もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

宴と門出

「今日はお疲れさん! クエストの成功と、新たな冒険者の前途を祝して、乾杯っ!」

「「乾杯っ!」」

あれから何事もなく、無事に仕事を終えた俺達は、ギルドで報告を済ませ、報酬を受け取った後、地下のBARで祝勝会に移っていた。

スキンヘッドのオヤジが乾杯の音頭を取り、互いに色とりどりの液体が入ったジョッキをぶつけ合って、カランッと景気の良い音を響かせる。

初めて来たときは敷居が高そうな、落ち着いた雰囲気のBARだと思ったが、意外にジョッキの飲み物も出していたり、こんな風に騒いでも怒られなかったりと、気軽に利用できる場所だったらしい。

足元では、もちこも元気に跳ね回っており、山と積まれた何かの草を美味しそうに食べている。

そして、隣のリンネは乾杯の音頭と共に豪快にジョッキを傾け、ピンク色の中身を一気に半分ほど飲み干していく。

ゴクゴクと動く喉元には、口の端から溢れた1滴の雫が伝い、キメの細かい肌が光って、妙に視線を吸い寄せられる。

やがて、リンネはダンッ! と音を立てて、ジョッキを置いた。

「っぷはぁ! いやぁ、飲んでますか、白木さん! 私は飲んでます!」

「いや、いま乾杯したとこだよ! 何でだよ、酔うの早ぇよ! 飲んでるんじゃなくて飲まれてるだろ!」

お前に見惚れた俺の純情を返せ!

つーか、これ酒じゃないって聞いたんだけど!?

「確かに! 上手いこと言っちゃってぇ、アハハハハッ!」

「うっざ! この女神……じゃなくて女、酔うとうっざ!」

「も~、そ~ゆ~イジワルなこと言うなら、白木さんが買ってきてくれた、このパンナコッタ分けてあげませんっ。はい、あーんっ」

「頼む、一秒前の発言を思い出してくれ」

「……え? 結婚ですか? もー、気が早いですねぇ。私たち出会ったばかりですよ? それに、私は女神――」

「――だあっ!? 何をワケわからんことを!」

酔った勢いで、意味不明かつ、えらいことを口走る、リンネの唇を慌てて塞ぐ。

こいつ、ホント酒癖わりぃな!

「う、んぅ……ん、んぁ……」

「いや、そこは、むぐっ!? とか言えよ! 何で色っぽくうめいてんだ!」

「ちゅぱっ、ちゅ、ちゅううう。はむはむ」

「おいこら、人の指を吸うな! 甘噛みもやめろ!」

「っぷはぁ! いやぁ、飲んでますか、白木さん! 私は飲んでます!」

「無限ループすな! つか、人の指なんか飲んでたらサイコパスだよ!?」

「うふふっ、あははははっ! し、白木さんたちが面白すぎるですます! もう、お二人で芸人として生きるのもアリだと思いますです!」

「だっはっは! そりゃあ、いいや! 今日みたいに命懸けでモンスターから逃げ回るよりは、兄ちゃん達に向いてそうだ! その時は、ぜひ最初の客として呼んでくれよな!」

「笑ってないで助けろぉぉぉ!?」

そんな感じで賑やかに時間は進み、やがてリンネが酔い潰れて寝落ちした所で、タイミングを見計らったように、スキンヘッドのオヤジが口を開いた。

「それで、ミルク。さっき話してたことは、もう決めたのか?」

オヤジにさっきまでのふざけた雰囲気はなく、どこか子の旅立ちを見送るような、暖かさと、誇らしさと、少しの寂しさが混じったような様子だ。

「はいっ。私は、しばらく白木さんと一緒に行こうと思いますです」

「えっ?」

ビシッと手を挙げて、思わぬことを口にするミルク。

一緒に行くって、どこに?

「そうか。……兄ちゃん、ミルクはちょっと、変わった子だし、兄ちゃんが強くなるほど大変になると思うが。まぁ、良くしてやってくれや」

「いや、えっと、まだ状況が理解できてないんだけど?」

「カーッ、鈍いな兄ちゃん! ミルクは、しばらく、お前さんとパーティーを組むって言ってるんだよ!」

「そ、そうなのか?」

「はいっ。ふつつか者ですが、よろしくお願いしますです!」

ペコリと頭を下げるミルク。

「その申し出は大変ありがたいけど、何でまた?」

も、もしかして俺に気があったり……とか?

「それは……ミルクが白木さんのこと……」

少し潤んだ瞳で、こちらを見つめ、切なそうな顔をするミルク。

おい、嘘だろ。

まさか、本当に?

「白木さんのことが…………すごく心配だから、ですます!」

「……うん、だよね。知ってた。知ってたとも」

本当だからな!

別に、勝手に舞い上がった恥ずかしさとか、期待を裏切られたショックとか感じて、泣きそうに何てなってないかんな!

「まぁ、理由はそれだけでもないです。白木さんは貧弱ですが、自分の貧弱をきちんと理解してるタイプの貧弱ですます。貧弱だからこそ決して無理をせず、かといって貧弱だと卑屈にもならず、貧弱なりに自分に出来ることを見つけて精一杯、頑張れる貧弱な人だと見ていて思いましたです」

「あの、誉めるのか貶すのかハッキリしてくれない?」

一度のセリフで何回、貧弱を連呼すれば気が済むのか。

貧弱が頭の中でゲシュタルト崩壊しそうだ。

「白木さんは、いつか、きっと強くなれますです。そして、そんな人を守れるのが重戦士タンクの生き甲斐ですます!」

戸惑う俺をよそに、ミルクは自分の想いを熱く語る。

まぁ、悪気はないんだろうし、偽りのない本心って、そういうもんだよな。

良いところも、悪いところも、全部ひっくるめて自分という存在を認めてくれる。

それは、上っ面のお世辞や馴れ合うだけの関係よりも、ずっと価値のあるものだろう。

「……ありがとう、ミルク。いつか、守った甲斐があったって、この選択が間違ってなかったって言ってもらえるように、頑張るよ。これから、よろしく!」

「はい! そんな日が来るまで、しっかり、お守りしますです!」

「くぅ~っ! ついにミルクも独り立ちか! お前ら、今日は祝いだ! まだまだ飲むぞ!」

「「おうよぉぉぉ!」」

俺達のやり取りを聞いていたオヤジ三人が男泣きしつつ、高らかにジョッキを掲げ、乾杯する。

その後も祝いの席は明け方まで続き、俺達は、いつしか全員が寝落ちしていた。

なお、散らかった残飯やゴミの類いは、寝ている間に、もちこがキッチリと平らげて、処理してくれていたため、マスターに苦情を言われる事もなかった、という後日談があったりする。

もちこ、マジ女房。

コメント

  • S.F.瑞穂

    はじめまして、読者です。
    今日は、ここまで一気見しましたが、とても面白い内容だと感じました。ここからどうなるか楽しみです!!

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