もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

白虹丸

「で、あの木刀が、どうしたって?」

勇気を振り絞ったスズリの決意を聞き届けた俺は、話を本題に戻すべく、ミルクに視線を送る。

というか、この店に来てから話が脱線してばかりだな。

いや、良く考えたら異世界に来てから、しょっちゅうか。

……あれ? そう言えば日本で妹と話してた時も、こんな感じだったような。

…………もしかして、俺は落ち着きがないのだろうか?

………………いやいや、そんな、まさか、小学生じゃあるまいし。

と、俺が俯いて1人で自問自答していると、不意にシャツの裾の辺りに違和感を覚えた。

「…………(くいくいっ)」

「あれ? どうしたんだ、スズリ」

顔を上げて見ると、スズリが俺のシャツの裾を軽く引っ張っていた。

相変わらず、こういう可愛い仕草が様になるな。

い奴めっ!

「…………」

そんな事を考えていた俺は、ふと無言の圧力を感じて、その出所に目を向ける。

そこには、分かりやすく、むくれたミルクが立っていた。

「どうした、ミルク。嫉妬か?」

「なんで、そうなりますですっ? 私は、ただ質問しといて話も聞かず、考え事に没頭していたハルさんに物申したいだけですます!」

「あっ……」

なるほど、スズリは、それを教えようとしてくれたのね。

「お兄さん、どないしたん? また例の悪夢のことでも考えてたん?」

「あー、まぁ、そんなとこ」

本当は、もっと、しょうもない事を考えてた。

けど、バレたらメチャクチャ怒られそうだから黙っておこう。

「……はぁ、なるほど。それなら、仕方ないですます。でも、いい加減に切り替えて話を聞いてほしいです」

「すまん、すまん。俺が一番の当事者だもんな。真面目に聞くよ」

「では、改めて……こほんっ。どうやら、あの木刀は昨日、とある冒険者から売られた物らしいのですが、鑑定しても詳しい能力が分からないそうですます。一応、極端に攻撃力が高かったり、装備しただけで特殊なスキルが使えるようになる、といった凄い能力は無いとのことです。その代わり、恐ろしく頑丈で、この店の最高級武器で攻撃しても、傷一つ付かないとか。ただ、どんな人が持ってきたのか、いくらで買い取ったのか、など、取引に関わる記憶が曖昧と言ってますです」

「それって無茶苦茶、怪しくないか? だって、昨日のことだろ? それに、木刀なんて珍しい武器の取引じゃないか?」

普通なら、かなり印象に残るはずだ。

「せやねぇ。でも、なんか運命を感じるなぁ。だって、ほら。白木おにいさんが白い木刀と出会った訳やん? 多分、白虹樹から作られた木刀やと思うけど」

……なるほど。

そりゃあ、確かに運命的だ。

あるいは作為的と言うべきか?

だけど、あんまり嫌な雰囲気は感じないんだよなぁ。

何の根拠もない直感だけど。

「その、白虹樹? ってのは凄いのか?」

「霧が深く立ち込める【迷いの森】で、ごく稀に発見される幻の樹やね。そもそも【迷いの森】自体、特定の場所を差す言葉やなくて、発生条件不明の自然現象を差す言葉やし。一説によると、空間の歪みによって現れるとか?」

「なるほど。良く分からんが凄いレア物だってのは分かった」

「まぁ、そんな不可解な経緯で手に入った物なので、出来れば早めに処分したかったとか。もちろん、ハルさんさえ良ければ、ですが。その場合は格安で譲ってくれるそうですます」

「…………(コクコク)」

スズリが申し訳なさそうに頷いている。

訳あり商品を押し付けるみたいで気が進まないんだろうな。

とはいえ、俺的には、あまり不穏なものを感じていない。

むしろ、なんだか懐かしい気配を感じるような?

…………よし、決めた。

「スズリ、これを売ってくれ」

「…………(オドオド)」

嬉しさ半分、不安が半分といった様子で、今さら焦っているスズリ。

でも、俺は、もう決めたのだ。

「大丈夫。変なことにはならないさ。むしろ、この木刀がを守ってくれるような、そんな気がするんだ」

「ふーん。まぁ、お兄さんが決めたんなら、ええと思うよ? もしかしたら、木刀この子が、お兄さんを選んで、お互いに惹かれ合ったのかもしれんし」

「……意外とロマンチストだな」

「今さらやね。錬金術なんてロマンの塊やん♪」

「……なるほど。言われてみれば、確かにな。」

「ミルクも異存はないですます! どうせハルさんは無茶苦茶な戦い方ばかりしますから、武器も頑丈な方が良いと思いますです!」

「失礼だなぁ。俺だって危ないことは出来るだけしたくないのに。まぁ、スズリ、そんな訳だ。安心して売ってくれ」

「…………(コクン)」

どうやら納得したらしいスズリから、木刀を受け取り、代金を支払う。

それと、スズリが、おまけで初心者用の革鎧もつけてくれた。

防具は所持金の関係で一旦、諦めるしかないかと思っていたので、ありがたく頂戴する。

そして、俺は初めて手に入れた自分の武器を掲げ、高らかに叫んだ。

「よろしくな! 白虹丸!」

「「えぇ~……?」」

何故か、仲間達からは微妙なリアクションを頂いたが。

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