もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

ミルクの【アレ】

「ふーん、悪夢にうなされた……ねぇ。まっ、そんなん、ようあることやし、気にせんでええと思うよ? なんやったら、ウチが作った睡眠薬でもあげよか? 気持ち良く寝られるで。起きられる保証がないのが欠点やけど」

「最悪じゃねぇか。それなら悪夢に悩む方が健全で安全だよ」

「というか、それはもう睡眠薬じゃなくて永眠薬ですます」

「あははっ、ミルクはん上手いこと言うなぁ」

「笑い事じゃねぇよ!?」

アインの屋敷の1階にある食堂で、ミルクが作ってくれた朝飯を食いつつ、俺は二人と雑談を交わしていた。

相変わらず、アインの発明品には戦々恐々とさせられるが、こんな馬鹿なやりとりをしている内に、悪夢の恐怖は、すっかり薄れている。

「あーあ、どうせなら、ミルクの【アレ】に押し潰されて死ぬ悪夢が見たかったわ」

「……なるほど、ミルクの【コレ】ですね? もう、しょうがない人ですね、ハルさんはっ♪ 分かりましたです。今回は特別ですよ?」

「うん、ごめんなさい。調子に乗りました。だから、そのハンマーは勘弁してください!」

俺の遠回しなセクハラに対し、ミルクが満面の笑みを浮かべて、木槌を振り上げた瞬間、俺は躊躇なく土下座した。

それはもう芸術的とすら言える見事な土下座だったと自負している。

妹に土下座し続けて十数年の俺が言うのだから間違いない。

「まったく、もう! ハルさんは、どれだけ、お胸が好きなのですます? もう、お胸と結婚するか、性転換して自分のお胸を好きなだけ揉めば良いと思いますです」

「ほぅ、面白そうやね? なんなら今から女の子になる薬でも作ろか?’」

「分かってない! お前達は何も分かってない! おっぱいなら何でも良い訳じゃないんだ! 好きな子のおっぱいだから愛しいんだよ! むしろ、好きな子のおっぱいなら、たとえ揉めないサイズであっても愛せるんだからねっ!」

「……何でウチらは朝っぱらから、白木はんの熱い性癖トークを聞かされてるんやろな?」

「ミルクに聞かれても、困りますです。……というか、あんな最低な流れで好きな子とか言われても嬉しくなんて、ないですます」

「ん? 何か言ったか?」

「なんでもない、ですます! ハルさんのバーカ!」

「えー……?」

なんだろう?

「このロリコン!」とか「おっぱい星人!」とか「お巡りさん、こいつです!」とか、そんな感じのセリフだったのだろうか。

気にはなるものの、ミルクは頬を膨らませてお冠の様子なので(全く怖くないし、むしろ和むけど)、聞き直すのは止めておいた。

「まぁまぁ。そんなことより今日は、お兄さんの武器を見に行くんやろ? 刀剣スキル取ってたし、この辺りやと、やっぱり剣かな?」

「あー、そうだな。刀はナマクラしか無いって話だったし。それと、今日は魔法の使い方を教えてくれるんだよな?」

実は昨日、基礎魔法のスキルを習得してから、二人に厳命されていたのだ。

絶対に、一人で魔法を試そうとしないこと、と。

なんでも、この世界の魔法は、扱いを誤ると暴走する危険があるらしく、慣れない内は細心の注意と経験者による監督が推奨されているそうだ。

当然、俺には、そんな危ない橋を渡るメリットも無いので、大人しく指示に従っている。

今日、アインから初めて魔法の使い方を教わる約束だった。

「せやね。買った武器を試すついでに、草原辺りで教えたげるわ。……そういえば、お兄さんって、武器を買うお金はあるん?」

「一応、ミルクと初めて行った依頼の報酬が残ってるから、初心者用の武器くらいなら買えると思う。多分、それで底をつくから防具には手が出ないけど」

「ふーん。まぁ、草原のモンスター相手なら、防具なしでも、即死はせんやろ。回復薬は持ってるしな」

「……アインの薬ってのが心配だけど。まぁ、頼りにしてる。んじゃ、行こうか、ミルク」

「はいですます!」

なにやら拗ねてしまっていた様子のミルクだが、もちこと戯れて既に機嫌を直したらしい。

ホント、痒い所に手が届くというか、細かいところで、もちこには世話になりっぱなしだな。

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