だけど。

あとは白虹丸の丈夫さにも助けられてるな。

これが無ければ、さっきの火球の一撃で戦闘不能だった。

「気を付けなさい! 調子に乗って踏み込みすぎると、手痛い反撃を食らうわよ! カムも、その短剣の呪いにやられたの!」

なるほど、いつまで経ってもプリムの治療が終わらないのは、それが理由か。

ミルク曰く、プリムは、この街で一、二を争う優秀な治癒師だ。

その彼女が回復に専念しているにも関わらず、アバカムが目を覚ます様子はない。

つまり、あの短剣に込められた呪いが、それだけ強力だということ。

魔法にも秀でていて、チート級の武器まで持ってるとか、ラノベの主人公かよ、こいつ。

「……イイカゲン、メザワリダナ!」

俺の勢いに押され、防戦一方だった黒ローブだが、とうとう痺れを切らしたらしい。

またしても無詠唱で、今度は風の力を使い、強引に距離を取った。

そして、続けざまに火球を生み出す。

その数は、たった一つだけ。

ただし、大きさは今までの10倍以上、直径およそ2メートル!

「教会ごと焼き払う気かよ!?」

「フン……シッタコトカ。サァ、シノイデミロ!」

先程よりも勢いが増した巨大な火の玉を、こちらに解き放つ黒ローブ。

凄まじい熱源が一瞬で迫り、俺は反射的に白虹丸を振り払った。

直後、俺の両手に強烈な負担が襲い掛かる。

「ぐっ! こんのぉぉぉ!」

なんとか拮抗する白虹丸と大火球。

しかし、それ以上、押し返す事ができない。

そうしている間にも肌の表面が灼かれ、チリチリとした痛みが走っている。

直撃こそ、していないものの、この状態が長引けば、それだけで俺のケルンが限界を迎えそうだ。

「白木 春ッ!」

悲痛な色を宿した、プリムの叫び。

それは、俺を心配しているのか、はたまた、時間稼ぎの駒が無くなることを危惧しているのか。

——なんて、捻くれた邪推をするまでもなく、その顔を見れば、一目で分かった。

彼女が素直に俺の身を案じてくれているのだと。

……やれやれ、これじゃあ憎めなくなるじゃないか。

いや、憎まなきゃいけない理由も特に無いんだけどさ。

リンネの件で感じていた怒りは、いつの間にか、すっかり消え失せていた。

美少女に心配されて嬉しくなるとか、どんだけ単純なんだ俺は。

ただ、まぁ、おかげで腹は括れたかな。

「‘‘アースロ’’! それと、‘‘ダークネス’’!」

「っ!? 闇属性の魔法!?」

俺が戒めを破って、白虹丸を持ったまま発動したのは、地属性の基礎魔法‘‘アースロ’’と、闇属性の基礎魔法‘‘ダークネス’’。

‘‘アースロ’’は、大地から活力を得て、ステータスを一時的に引き上げる魔法。

‘‘ダークネス’’は、闇の球体を生み出し、魔力を吸収する魔法だ。

白虹丸を手にした状態で魔法を使うと、親和性が高まり、【呑まれる】危険がある。

だから、しばらくは白虹丸なしで魔法を使って馴らすつもりだった。

しかし、この期に及んで出し惜しみなど、していられない。

そして、少なくとも今回は、俺が賭けに勝った。

「おるぅぅぅあああッ!」

‘‘ダークネス’’で魔力を吸収し、縮小した火球を、‘‘アースロ’’によって増した膂力りょりょくで打ち上げる。

空高く舞い上がった火球は、猛烈な勢いで天井の穴を通り過ぎ、やがて上空で爆散した。

「……へへっ。どんなもんだ。お望み通り、凌いでやったぞ?」

【呑まれる】感覚を全力で抑え込んだ反動で、満身創痍になりつつも、俺は不敵な笑みを浮かべて見せた。

なんとか最後まで言い切ったのは、俺なりの意地である。

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