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もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

ガラクタの錬金術師

「おぉ~。ちょうど、ミニマムウルフが、ぎょうさんおるな~」

「あの、ちっこいぬいぐるみにしか見えない奴らか?」

「はい、ミニマムウルフは世界最弱の狼とも呼ばれてますです。だから、ああして常に群れで行動してるんですます。1匹辺りの強さはスライム5体分くらいかと」

「それでも、スライムの5倍くらいは強いのか……。もちこ、強く生きろよ。お前には俺がついてるからな」

「…………(ぷるるんっ)」

草原にやって来た俺達は、100メートルくらい離れた位置で、うろうろとしているミニマムウルフを眺めつつ、雑談を交わしていた。

飛び跳ねる、もちこの様子は、なんとなく喜んでいるように見える。

うむうむ、こうして懐いてくれると主冥利に尽きるというもの。

「なぁ……お兄さんってレベル1なんよね? なんで、モンスターがテイムもせずに懐いてるん?」

「もちこは良い子だからな!」

「いや、説明になってないですます。……たぶん、もちこちゃんが【自分を甘やかして、褒め称えて、食べ物をくれる何か】として、ハルさんを認識してるからだと思いますです」

冷静なミルクの解説に、俺はへそを曲げつつ、

「ちげぇし! もちこは俺の嫁!」

と、力の限り宣言してみる。

「おぉ! 種族を越えた愛! えぇなぁ!」

「いや、話をややこしくしないで欲しいですます!」

そんなこんなで、一通りいつもの流れをこなしたので、真面目にモンスターの動きを伺うことに。

「さて、単純な疑問なんだけど。群れてる狼を相手に、こんな遮蔽物のない広い空間で、真正面から挑むってどうなんだ? というか、狼って普通、森の中で狩りをするもんじゃないのか?」

「モンスター相手に、野性動物の常識を当てはめても意味ないですます。モンスターは純粋な幻素げんその塊、魔法生物ですから」

「幻素って、この世界において全ての素になる存在だったか。人間も、動物も、石ころも、風や水、炎や大地に至るまで、ありとあらゆる存在、現象の母」

いつだったか、リンネに教わった、この世界の常識だ。

本当に、あいつには色んなことを教わった。

「そうですます。だから、モンスターを攻撃しても、血は出ないですし、空腹で死ぬこともないですし、動物の行動原理も通用しませんです」

「ん? でも、もちこって、よくご飯を食べてるよな?」

「…………(ぷるぷる)

「あれは、栄養補給というより、幻素を求めてるのですます。大抵のモンスターは食べたものを分解するか、他の生物を攻撃することで幻素を吸収し、強くなれますですから。その代わり、ケルンは記憶や感情など、余計な情報量が多すぎて敬遠されるとか」

「なるほど……。つまり、好き嫌いせずに何でも食べられる、もちこは成長が早いってことだな!」

「…………(ぴょんぴょん)」

「そうは言うても、その子はスライムやし、強くなっても、それほど戦力には、ならへんのと違う?」

「何を言う! 俺のもちこは、やがて世界最強のスライムになる子だぞ!」

「……もし、本当にそうなったら、テイム無しで連れ回すんは危険やろねぇ」

「あー、その問題があったか。まぁ、その辺は、おいおい考えるとして、まずはミニマムウルフって奴を何とかするんだろ?」

「せやね。ほな、そろそろ始めよか」

「といっても、どうやって倒すつもり、ですます? アインさん本人は、か弱いと言ってましたし、この見晴らしの良い草原じゃ、不意討ちでアイテムを使うのも楽じゃないと思いますです」

「そこは、知識と工夫の見せ所やね。まずは、これっ!」

アインは肩から下げたアイテムポーチをまさぐり、筒状の何かを取り出す。

ちなみに、アイテムポーチは冒険者だけに留まらず、世界に広く普及するマジックアイテムだ。

異空間に保存するため、見た目よりも多くの収納スペースを誇り、外界に影響を受けることも与えることもない。

さすがに劣化を止めたりはできないが、それでも人間が携帯できる物資の上限を増やしてくれる、このアイテムは生活の必需品だ。

そこそこ値が張るから、俺はまだ持ってないけど。

「なんだ、それ? 紙で出来た筒?」

「さて、何やろな? 頑張って当ててみ?」

ぽいっと、こちらに謎の筒を投げ渡した、アインの挑戦に応えるべく、一通り回して見たり、軽く叩いたりしてみるが、良く分からない。

が、どこかで似たような物を見た気もする。

「うーん、さっぱり分かりませんです。こんな筒でミニマムウルフを倒せるですます?」

「まずは、って言うたやん。これは、こう使うんや……でっ!」

筒を回収したアインは、火の基礎魔法‘‘ファイラ’’を使って点火し、それを狼の群れに向かって投げつけた。

とはいえ、100メートルは距離があるため、筒は俺達と狼の中間辺りで落ちるような軌道を描いている。

このまま、地面に落ちるか、と思った次の瞬間。

「あっ、言い忘れてた。目、瞑りや?」

「え?」

「ッ!」

間抜けな声を漏らし、反応が遅れた俺と、即座に動いたミルク。

その差を、俺は身をもって痛感することになる。

次の瞬間、

カッッッ!!

