魔法×科学の時間旅行者

伊達\\u3000虎浩

校内ランキング戦 上(2/5)

 
【1】


 規律委員会と書かれたプレートを見上げながら、拓斗は時計の針に目を向けた。
 彼はここを訪れた際、少し待つように言われたのだが、それから5分は経っている。
 出直そうか考えたが、今日はただの挨拶ではなく大事な用で来ている。
 待つしかないかと彼が内心ため息を吐いていると、丁度部屋の扉が開いた。


「遅くなってすいません。会議をしていたものですから」


 ぺこりと頭を下げる彼女。


「いえ。大丈夫ですから、顔をあげてください」


 申し訳ないと深々と頭を下げる彼女に対し、少し大袈裟すぎないかと考える拓斗。
 会議をしている所に突然来たのだ。
 断られてもおかしくない状況の所に、わざわざ来てくれたのだから、謝るのは拓斗の方である。
 しかし、拓斗が謝る前に彼女は部屋に入るのを勧めてきた。


「桐島拓斗君・・ですよね?とりあえず中にどうぞ」


「はい。失礼します」


 部屋の中は、いたって普通であり、長方形の机が並び、机の前に椅子が置いてたり、黒板の前には大きなホワイトボードがあったりだ。


「何かお探しですか?」


 拓斗がキョロキョロしているのに気付いた彼女は、拓斗を軽く注意する。
 初めて部屋に入ったのだから、キョロキョロする事はおかしくはないのだが、あまり見られると困ってしまうと、彼女が考えての注意であった。


「すいません。会議していたと聞いていたものですから」


 拓斗は別に緊張していたとか、規律委員の部屋の中に何があるのかとか、そういう興味からキョロキョロしていたわけではない。
 会議をしていた痕跡がないというより、人がいないのだ。おかしくないかと考えての行動であった。
 拓斗が何を考えているのかを正確に理解した彼女は、拓斗の質問にプラスアルファーの答えを返す。


「会議は幹部のみで、奥でやっていました。他の委員の子達は、今は見回り中ですよ。あっ!申し遅れました」


 どこで誰と会議していたかを答え、他の生徒が何故いないのかを説明した彼女は、自己紹介を始める。
 長い金色のストレートヘアーの彼女。
 青い瞳に、身長は拓斗ぐらいの高身長。
 大きめの胸といってもあゆみぐらいだが、身長のせいかウエストのせいか、あゆみよりか大きく感じられる彼女を、拓斗は知っていた。


「学年ランキング4位の科学者。桜坂さくらざかひなたさんですよね。確か1年C組でしたよね」


「知って下さっていたんですね?ありがとうございます」


「一応、生徒会書記ですから」


 自分の事を知っていてくれる事が嬉しかったのか、頬を赤くしながら微笑むひなた。
 勿論、拓斗は嘘をついていない。
 彼女の容姿が良いからと、別のクラスまでわざわざ見に行くなどという、男子高校生らしい一幕など彼はしないし、友人や妹に名前を聞いてまわるなどといった行動も起こしていない。
 単純に生徒会書記として、写真だが規律委員会の副委員長の顔を見た事があるといっただけである。
 また、同じ学年で彼女は有名人である。
 何故なら1年生でありながら、規律委員会の副委員長というだけでなく、1年生科学者の中でなら彼女は1位だからであった。


