魔法×科学の時間旅行者

伊達\\u3000虎浩

第1章 校内ランキング戦 上(3/5)

 
【1】


 伊波からの電話で駆けつけた拓斗。
 話しを聞くと、記憶を失って混乱していた同級生を保護したとの事であった。


「矢野!大丈夫か矢野!」


 拓斗と伊波が、この後どうするかという話しをしていた時であった。二人の後ろから、記憶を失った生徒の知り合いであろう生徒の声がする。


「通してくれ……すまない……はぁはぁ。や、やっぱり、矢野だったか」


 人混みをかき分けながら拓斗達の元にやって来たのは、先ほどまで話しをしていた同級生、涼宮レオンであった。


「レオン…矢野は確か規律委員だったか」


「そうだ。さっき矢野の名前が出たから気になってな…今日矢野には、校内の見回りをお願いしていたんだが…何があった?」


 何があったかと聞かれた拓斗と伊波であったが、二人にも何があったのか分からなかった。


「俺は妹に呼ばれて来た所だ。伊波。こちらは規律委員の委員長で涼宮レオンだ。レオン。俺の妹の伊波だ」


「初めまして。桐島伊波です。私は風紀委員として校内を見回っていました」


「初めまして。涼宮レオンです。すると、巡回中に彼を発見したという事ですね?」


 拓斗の紹介で、軽い自己紹介をする伊波とレオン。自己紹介と一緒に、矢野を発見した経緯を話す伊波。伊波の話しから、状況を判断するレオン。


「彼は気絶しているというより眠っているだけだから、直に目を覚ますだろう」


 目を覚ました所で、何があったのか覚えているかは、本人に直接聞いてみない事には分からない。


「となると…伊波さんが魔法で眠らせたと?」


「レオン。それは禁則事項に触れるぞ」


 どうやってかを探る行為は、魔科学法で禁止されている。


 魔法科学法律。通称、魔科学法。


 自らが言わない限り、魔法を探る行為を禁ず。


 拓斗のような魔法者を守る法律である。
 拓斗は時空魔法の使い手であり、貴重な存在とされている。
 とある国では、時空魔法の使い手がゼロという国もあり、拓斗が時空魔法の使い手だと知られた場合、誘拐などが起こる可能性も考えられる。


 また、高校1年生で時空魔法を使える生徒は珍しい。そういった人物は、研究対象に選ばれる可能性もあった。
 その為、自らが言わない限り、魔法特性や魔法属性などを聞かれても答えなくて良いとされている。


 他にも、科学者のコードを無理矢理聞く事を禁ずなど、色々と法律があるのだが、この法律の所為で、未だに見つかってない魔法が数多く存在してしまっていた。


 しかし、見る者が見れば分かってしまうし、聞く者が聞けば分かってしまうのが現状である。
 例えば、魔法を使って眠らせるとなると、考えられる魔法は、洗脳魔法、催眠魔法、睡眠魔法ぐらいである。
 勿論、拓斗が嘘をついていなければの話しだが。


 洗脳魔法は相手の脳に直接命令して、強制的に眠らせる魔法である。


 催眠魔法は相手が直接見てしまう事により、自己暗示によって眠ってしまう魔法である。


 睡眠魔法は相手に対し、物や道具を使って眠らせる魔法である。


「そうだったな…すいません伊波さん」


「いえ。それより敬語はやめませんか?」


 同級生なのだからと、伊波が気にしての事だろうとレオンは思ったが実際は、拓斗にはタメ口で、自分には敬語という事が嫌だった伊波。
 勿論、そんな気持ちが分かるはずもないし、断る理由もないレオンは、分かったと一言だけ告げた。


「レオン。彼の事を教えてくれないか」


「彼の魔法関係以外なら聞いてくれ」


 先ほどのお返しという嫌味ではなく、単純に彼の魔法属性や特性を、レオンは知らないのだろうと判断する拓斗と伊波。


「名前は分かるが…住所や電話番号、他の知人関係などを教えてくれ。伊波。保険室に行って、先生を連れて来てくれ」


「分かりましたお兄ちゃん」


 テキパキと指示を出す拓斗。
 そんな拓斗の姿が嬉しかったのか、笑顔で返事をする伊波。
 伊波が返事を返しながらお辞儀をする姿を見て、固まってしまうレオン。


「…ン…オン…。レオン!」


「……!?す、すまない」


「大丈夫か?」


 いくら呼んでも返事をしないレオンを見て、心配になる拓斗。
 返事をしない事もそうだが、顔色が悪くなっているように見えたからであった。


「…すまない。自分の部下がこうなった原因を考えると、少し気分が悪くなっただけだ」


 伊波に見惚れていたなどという、誤解をしてほしくないと考えたレオンは、とっさに誤魔化す理由を考えて嘘をついた。


 床で寝ている矢野など、どうでもいい。
 何故なら先ほどの会議中に、自分がかけた魔法によって、ピエロ(矢野)は記憶を失っているのだから。


 では何故彼が固まってしまったかというと、自分の妹であるレイナの姿が、伊波と重なって見えたからであった。
 実際は、お兄様と呼ばれているレオンだが、兄というフレーズに引っかかったのだった。


