魔法×科学の時間旅行者
第1章 校内ランキング戦 上(4/5)
【1】
保険室に残ったイオナとレオンは、周囲に人が居ない事を確認してから口を開いた。
「ジャンヌ。首尾はどうだ?」
「伊波が使ったのは洗脳魔法ではない…ぐらいか」
「だろうな。おそらくは催眠魔法」
「そうかもな。ところでレオン」
「何だ?」
「ここでは一応、神使イオナだから、イオナと呼べよ」
「ふん。分かっている。大体何故イオナ何だ」
「前にも話したじゃないか。レオンとレイナでイオナだと」
レイナとは、レオンの双子の妹である。
「それならレオナでも良かったんじゃないか?」
「ふふふ。レオンとレオナだと、関係を怪しまれてしまうぞ」
何の関係か?と思ったが、口にはしなかった。
「まぁいい…ちょっと待ってろ」
そう言って、レオンは部屋を出て行った。
返事ぐらい聞いていけよと思いながら、窓の方へと歩きだすイオナ。
カーテンを開け、窓を開けてから、近くの壁に背中をあずける。片足をクロスさせ、両腕を組んでから待つ事数分…窓の外から声をかけられるイオナ。
イオナは、声をかけてきた人物に声をかける。
「それで、ピエロはどうするんだ?」
「どうするも何もない。一般の生活に戻ってもらう。それだけだ」
「ふふふ。一般の生活ね」
まるで、自分は一般の生活を送っていないと言っているように聞こえ、思わず笑みがこぼれるイオナ。しかし、彼の言う通りだ。
魔法を使う者からしたら、魔法を使うのは至極普通の事である。つまり、レオンや拓斗のような高校生は、今この瞬間が普通であり、一般の生活を送っているといえるだろう。だが、レオンは違う。
彼は、普通の高校生を演じているだけである。
「なぁジャンヌ。あの日の約束を、覚えているか?」
「当然だ。むしろ、私から聞きたいぐらいだぞ」
「フ…愚問だな」
かつて二人は約束をしている。
とある病院で、とある少女の為に。
「何としてでも、不老不死の魔法を見つけ出して、レイナに…」
その後の言葉が出てこない事を不思議に思い、両目を開けるイオナ。レオンに声をかけようとした所で、原因が判明した。
「いた、いた。おーいレオン!」
「何ですか?委員長」
レオンは誰かが来た為、黙ったのだった。
思わず吹き出しそうになるイオナ。
(ふふふ…まるで別人だな)
声のトーンから話し方から、全く違うレオン。
イオナがそんな状況だとは知らず、レオンは続ける。
「何かあったんですか?」
いたいた、ということは、自分を探し回っていたのだろうと推測し、探し回っていたということは、重要な用件があるのだろうと判断する。
「うん。校内ランキングについて何だけどね」
「組み合わせから、ルール説明や、その日の日程などはやってあったはずですが?」
レオンはクラスの副委員長である。
学年ランキング1位(それとは別に、かっこいいという理由もあった)の彼を、委員長にしようとする人が多数いたが、レオンはそれを断った。
規律委員の委員長である彼が、クラスの委員長までやってしまうと、負担が大きすぎるという理由で断ったのだが、副委員長でサポートをしてほしいという意見には、断れなかったのである。
(正確には、断る理由が思いつかなかったが正しい)
「うん。確認したよ!ありがとね」
ニッコリと笑う彼女。
「…他に何かありましたか?」
「あるよ!いっぱいある!ちょっと来て」
「あ、いや、自分は…」
「クラスの一大事に、副委員がいなくてどうするのさ」
こう言われてしまったレオンは何も言い返せず、彼女に腕を引っ張られながらその場を後にする。
そんな光景を保険室の窓から眺めていたイオナは、楽しそうに声に出して笑った。