「同じ1年生だし、敬語は無しにしませんか?」


「では、拓斗でいいですよ」


「そこは、拓斗って呼んでくれ!とかじゃないだ・・あっ!私の事もひなたで構いません」


 何を期待されていたのか分からない拓斗であったが、長話しは小嶋の一件でしっかり学んでいる拓斗は、さっさと話しを伝えるべく、用件を切り出すのであった。


 ーーーーーーーーーー


 拓斗が部屋に入る前、ひなたが頭を下げている頃、別室ではキングがそれぞれに指示を出していた。


「・・以上だ。桐島伊波の件はとりあえず保留にし、ひとまずは校内ランキング戦に専念してもらいたい」


「ハイハ〜イ!もしも私が、クイーンを倒したら私が明日からクイーンって事でいいですか?」


「勿論だよダイヤ。無論、私を倒したい者がいれば倒すが良い。その者が次のキングとなる」


「ダメダメ〜!それじゃぁ私がクイーンになる意味ないし〜」


「・・キング・・強いから・・負けない」


 話しは桐島伊波の事から、校内ランキング戦の話しに変わっていた。
 学年ランキングは個人のランキングであり、校内ランキングはペアのランキングであるが、キングである彼はどちらも1位であった。
 いや、校内ランキングはまだだから、学年ランキングは1位だというべきなのだが、キングである彼が、校内ランキングでも1位だろうという事は疑いようがない事実であった。


「せっかくクイーンが足止めしてくれているのだから無駄には出来ん。解散するとしよう」


 キングはそういうと立ち上がり、それぞれを見渡した。
 クイーンがいない席から順番に名前を呼ぶ。


 ジャック、ハート、ナイト、ルーク、ダイヤ、スペード、クローバー、に、今はいないクイーンにピエロ。そして彼等を束ねるキング。


 名前を呼ばれた者はすぐに立ち上がり、右手で心臓を一度叩いて、右手を前に突き出す。
 左手は背中の部分に握り拳を作ってあてるといったポーズを取る。


「我等十師団の目的はただ一つ。不老不死の魔法を見つける為にある!決して遊びではない!以上!解散!」


「十師団に栄光あれ!」


 それぞれが一斉に唱和し、それぞれが仮面を取り外しながらその場を後にする。
 十師団はキングが作った組織だ。
 目的は不老不死の魔法を見つける事である。


「ふー。やれやれ。何だか気味が悪いなソレ」


「ジョーカーか。気味が悪いとは何だ?お前の提案だったではないか」


「まさか本当にやるとは思わんだろ」


「何か言ったか?」


「何も言ってないな」


 奥の方からそんな事を呟きながら出てきた一人の少女。会議には参加せず、一連の流れを隠れながら見ていただけである。


「大体、そんなので本当に見つかるのか?」


「やってみない事には分からんだろう。可能性がゼロではない限り、私はやり続ける」


「私?俺は、だろ?」


 ふふふと笑う少女。
 十師団を作ったのはキングであり、十師団全員に素顔を隠しているわけではない。
 十師団全員が全員をそれぞれ知っている。
 ではなぜ、仮面やら仮装をしているかというと、ジョーカーと呼ばれた彼女の提案であった。


「しかし人間とは面白いな。いつもは内気な小春こはるが、ああも豹変するとは」


「だからこその仮面なんだろ?人は皆、心に仮面をつけている生き物だからと言ったのはお前だろ。後、ダイヤと呼べよ」


 人は人前に立つと緊張してなのか、あまり能力を発揮出来ない生き物である。
 本当は答えが分かっていても、手を挙げないなどという光景は、決して珍しい物ではない。
 その為の仮装や仮面であり、本名で呼んでしまっては意味がない。


「仮面があれば、いつも以上の能力や自信に繋がるとはな」


 医学的にも科学的にも、全く理解出来ないとキングは考えている。
 クイーンを倒したらと言っていたが、仮面を着けていない状態で、学年4位のひなたに勝つ事など難しいだろう。
 しかし、やる気になってくれるのはいい事である。


