もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

白の木刀とスズリの挑戦

「さてと、そろそろ本題に入ろう。スズリ、さっきも言ったけど、俺は駆け出しの冒険者なんだ。それで、【基礎刀剣スキル】を取ってるんだけど、初心者向けの安くて良い剣とか売ってないかな? 本当は刀にも興味があるんだけど、ここらじゃ手に入らないって聞いたからさ」

お互いに自己紹介を済ませ、少女(いや、だから少年だろ)の名前がスズリと判明した後、俺は今日の目的について話を切り出した。

「……………………(ピコンッ!)」

俺の要望を聞いて、しばらく考え込んでいたスズリだが、ふと何かを閃いたような顔をして、店の奥に引っ込んで行く。

何かしら、心当たりがあったのだろうと、大人しく待機していると、すぐにスズリは戻ってきた。

その手には、一本の白い木刀が握られている。

「それ、木刀だよな? 木刀って、実戦でも使えるもんなの?」

「何を言ってるんですます? そんなの、当たり前です。私だって、木槌を武器にしてますですよ?」

呆れたように言うミルクだが、そもそも木槌を実戦に使うのも充分に非常識だと思う。

まぁ、それは地球基準で考えたら、という話で、この世界では普通なのか。

「いやぁ、俺の地元だと木刀は素振り用。木槌は裁判長が『静粛に!』って、言いながら叩く奴ってイメージだからさ。まぁ、木槌で叩くのはドラマとかアニメ限定で、実際の裁判には無いらしいけど」

逆◯裁判とかで木槌を叩くシーン、好きなんだけどなぁ。

「また、よう分からん単語が出てきたねぇ。それはそうと、こっちでも、そういう使い方はされてるよ? ただ、実戦でも使ってるけど」

「マジかよ。こっちの木製製品って万能だな。そういえば、教会も木造建築だったし。そんで地味に裁判所の存在が発覚……と。実際に見てみたいけど被疑者になるのは勘弁だなぁ」

「そんなことより、今は木刀の話ですます! さっきから、スズリくんが置いてけぼりで困ってますです!」

ミルクの指摘に振り向いてみると、確かにスズリが困り顔でオロオロしていた。

これはこれで、可愛い姿が見られてラッキー、と言いたいところだが、残念ながら男なんだよなぁ。

俺の性癖はノーマルなので、残念ながら恋愛対象外だ。

まぁ、可愛いものは可愛いので、取り敢えず愛でるけど。

という訳で、口をアワアワさせてるスズリを落ち着かせる意図も込めて、頭を撫でつつ話を戻す。

「すまんな、スズリ。さて、その木刀だけど何か曰く付きだったりするのか? 店の奥から引っ張り出して来たみたいだけど」

まぁ、訳あり商品とか俺は好きだし、支障が無さそうなら気にせず使うつもりだが。

「…………(コクコク)」

そして、俺の予想は当たっていたようで、スズリが申し訳なさそうに頷いてる。

しかし、ただの粗悪品を売り付けようという話ではないだろう。

そんな店ならミルクが贔屓ひいきにする訳ないし、スズリのイメージにも合わない。

「気にするな。ただ、詳しい話は聞かせてくれるか?」

「…………(コクコク!)」

今度は嬉しそうに頷いて、スケッチブックを開くスズリ。

しかし、何かを考え込むように筆を止め、しばらく悩んだ結果、ミルクを手招きした。

「あー、話が長くなりそうですます? 分かりましたです」

そう言って、ミルクは素直にスズリの元へ行き、耳を傾ける。

そして、小声でミルクに耳打ちするスズリ。

時折、漏れ聞こえてくるスズリのささやき声は、小鳥のさえずりのように綺麗だった。

ホント、なんで男なんだ……もったいない。

まぁ、本人は気にしてるみたいだし、口には出さないけど。

やがて、スズリの説明が終わったのか、ミルクが戻ってくる。

「話を聞いてきましたです」

「お疲れさん。あの方法だと会話できるのか?」

「どうやら、慣れてない人に自分の声を聞かれるのが、緊張する切っ掛け、らしいですます。ここには、ハルさんとアインさんが居ますから」

「ってことは、ミルクはんだけなら普通に会話できるのん?」

「そうですね。一人で来た時は良く話してますです。緊張さえ無ければ、お喋り好きで、話し相手に飢えてますから」

「そうなのか。俺で良ければ、いつでも相手になるぞ! まぁ、迷惑でなかったら、だけど」

「…………(パァッ♪)」

スズリは表情を輝かせた後、なにやら迷うような素振りを見せ、口をモゴモゴと動かした。

そして、

「……がん……ばり、ます……」

蚊の鳴くように小さな声で、そう言ってくれたのだった。

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