ーーーーーーーー
【2】
保険室を出た拓斗と伊波。
少し歩いた所で、伊波が口を開いた。
「拓…お兄ちゃんは、み、見惚れていたのですか?」
「…え?」
考え事をしていた拓斗は、伊波の質問を聞き逃してしまう。
「そそ、そりゃぁイオナ先生は美人でスタイルもいいですが、何も…あそこまで…」
後半の方は聞き取れなかったが、伊波の機嫌が悪い理由に気づく拓斗。
「いや、待て伊波。それは誤解だ」
「では、何ですか?」
離れて歩いていた伊波は、至近距離まで詰めよった。今にも頬を、ぷくっと膨らましそうな伊波を見ながら、拓斗は保険室で固まってしまった理由を話す。
「神使先生とは、以前、何処かで…会った事があるような気がしてだな」
拓斗が固まってしまったのは、イオナと会った事がある気がしたからであり、決して見惚れていた訳ではない。
しかし、何故か伊波の機嫌が更に悪くなる。
「軟派する人が良く言う台詞ですね」
何処かで会った事がない?という台詞は、どうやら軟派する人が良く使う言葉らしい、と思った拓斗は、伊波にたずねる事にした。
「そうなのか?軟派をした事がないから分からないが…伊波は良く聞くのか?」
自分は、軟派をした事がないという台詞でもあり、伊波は良く聞くのかとは、良くされるのか?という意味である。
当然、話題転換であった。
急に話しを逸らされた伊波であったが、効果は抜群だったようだ。
固まってしまい、何て返事を返そうか迷っている伊波に対し、更に追い討ちをかける拓斗。
「まぁ、伊波ぐらい可愛いければ仕方がないか…ほら、行こうか」
激しく動揺した伊波。可愛いというワードに、更に動揺する伊波を見て、拓斗は返事を待つ事なく伊波の背中を押した。
顔を真っ赤に染める伊波を背に従えながら、拓斗はイオナの事を考えていた。
ーーーーーーーー
【3】
職員室に伊波を送り届けた(伊波はまだ顔を赤くしていた)拓斗は、生徒会室へと足を運ぶ。
伊波は職員室で祐美子に事情説明をしている所であり、拓斗は生徒会メンバーに事情説明をしに来た所であった。
「…そう。そんな事があったのね」
拓斗から一連の話しを聞いた生徒会長であるあさみや副会長であるなぎさ、事務である将吾に会計の咲までもが、暗い表情を浮かべていた。
「えぇ。今は神使先生にお願いしていますが、おそらく彼はもう…」
暗い話題なのだから、暗い表情になるのは仕方がない事である。
それでも、事実をキチンと伝える義務があった。
「そうか。ご苦労だったな」
なぎさは労いの言葉を拓斗にかけた。
災難だったなと言わないのは、流石であった。
本当に災難だったのは矢野自身であり、拓斗は伊波に呼ばれたから来ただけである。
「記憶の回復は見込めないのか?」
咲は拓斗に質問をする。
しかし、咲からの質問に答えたのはあさみであった。
「もしも、記憶が回復したとしても、以前のようにはいかないでしょうね」
残酷な答えであったが、それは仕方がない事であった。
例えば、矢野の記憶が1年かかって回復したとした場合、記憶を失ってから回復するまでのこの1年間の記憶は何処にいくのか?また、全く魔法に触れていない期間が長ければ長いほど、魔法力は落ちていく。
「残酷かもしれませんが、彼には第二の人生を歩んでいただきたいですね」
記憶が戻り、詠唱した時に初めて味わう恐怖がある。いつも通り唱えた魔法が発動しないのだ。
それは、絶望してしまうほどのものである。
また、そういった人物こそが錬金術者になりやすいという事を、ここにいる全員が理解していた。
魔法が使いたいが、魔法が使えない。
しかし、魔法を使うようになる方法が一つだけあるではないか?