「だから人間とは、面白いなと言っているんだろ」


「・・お前だって人間だ」


 ジョーカーの感想に、少しの間をあけるキング。
 彼だけは、ジョーカーの正体を知っている。
 そして、その悩みも・・。


「ふふふ。私は魔導師。魔を導く者でる。お前達とは違うさ」


 そんな気遣いが嬉しかったのか、ジョーカーは不敵な笑みを浮かべた。


「・・ひなただけに任せるのは申し訳ないからな。俺も行くとしよう。ジャンヌ。お前は出てくるなよ」


「ハイハイ。行ってらっしゃい」


 出てきてはいけない理由をきちんと理解しているのか分からないやる気のない声で、返事をするジャンヌ。
 彼は仮面をきちんと仕舞ってから、部屋を後にした。


 ーーーーーーーーーー


 拓斗が話しを終えると、ひなたは真剣な表情で答えた。


「誰かと一緒に帰る事は賛成できますが、誰かと一緒に帰る事が出来ない生徒にとっては、あまりいい作戦とは言えないですね」


「入学してから3週間は経過してるが、確かにそうかもしれないな」


 3週間もあれば、友達の一人ぐらいできるだろうという考え方は間違っている。
 1年経っても卒業しても、友達が出来ない人はいるだろう。また、クラブ活動や委員会活動をしている生徒も多い。他の高校とは異なり、ここは選択授業を取り入れている高校である為、たまたま友人と下校時刻が被るといったケースは珍しい。その事を考えての指摘であった。


 ひなたとそんな事を話していると、奥の部屋から青年が出てきた。
 黒く長い髪。
 長いといっても、多少前髪が目にかかるぐらいだったり、後ろ髪が襟足にかかったり、耳が隠れていたりするだけである。
 しかし、決して不衛生にみえないのは、彼がいわいるイケメンと呼ばれる部類の人間だからだろうと、こちらに向かって歩いてくる青年を見ながら、拓斗はそんな事を考えていた。


「お待たせしました。規律委員会委員長の涼宮すずみやです」


 どうやら声までイケメンらしいと考えながら、差し出された手を握り返し、拓斗は自己紹介をする。


「生徒会書記の1年A組桐島拓斗だ」


「この間の事件の事で来たのですよね?よければ詳しく教えて下さい」


 涼宮は名乗り直さなかった。
 拓斗は生徒会書記である。
 そして涼宮は学年主席である。
 涼宮のクラスやフルネームは、入学式の時に全校生徒の前で発表しているし、学年ランキング表にも一番上に載っていた為、拓斗が何らかの形で知っているだろうと考えての事であった。
 勿論、彼の予想は当たっており、拓斗は涼宮を知っていた。


(1年C組の涼宮レオンか・・珍しいな)


 彼は基本的には任務制度を利用して、軍にいる事の方が多い。最も、毎日軍に呼ばれる訳ではないのだが・・。
 拓斗はひなたにしたように、彼にも同じように話しをした。


 ーーーーーーーーーー


【2】


 時刻は夕方になっていた。
 拓斗やレオンが長話しをしていたからではなく、風紀委員本部で長話しになってしまったからである。


「なるほど、大体は理解した。ひなた」


「ハイ!」


 レオンに名前を呼ばれると、ひなたは嬉しそうな顔をしながら彼の隣に並ぶ。


「早急に対応するべきだろう。校内の見回りをしばらくやめ、駅までの道を二人一組になって巡回。風紀委員にも協力を要請してくれ」


「わかりました。しかし、どのルートを巡回させましょうか?」


 テキパキと指示を出すレオン。
 レオンは地図を開くと、学校までの道をペンでなぞっていく。


「人通りが少ない道は俺やひなたが巡回。人通りが多い所はランキング戦下位の者が巡回。登校中に襲われる可能性もゼロとは言えないから、全生徒に通る道を限定させれば問題はない」


 学校から駅までの道順をペンでなぞり、線の下に番号をふっていく。
 いつも伊波達と帰るルートは①で、あゆみが誘拐されたルートは②となっている。
 他にも③や④といったルートがあるが、駅から学校までの距離を考えると、通る生徒は少ないと考えられる。
 しかし、だからこそ最も巡回が必要なコースである。
 その為レオンはあえて危険なルートを、上位成績者で固め、安全であろうルートを下位成績者に絞った。


