もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

ギルドカードでイチャイチャ

「さて、パーティーも三人になったことだし、いよいよクエストを受けていきたい所だけど、先にやることがある」

ミルクがギルドのBARに合流し、いざクエストを選びに……というところで、俺は待ったをかけた。

それにより、腰を浮かせかけていた二人が座り直し、顔を見合わせる。

「何か、ありましたです?」

「さぁ、なんやろな?」

まったく心当たりがない様子の二人。

俺の格好を見れば一目で分かると思うんだけどな。

「俺、まだ職業が決まってないし、武器もないんだけど……」

「あっ……」

おい、気まずそうに顔を背けるなミルク、お兄さんの顔を見なさい。

「なんや、お兄さん。まだ、武器もなかったん? そういえば、アイテムポーチも持ってないみたいやし。それで、街の外に出るとか勇気あんなぁ。というか今まで、どないして生きてきたん?」

俺の顔をまじまじと見ながら、呆れたように呟くアイン。

まずいな、転生のことを言うわけにもいかないし。

ちなみに、ミルクと合流するまでの間に、アインが転生者でないことは確認している。

見た目は日本人で名前は外国のもの、という可能性も考えていたけど、どうやらアインは元々この世界の住人らしい。

「いやぁ、結構な田舎から出てきたから世間のことに疎くてな。迷惑かけるだろうけど、温かく見守ってくれると助かる」

「田舎から……ねぇ。ま、ええよ。誰にだって隠し事の一つや二つはあるもんな?」

「そ、そうですね」

「何で急に敬語になったのですます?」

「な、なんでもない」

滅茶苦茶に怪しまれたけど、どうやら二人とも見逃してくれるようだ。

つくづく、仲間に恵まれてるな俺は。

「それで、話を戻すけど、俺はどんな職業を選ぶと良いかな?」

「そうですねぇ。ミルクが前衛、アインさんが後衛ですから、バランスを考えると、状況に応じて間合いを切り替えられる魔法剣士あたりが良いと思いますです」

「せやなぁ、ウチも賛成かな。ウチがミルクはんに回復アイテムを使うてる間はお兄さんに囮になってもらったり。ウチが襲われそうになったら、守ってもらったり。色々と忙しい立ち位置やとは思うけど」

「魔法剣士か……悪くないな!」

やっぱり、異世界に来たからには魔法は使いたいし、単純に剣士にも憧れるしな!

あと、魔法剣士は男心をくすぐる響きがある。

「ところで、お兄さんのステータスって、どうなってますです? 参考にしたいので、ギルドカードを見せてほしいですます」

「あー、ミルクと初めて会った日に冒険者登録でもらったアレか」

そういえば、ミルクたちと冒険に出る前に、ギルドの受付で貰ったんだっけ。

ポケットから引っ張り出した、キャッシュカードのような見た目のギルドカードを、素直にミルクへ手渡す。

すると、受け取ったミルクは、何故か困ったような顔を見せた。

「……あのう、一応、言っておくと、ギルドカードには大事な個人情報がいっぱい載ってますですから、あんまり他人にホイホイと見せちゃダメなのですよ? 悪用されるかもしれないですます」

「いや、さすがに俺も、それくらいは分かってるよ。発行してもらった時に念入りに注意されたし」

「だったら——」

「でも、いま渡したのはミルクだぞ? 悪用なんてする訳ないだろ? 信頼してる大切な仲間に渡して、なんの問題があるんだ?」

むしろ、ギルドカードも見せられないような相手と冒険に出る方が危険だと思うんだけどな。

しかし、俺の言葉を聞いたミルクは顔を赤くして、俯きながら、こっちを睨んでいる。

「ううぅ……///」

ついには、なんか唸り出した。

「なぁ、なんで俺は睨まれてるんだ? 何か怒らせるような事したかな?」

「さぁてなぁ。強いて言うなら、その鈍感さ、というか天然でやらかす所と違う?」

アインに助け船を求めるも、何故かニヤニヤと楽しそうに笑うばかりだ。

むぅ、いったい俺が何をしたと言うんだ。

「まったく、もう! ハルさんは、まったく、もう!」

「ど、どうした? 何が言いたいのか全く分からないぞ?」

「確信しました! ハルさんは、ほっといたら絶対に詐欺に引っ掛かって身を滅ぼすタイプの貧弱な人ですます! ミルクが、ちゃんと見てないと何するか、そして何されるか分かりませんです!」

「そこまで言うか!? っていうか、ミルク、貧弱な人、好きすぎだろ! そっちこそ、いつかダメ男に尽くして身を滅ぼしそうなんだけど!?」

「別に好きじゃありませんです! 勘違いしないで欲しいですます! ただ、放っておけないだけです!」

「なぁ、イチャイチャするんやったら、帰ってええ? この空間にポツンと残されるん辛いんやけど。なぁ、もちこはん?」

「……(プルプル)」

「イチャイチャなんて、してない! ただの保護者目線だ!」

「保護者は、こっちのセリフですます! もう、ハルさんは一人前になるまで、他所のパーティーには行かせられませんです! 危なっかしくて!」

「……どこをどう見ても、バカップルにしか見えんわなぁ。ま、面白いからええけどね」

「……(ぴょんぴょん)」

「にしても、この子、かわええなぁ。お兄さんに愛想尽かしたら、いつでもおいで?」

「……(びよーん)」

そんな感じで、わいわいと騒いでいた俺達は、いつかのように、女マスターに樽ごと水をぶっかけられ、ようやく落ち着きを取り戻したのだった。

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