魔法×科学の時間旅行者

伊達\\u3000虎浩

第1章 校内ランキング戦 上(5/5)

 
【1】


 香菜と一緒にあずさがいる教室へと向かう拓斗は、伊波にもこの事をメールする。
 さきほど不機嫌になった事や仲間ハズレにされたなどと、思ってほしくないと考えたからであった。


 あずさがいる教室は、拓斗が普段から通っている教室でもある。同じクラスなのだから当たり前なのだが念の為、香菜に先に入ってもらう事にする。


 漫画やアニメ、ドラマでよく見かけるワンシーンを想像した為であった。


「あずさー!大丈夫ぅ?」


 ノックをする事なく香菜はドアを開け、中で困っているであろう友人に声をかけた。


 スタスタと教室に入る香菜を見ながら、中に入っていいのかどうか考える拓斗であったが、もしも中で着替えていたのであれば、流石に香菜が止めるだろうと判断して、中に入る事にした。


 自分が普段から通っている教室だというのに、何故こんなにも、気をつかわなければならないのだろうか。


 そんな事を考えていた拓斗を見て、あずさが声をかけてきた。


「た、拓斗!助けて!」


 涙目になりながら、拓斗に助けを求めるあずさ。
 一体何があったのかと思った拓斗は、とりあえず落ち着くように声をかけた。


 拓斗の言葉に、あずさは大きく深呼吸をする。


「実は…その、デ、データがね、き、消えちゃって」


 何故か目を決して合わせようとしないあずさ。


「…消したのか?」


「…!?き、消えちゃったのよ」


 消したのと消えたのでは意味が違う。
 さて、どうするか。
 目を泳がせるあずさに対し、拓斗はどうするかと考える。消えたのであれば、また作ればいいだけなのだが…嘘をついていた場合が問題であった。


「拓斗、あずさは嘘をついていないよ。保証する」


 拓斗が何を怪しんでいるのかを、正確に理解した香菜が拓斗に声をかけてきた。
 拓斗は特に答えず、香菜の方を向いた。


「あずさはね、普段から微力な電磁波が発生しているんだよ。だから消えたのは、自分の所為じゃないのか?って、疑われてしまうと思って悩んでいたんだと思う」


 真剣な表情で、香菜は続ける。


「長い付き合いだから分かるんだ。何なら手伝うからさ、ね?」


 だから、これ以上はやめてあげてほしいという意味だと理解する拓斗。


「疑っていたわけじゃないさ。消えてしまったという事は、ウィルスの可能性があるんじゃないかと思ってね」


 半分は嘘である。
 しかし真実を語ったとして、お互いが嫌な気持ちになるのであれば、真実を語る必要などない。
 それに、ウィルスについて考えていたのは本当であった。


「ウィルス?」


「そうだ。もしくはハッキングとかかな」


『ハッキング!?』


 あずさの返しに、ハッキングの可能性を指摘する拓斗。指摘された二人は、声を揃えて驚きの声をあげた。


「そうだ。消えたのは校内ランキング戦の日程…日程を知る事によって、日程を調整する事が出来る」


「ちょ、ちょっと待って!それって、校内に犯人がいるって事?」


「外部の犯行か、無差別によるたまたまなのか、しかしこの時期に、そんなたまたまが重なるだろうか?」


 無いとは言えない。
 もしもこのクラスだけではなかったとしたら?そう考えた拓斗は、香菜に指示を出した。


「香菜。もうすぐ伊波も来るはずだから、調べてくれないか?」


 何について?などとは聞かないし、調べる必要がないなどとは思わない。
 話しの流れや、伊波とは同じクラスであり、学級委員長と副委員長でもあるのだから、調べる必要がある。


「分かった!ちょっと待ってて」


 そう言って、香菜は教室を後にする。
 たまたまならいいが…そんな事を考えていた拓斗であった。


 ーーーーーーーー


【2】


 香菜が教室を出て行った為、あずさと二人っきりになる拓斗。だからといって、お互い気不味くなったり、会話が無くなるなどという事はない。


「ねぇ拓斗。ランキング戦の日程をもし盗んだとして、メリットなんてあるの?」


「メリットはあるさ。ランキング戦で活躍したペアは、国際ランキングに載る可能性が高い」


「つまり…どういうこと?」


「つまりはだな…」


 そう前置きをして、拓斗は語り出した。


 国際ランキングとは、国が決めたランキングであり、ランキングによってはお金が手に入る。
 しかし、戦争や紛争、治安維持の為に、軍に必ず出頭しなければならないという決まりがある。