「反対エリアは警察に任せるしかないだろうな」


 反対エリアまで巡回するとなると、流石に人手不足である。


「一応、商店街だから危なくはないと思うが」


 レオンがそう切り出すと、拓斗が口をはさんだ。


「警察の方にはこちらから対応しよう」


「そうか?助かるよ」


 拓斗の申し出を受け入れ、規律委員会との話し合いが終わりを告げた丁度その時であった。


「悪い。電話だ」


 拓斗の携帯に着信が入ったのだった。


「・・伊波か?どうした?」


 まだ委員会が終わる時間ではない。
 その為、伊波からの用件を聞く拓斗。


「た、拓斗!大変です」


 普段はお兄ちゃんと呼べと注意する所なのだが今は電話であり、伊波が動揺していると声で分かった為注意せず、再びどうしたのかとたずねた。


「校内を見回り中に矢野君を保護したのですが・・どうやら記憶を失っているようなのです」


「・・矢野がか?分かった。直ぐに行く」


 矢野という名前にひなたはビクッとなったが、幸い拓斗には気づかれなかった。
 勿論、レオンは身動きすらしなかった。
 拓斗はレオン達に一言断りを入れ、伊波の元へと駆け出すのであった。


 ーーーーーーーー


【3】


 拓斗が到着すると、そこには人だかりが出来ている。伊波に呼ばれた場所は、校舎と校舎の間にある中庭であった。
 人混みをかき分け、拓斗は伊波の名前を呼んだ。


「拓・・お兄ちゃん!」


 拓斗の姿に安心したのか、伊波が嬉しそうな顔をしながら近寄ってくる。
 一体何があったのかと、拓斗は伊波にたずねた。


「それが、分からないんです」


「分からない?」


「ハイ。私は校内を見回りしていたのですが、丁度人混みが目に入ったのでここに来たら、矢野君が興奮状態だったものですから・・その」


 伊波は言いづらいのか、拓斗から目を背けた。
 あまり目立つなと言っていた事を気にしての態度だろうと拓斗は考え、気にするなという意味で伊波の頭をなでた。


 彼は矢野新太やのしんたという生徒である。
 拓斗や伊波が彼を知っていたのは彼が、学年ランキング13位の生徒だったからである。
 あまり目立つなと言われている伊波は、自分よりランキングが上の、矢野を倒してしまった事を気にしているのだった。


「興奮状態だったのなら仕方がないさ」


 優しく頭を撫で、伊波に気にするなと告げる。
 これは、拓斗の本心である。
 目立つなと言ってはいるが、一番大切なのは伊波が怪我をしない事である。


「それで?詳しく話してくれないか?」


 再度、伊波に事情を聞く。


「ハイ。周りの人の話しでは矢野君が叫んでいた為、何かあったのかと思い集まったそうです。そしたら矢野君はここはどこで自分は誰か?と叫んでいたらしいのです」


 らしいという事は、伊波は直接見たり聞いたりした訳ではないということだろうと判断する。


「私は騒ぎが目に入ったのでこちらに来たのですが、私が到着した時には何名か生徒が倒されていました。その為・・」


「あぁ。大丈夫だ」


 その為、魔法を使って倒したということだ。
 やられた生徒は、彼をなだめようとして吹っ飛ばされただけであり、軽い怪我で済んだ。


「とりあえず、保健室に連れて行くしかないだろうな」


「だ、大丈夫でしょうか!?」


 伊波の質問に、小さく首を横に振る拓斗。
 そんな拓斗の態度を見た伊波は絶句する。


「記憶を失っているということは、魔法は使えなくなっている可能性が高い。万が一記憶が戻ったとしても、復帰は望めないだろう。それに・・」


 それにの後の言葉を拓斗は言わなかった。いや、言えなかったが正しい。
 矢野は間違いなく病院に監禁されてしまうだろう。ある日突然魔法が使えなくなってしまった場合、原因を探す必要がある。また、治療する為の実験が繰り返される恐れがあった。


 伊波の前でその事を、口にできない拓斗であった。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く