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もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

アインのおうち

「ハルさんっ!」

「ハッ!?」

聞き慣れた誰かの声に脳を揺さぶられ、曖昧な意識が一気に覚醒する。

慌てて飛び起きた俺の目に映ったのは、こちらを心配そうに見つめるミルクの姿。

そして、ベッド以外に、ほとんど家具が見当たらない殺風景な部屋の光景だった。

「ここは……」

「ハルさん! 目が覚めたです? ここはアインさんのおうち、ですます。昨日から、しばらく、ここに泊めてもらう事になりましたですが、覚えてますか?」

「……ああ、そういえば、そうだったな」

昨日、ギルドで大騒ぎして、武器屋の訪問を延期した後に、アインから提案されたんだっけ。

パーティーメンバーになったことだし、炊事、洗濯、掃除なんかを担当してくれるなら、タダで寝泊まりして良いって。

それで、金欠の俺が飛び付いて、ミルクも一緒に住むことになって、この客室を借りた。

ちなみに、ミルクは隣の客室だ。

俺としては相部屋でも、全然ウェルカムだったけど、ミルクが顔を真っ赤にして拒否ったから、泣く泣く、一人部屋になったんだよな。

「それより、一体どうしましたです? ハルさんを起こしに部屋の前まで来たら、すごい剣幕で返せ! って聞こえて……。強盗にでも襲われてるのかと思って、ビックリしました」

「あぁ、なんでも……なんでも、ないんだ。ただ、夢見が悪かっただけで」

「なら、いいですが……。それって、どんな夢だったんですます?」

「それは……」

それは、なんだっけ?

何か恐ろしいものを見た気がするけど、何に怯えていたのか、まったく思い出せない。

こんな経験は、日本にいた頃にもあったし、悪夢の内容が思い出せないなんて、別に珍しいことでもないだろう。

なのに、妙に心がざわつく。

何か、目に見えない脅威が迫っているような、不吉な予感。

「ハルさん?」

「あっ、ええっと、ごめん。どんな夢だったかは思い出せなくて」

「そう……ですか。まぁ、悪い夢なんて気にする必要ないですます! 美味しい朝御飯でも食べてれば、すぐに忘れますです。ほら、行きますよ!」

「あっ、ちょ、着替え! 着替えるから!」

俺を気遣って、明るく振る舞うミルクに感謝しつつ、いったん部屋を出てもらう。

そして、アインから貰った錬金術製の寝間着から、同じく錬金術製の普段着に手早く着替えた。

「寝間着も着心地よかったけど、この服も動きやすくていいな。それに、デザインもカッコいいし」

これらは、アインが錬金術の修行をする過程で手掛けた試作品らしい。

まぁ、錬金術と言いつつ金属は一切、使われてないけど。

金をる術じゃねーのかよ、とツッコミたい所だが、ゲームに出てくる錬金術も、そんな感じだったりするし、気にしたら負けと思うことにしよう。

俺は悪夢の記憶から目をそらすように、そんな事を考えつつ、2階の個室を出て階下の食堂に向かったのだった。

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