世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
特別篇カズトのアルバイト…中
昼休み。
カズトは用事があるという事で、カズト以外の三人は屋上へと来ていた。
屋上はよくあるタイプの屋上だ。
誰が植えたのか分からない花壇があり、飛び降り自殺や落下防止用の大きな金網、入り口から見て、右、正面、左にベンチが置いてあるシンプルな屋上。
そんな屋上の正面のベンチに腰掛けながら、三人は話し合っていた。
「ねぇ?レイラ。他に何かなかったの?」
「…他にですか?」
アリスにそう言われ、レイラは昨日の事を思い出す。
「そういえば何かを書きながら、出費がどうのって言ってました」
「しゅ、出費ですか?」
人差し指をアゴにあて、思い出しながら語るレイラを見ながら、アリスは深いため息を吐いた。
「原因って、それじゃない」
「…どうやらそのようですね」
どこかトゲのあるレイラを不思議に思いながら、ナナはどうしますか?と、尋ねた。
「出費って事は、何か欲しい剣でも出来たって事でしょ?て事は、お金が欲しいって事よね?」
何かを買うにはお金が必要である。
これは、向こうの世界でもこっちの世界でも共通の認識である。
「お金を稼ぐには、モンスターを討伐するか、クエストをこなすか、働いて稼ぐか…ですよね?」
少し、自身なさげに語るナナを見ながら、レイラはコクリと頷いた。
「この世界では、働くしかないと思います」
「だった・ら!」
ヨッという掛け声とともに、アリスはベンチからジャンプする。
「アイツの為に、働きましょう」
「そうですね」
「が、頑張ります!!」
こうして三人は、カズトの為に働く事を決意したのであった。
ーーーーーーーーーー
同時刻、図書室にて、カズトは求人雑誌に目を通していた。
私語厳禁と書かれた張り紙。
沢山の本が並べてある図書室で、カズトは一冊の本を取ってから席に着いていた。
本を手に取ったのは、カモフラージュの為であり、仕事を探している事を周りに知られないように、本の隙間に求人雑誌を挟んで見ていた。
(学業もあるし、家の事もある。それに加えてあっちの世界の事もある…か)
信じられないかもしれないが、カズトは異世界でブラッククリスタルと呼ばれる、黒い宝石を探す旅をしている。
異世界といっても、よく知っている世界だ。
何故なら、カズトは一度この世界を旅した事があるのだ。
勇者テト。
かつてカズトは、勇者テトとというキャラクターを操作し、守護神ダンや魔法剣士クリフ、そして…戦略兵器レイラというパーティーで、魔王討伐の旅をしていた。
旅の終わりである魔王を討伐した直後、カズトの人生は大きく変わる事となったのであった。
(となれば…シフト制であるバイトは厳しいか)
短期バイト募集中!という項目をパラパラとめくるカズト。丁度、その時であった。
「カズトー!!出て来なさい」
バン!っと大きな音をたてながら、アリスが図書室へとやって来たのだった。
「ア、アリスさん?なな何だか、見られてます、見られてますよ〜」
後ろには、ナナとレイラの姿もあった。
思わず、本で顔を隠すカズト。
(な、なんだ?)
今は忙しい。
しかし、隠れる必要などあったのかどうかという疑問に、カズトは気づかなかったのであった。
「貴方達!図書室では静かに!」
図書室を管理しているであろう上級生が、アリス達に注意する。
「なんでよ?」
注意されたアリスは、静かにしないといけない理由が分からず、理由をたずねた。
「図書室は、静かに本を読む場所だからです」
上級生の先輩が理由を教えるも、まだ納得出来なかったアリスは、再度質問をする。
「静かにって、本は声に出して読む物でしょ?」
「違います!」
「はん?貴方分かっていないようね」
アリスは人差し指をたて、偉そうに語り出した。
「この間私は、本を読む時は、元気よく大きな声で読みなさいって教わったわ。貴方もこれを機に、覚えておくといいわ」
勝ち誇った顔のアリス。
先輩は、若干、いや、かなり頬をひきつらせながら、アリスに説明した。
「そ、それは、朗読と言ってですね…」
「朗読?違うわよ。走れメロンよ!」
「……………」
固まる生徒達。
どうやらアリスは、本のタイトルの事について言われたのだと、勘違いしたようだ。
すると、後ろに立っていたレイラが口を開いた。
「……走れメロスですが」
「……え?」
『ククク…も、もうダメwww』
一人が笑い出し、一世に広がる笑いの渦。
図書室内を、爆笑の嵐が巻き起こった。
プルプル震え出した上級生は、声を大にして言い放つ。
「ぜ、ぜん、いん…全員、出て行きなさーーい!」
上級生の怒号と共に、カズト達は図書室を追い出されてしまうのだった。
ーーーーーーーー
再び屋上にて、カズトはため息を吐いていた。
図書室を追い出されてしまった所為で、アルバイトはまだ見つかっていない。
一応、短期にするか派遣にするかまでを絞り込めたので、全く無駄な時間を過ごした訳ではない。
「いいかアリス。この世界では元気よく学ぶ場所、つまり教室みたいな場所と、静かに集中して学ぶ、図書室みたいな場所があるわけだ」
先ほどと同じような事があっては困るので、カズトは図書室について説明した。
「ふ、ふん。分かったわよ」
皆んなから笑われたのが恥ずかしかったのか、アリスの顔は赤いままである。
「それで、何か用があったんじゃないのか?」
バイト探しをしたい所なのだが、今はこっちを優先するべきだと判断したカズトは、自分を探していた理由を尋ねる事にした。
「…はい。実は私達、仕事を探しているのです」
「……!?な、なんでまた?」
自分も仕事を探していたという事もあり、激しく動揺するカズト。無論、表情には出さなかった。
「ほ、欲しい物があるからです」
働く=何かを買う。
三人は、カズトに聞かれたらこう答えようと、事前に打ち合わせをしていた。
「…何が欲しいんだ?」
カズトとしても、そう言われてしまっては、断る理由がない。欲しい物を手に入れる為に働きたい。それはとても良い事なので、引き止める口実もない。
それに、これはカズトにとっても、好機である。
「決まっているじゃない!コレよ」
女子学生服の胸ポケットから、アリスは一枚のカードを取り出し、カズトにコレを買う為だと宣言する。
「あ、あのな…アリス。一応聞くが、カードが欲しいのか?それとも、この人が欲しいのか?」
頬をヒクヒクさせながら、カズトはアリスに尋ねた。
「ゴン◯山!本人よ」
「買えるか!大体、何でお前はゴン◯◯というのにこだわる!!」
目を輝かせながら答えるアリスに、カズトは即答する。
アリスの何でよ!?という声を聞きながら、カズトは空を見上げるのであった。
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