 レオンがそんな事を考えているとは思わない拓斗は、そうか…と一言告げて、伊波の帰りを待つ事にした。


 ーーーーーーーー


【2】


 伊波は保健室へと急いでいた。
 急ぐといっても、廊下を走る行為は禁止されている為、走ったりせずに急ぎ足でである。


 保健室は1階部分にある為、直ぐに着いた。
 保健室というプレートを見上げ、部屋を間違えていない事を確認し終えると、数回部屋をノックする。


 どうぞーと言う声を聞いた伊波は、失礼しますと一言告げてから、ゆっくり部屋を開けて入室した。


 保健室は今も昔も対して変わらない。
 体調不良の生徒の為に用意されたベッドが、数個並んでいたり、部屋の中央にはテーブルやイスが並んでいる。ベッドの反対側には棚が並んでいて、何の薬かは分からない(伊波からしたら)薬の小瓶が並んでいる。
 そして今年度こんねんどから赴任した先生で、男子生徒から最も熱い視線を集める人物が伊波に声をかけた。


「確か桐島伊波だったか…どうした?」


 白衣を着た天使が降臨したと、一部の男子生徒から呼ばれている彼女は、この学校の保健室の先生である。
 今年から来たにもかかわらず、彼女を知らない者はいないほどの有名人である。
 胸元にある可愛いらしいペンダントを見れば、女子が憧れる大きな胸が見えるし、視線を下に向ければスラリと伸びた細い脚が見える。


 そして、特徴的なのはやはりその綺麗な銀髪の髪の毛であった。


「あ、あの…今お暇でしょうか?」


 女子生徒でもこのように、少し緊張してしまうぐらいである。


「ふふふ伊波。暇です何て言えないぞ」


 可愛いくウィンクされ、ドキッとしてしまう伊波。相手は先生である。暇だなどとは言えない。正しく聞くのであれば、今、手が空いていますか?が正解であった。


「まぁ正直暇なんだけどな。それで?何かあったのか?」


 伊波を気遣ってか、口元に人差し指を立てながら暇だと告げる。ここだけの話しな、という意味だと正確に理解した伊波は、矢野を見つけた経緯から話し始めた。


「なるほど…なぁ伊波。言いたくなければ言わなくていいが、魔法を使ったのか?」


 どの魔法を使ったのかによって、眠らされている矢野の状態は変わってくる。
 睡眠魔法や催眠魔法ならよいが、洗脳魔法は脳に大きなダメージを与えてしまう為、正直に言えば危険な魔法であった。


「あ、あの…先生…」


 当然、伊波もそれを理解している。


「ふふふ。大丈夫だ。そうだな、質問を変えようか…少し、いや、かなり卑怯な質問になってしまうか…すまないな、伊波」


 言っていいのかが分からないのだろうと判断し、質問を変える。伊波が答えないからといって、気分を害したりはしないが、気分を害するというのであれば、自分が今からする質問に対してであった。


「伊波が使ったのは洗脳魔法か?」


 イエスかノーの質問であったが、これは随分と卑怯な質問であった。


 答えない=イエスと、とられても仕方がない。
 つまり、どちらかを答える必要が伊波にはあった。


「…違います」


 卑怯な質問をすると言われていた為、特に気分を害したりはしないし、この質問に対する意味を正確に理解していた伊波は、正直に答える事にする。
 自分の答えによって、同級生である矢野の治療に関係してくるのだと考えれば、答えない理由がなかった。


「分かった。それだけ分かれば充分だ。伊波」


「はい。何でしょうか」


「私の事はイオナと呼ぶこと。それから伊波の兄の拓斗と、側にいるレオンを呼んで来てくれ。勿論、矢野と一緒にな」


「分かりました。失礼します」


 イオナにそう言われた伊波は、ペコリとお辞儀をし、保健室を後にした。


 ーーーーーーーーーー


【3】


 拓斗達の元に戻った伊波は、イオナに言われた事を二人に伝えた。


神使かみつか先生がか?分かった。レオン」


「あぁ。俺はこっち側を持とう」


「なら俺はこっち側か…伊波。誘導してくれ」


「分かりました。すいません!通して下さい」


 拓斗とレオンで矢野を担ぎ、伊波が野次馬に道をあけるよう指示を出す。


 三人は、保健室へと急ぐのであった。


 ーーーーーーーー


【4】


 先ほどと同じように伊波が保健室の扉を開け、先に拓斗とレオンが部屋に入る。


「待っていたよ。とりあえず矢野はそこに寝かせてやってくれ」


 イオナの指示のもと、テキパキ動く三人。
 伊波がベッドの毛布をどかし、拓斗とレオンで矢野をベッドに寝かせる。
 最後に伊波が毛布を被せた所で、イオナが声をかけた。


「さて…と。拓斗と伊波は現場にはいなかった…そうだな?」


「・・・」「・・?はい」


「では、君たちは帰って良し。レオン。君は今朝の彼の様子を聞く為に残ってくれ」


「分かりました」


 イオナにそう言われた拓斗と伊波はその場でお辞儀をして、部屋を後にした。
 拓斗は終始無言でいて、そんな拓斗の態度に、伊波はムッとするのであった。



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