そう、科学者と融合すればいいのだ…
「はい!矢野君の件は先生達に任せるとして、拓斗君。各委員長から何か言われた?」
パンっと両手を叩き、暗い話しはここまでね!っと、あさみは話題を変える。
拓斗も同じ気持ちだった為、話しを蒸し返す事なく、あさみの話しに乗る事にした。
勿論、彼はこの話しをしに来たという理由もあった。
「風紀委員は挨拶だけでした。規律委員のレオン…いや、涼宮委員長からの提案ですが…」
拓斗は、規律委員会で話し合った事を話し始める。下校時の見回りや、登校時に一定のルートを使わせる事、駅から学校までの道以外を警察にお願いする事などである。
「なるほど…にしても、涼宮はまだ1年だというのに…な」
「あー!なぎさちゃん酷いじょ」
「コラ咲!なぎさ副委員長とだな」
「まぁまぁなぎさ。それになぎさ副委員長はちょっと変よ?」
「む。そうか?」
「なぎさって名前で呼ばれたいなら、なぎさちゃんで我慢しなさい」
「ち、違…」
「そうなのか?気づかなくてすまんかった、なぎさ」
「ちゃ、ちゃんを付けろ!咲!」
うふふと笑うあさみに、顔を赤くするなぎさ。
全く悪びれていない咲に、無言でいる将吾。
本当にこの生徒会は大丈夫なのかと、心配になる拓斗であった。
ーーーーーーーー
【4】
生徒会書記としての仕事を終えた拓斗は、校内を見回る事にした。
自分は何があっても完璧な時間がある為、大丈夫なのだが伊波は違う。また、伊波に何かあった時に、時間旅行が発動されれば良いが、保証などどこにもない。
その為、生徒会書記としてではなく、個人的な問題として、校内で不審な物や人がいないかを見回る事にしたのであった。
「あっ!おーい!拓斗ー!」
校内を見回っていた拓斗は、香菜から声をかけられた。どうやら、バックアタッカー部の部室の近くに来ていたようだ。
「香菜。練習中か?」
「うん。拓斗は見回り中か何か?」
「…まぁ、そんな所だ。あずさはどうした?」
少しの間が出来てしまったのは、なぜ校内を見回っているのか聞かれるのでは?と、思ったからである。拓斗は生徒会書記なので、見回り事態はおかしくはない。
しかし、校内を見回っている事が、おかしいのであった。
矢野の一件は、いずれ全校生徒が知ることになる。その日までは黙っておこうと決めていた為、拓斗は言葉を濁しながら、話題を変える為にあずさの名前をあえて出した。
「あずさなら、学級委員長の仕事が残ってるとかで、まだ教室にいるんじゃないかな」
「そうなのか?」
香菜の言葉に考える拓斗。
拓斗もレオン同様に副委員長である。
何かやる事など残っていただろうか?そう考えての返しである。
「う〜ん。何か校内ランキングについて悩んでたみたい」
人差し指をアゴにあてながら、香菜はあずさが教室にいるであろう理由を話す。
しかし、ますます解らなくなる拓斗。
ルール説明から組み合わせなど、校内ランキングでの仕事など残っていないはずである。
「とりあえず、教室に行ってみるよ」
「あっ!ちょっとだけ待ってて!着替えて来るからさ」
気になった拓斗は、あずさの様子を見に行く事にした。自分の作成した物に、何か間違いがあったのかもしれない。
そう思った拓斗の申し出に、何故か香菜も同行すると言ってきた。
こういうのが、友情というやつなのだろうと思いながら、部室に戻って行く香菜を見送る拓斗であった。
ーーーーーーーー
矢野…起きろ矢野。
誰かが呼ぶ声がする。
誰ですか?とたずねた自分に対し、この世の物とは思えない人物は答えてくれた。
あれは、天使だったのかもしれない。
「私は神使イオナ…いや、ジャンヌ・ダルクという。良く聞け。今からお前を導いてやる」
導く?何故?そうたずねた自分に対し、彼女は不敵な笑みを浮かべ、こう言うのであった。
私は魔導師だからな、と。
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