 今回、校内ランキング戦の資料が盗まれたのは、この国際ランキングが少なからず関わっていると思われる。


 1学年には現在200人の生徒がいる。
 ペアを組んでいる生徒や、その時だけのペアの生徒はいるが、約100組のペアができる。


 校内ランキングは、トーナメント式ではあるが、全ペアが戦う事はない。
 各ブロックに別れて、その中でのトーナメント式となっている。


 A〜Eブロックで、各ブロックに20組。
 そのブロックで、学校が決めた評価によって、ポイントがもらえる。


「……大体はわかるわ。それで?」


「簡単な話しだよ。ポイントがほしいのであれば、弱いやつと戦えばいい」


「それじゃぁ…狙いは」


 そう。狙いは補欠である俺、桐島拓斗である。


「もしも、香菜達のクラスも被害があるなら問題はないし、データが消えた原因が別ならばそれはそれでいい…しかし、違った場合は何か対策をうたなくてはならない」


 そういった経緯もあって、各クラスの委員長と副委員長が、どのブロックにどのペアにするかを話しあって決める。と言っても、あくまで個人戦のようなものであり、クラスの優勝が…などといったことはない。あくまでも、各ブロックに均等に振り分けるようにするのが、一番の目的である。


 また、拓斗と伊波、あずさと香菜のように、ペア同士が学級委員長や副委員長の場合は、ブロックが被らないようにしなくてはならない。


 色々と制約があるのだが、つまりはこのランキング戦を、仲良しこよしでやるんじゃないぞという意味だと思われる。


「同じくブロックなら、戦う事だってあるっていうのに、仲良しこよしもないわよね」


「まぁな。しかし、やりにくいのは確かだ。勝ったとしても、負けたとしても、手を抜いたなどという事になり兼ねない」


 自分達で各ブロックに振り分けるのだから、それこそ不正を疑うべきでは?と思う拓斗であったが、それとは別の事を指摘する。


「もしかしたら、レオンのクラスもやられている可能性があるな」


「レオンって…学年1位の涼宮レオンよね?」


「そうだ。裏を返せば強いヤツとは戦いたくはないだろうからね」


「確かに…ウチのクラスには、勇樹や咲もいるしね」


「あずさもな」


「わ、私は…別に…そ、その」


 顔を赤くしながら、ぷいっと横を向くあずさに苦笑いしながら、拓斗は今後の対策について考えるのであった。


 ーーーーーーーーーー


【4】


 拓斗の予想は当たっていた。


「…って事なんだけど、レオンはどう思う?」


「なるほど。データが突然消えてしまったと…消したのでなければ、考えられるのは3つですね。1つはウイルスに感染、2つ目はハッキング、3つ目は単なる故障でしょう」


 パソコン画面から目を離し、こっちを向く彼女にレオンはさらりと答えた。


「一番可能性が高いのはどれかな?」


「ハッキングでしょうね。ウイルスならその残骸が残ります。故障なら今こうして動いているのはおかしい」


「なるほどね…どうしたらいいかな?」


 人差し指をアゴに乗せながら、彼女は助言を求めた。


「簡単な話しです。警戒レベルをあげてもう一度作り直せばいいんですよ。勿論、何も変える必要もありません」


 席を変わるように指示を出し、レオンはパソコンへと向き合った。
 レオンは、ランキング戦のフォルダーを開いて、キーボードを叩き始めた。


「犯人の狙いはおそらく自分でしょう」


 何で?と、問いかける彼女に対し、レオンは拓斗と同じ事を彼女に説明をした。


「なるほどね…けど、それって」


「えぇ。意味はないでしょうね」


 レオンがCブロックに出る事が分かったとして、当然ハッキング犯は、Cブロックとは別のブロックにしようとするだろう。
 しかし、こうしてハッキングがバレてしまっては、レオンが本当にCブロックに出場するのかなど分かるはずもない。


「だからといって、自分達があれこれ悩んで、もう一度最初から作り直す事に意味はないでしょうね。それこそ、時間の無駄でしかありません」


 キーボードを叩きながら、レオンはなおも続ける。


「この事は一応ここだけの話しにしましょう。生徒達に心配させてしまうだけですから」


 普段通りにしてもらうのもまた、学級委員長や副委員長の役目であると思っての提案であった。


 おそらくは、拓斗のクラスも被害にあっているだろうと予測しながら、レオンはキーボードを叩き続けるのであった。

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