と、圧倒的な光が世界を白く染め上げたのだ。

「ぎゃあああ!? 目がぁ! 目がぁ!?」

ようやく気付いた。

あの筒の見た目は市販の打ち上げ花火にそっくりだ。

ただし、効果はどちらかと言うと閃光手榴弾だったけど。

そんなことを考えつつ、俺は人をごみ扱いする、どこぞの大佐のようなセリフを吐いて、地面に転がり、のたうち回る。

しかし、すぐさま小さな手に取り押さえられた。

「あ、危ないです、ハルさん! ミルクもまだ目を開けられないですから、光が収まるまで落ち着いてくださいですます!」

「まだ光ってんの!? こういうのって普通、一瞬だけのもんじゃない!?」

「ミルクに聞かれても知らないですます!」

「あちゃー、光が漏れんように紙の耐久度には気を使うたんやけど、ちょーと、効果時間が長すぎるなぁ。堪忍してな、お兄さん? さすがに、こんなん、街中では試せへんから」

「外でもやるな! 地下でやれ!」

「なるほど、その手があったわ! 金が貯まったら家の増築せんとなぁ」

このガラクタ錬金術師、まさかの家持ちだったとは。

こう見えて、意外と稼いでいたのだろうか。

いや、今は何も見えないけどさ!

そうこうしているうちに光が収まり、瞼の外から感じていた刺激は消えたものの、相変わらず視力は回復しない。

「なぁ、これって失明はしないよな? 大丈夫だよな?」

「さすがに、そのラインは越えんように気を使うてるよ。あと、一分もすれば元通りや。だから、その前にケリを付けんとなぁ」

アインはそう言いつつ、またアイテムポーチをがさごそと探っているようだ。

目は見えないが、音で分かる。

「おい、今度は何するつもりだ?」

「くんくん……香水、ですます?」

「当たりっ。でも、この瓶やと密閉性に難アリやなぁ。こっちも改良せんと」

「それより、説明! こっちは目が見えなくて、メッチャ怖いんだけど!?」

「大丈夫や、今度は何もせんでも、痛い思いなんかせぇへんから。……酸っぱい思いはするかもやけど」

「おい、後半なにか小声で言ったろ!」

俺の抗議はまるっと無視され、キュポンッ、と軽快な音が響く。

同時に、鼻を突く強烈な刺激臭!

「くっさ! え、な、くっさ!? ちょ、おい、くっさ!」

「ハルさん! 語彙力が! でも、確かにクサイのですます!」

「あー、すぐに散らすから気にせんといて」

「え、おい、まさか!?」

頬に僅かな風の流れを感じた、次の瞬間、

ドドドドドッ!!

と、けたましい足音が次々と響き渡り、こちらに近付いてくる!

おそらくは風の基礎魔法‘‘ウィンドレ’’で、そよ風を起こし、先程の香りを押し広げて敵に浴びせたのだろうが、そんな経緯はどうでも良い!

「ちょ、どうすんの!?」

ここらで、ようやく視力が回復してきたものの、対処できるかは別の話。

改めて草原を見渡せば、散開していたミニマムウルフの群れが全て、こちらにやって来ており、総数は50を越えている。

頼りのミルクも、この数が相手では損害なしで捌ききるのは難しいだろう。

「心配せんでも自分で呼んだ客くらい、自分だけで、もてなすさかい、お兄さんらは高みの見物しててええよ」

扇状に広がり、着々と距離を縮めてくるミニマムウルフの群れに向けて歩き出したアインは、両手を勢い良くアイテムポーチに突っ込む。

そして、

「な、なんだ、それ!?」

「気持ち悪いのですます!」

アインは紫を基調とした毒々しい斑模様のぬいぐるみを大量に取り出した。

無理矢理、纏めて掴んでいるせいで、顔や胴体が不自然に歪んでおり、さらに不吉な見た目になっている。

「さぁて……今日は爆破祭りやああああ!」

「「だめぇぇぇ!?」」

その日、草原を染め上げた光、広がった刺激臭、爆発するぬいぐるみなどが、門番の兵士を含めた多数の人間の苦情を呼んだのは言うまでもない。

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