世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
特別篇 レイラの日常…上
『主な登場人物』
・輝基 和斗・・本作品の主人公。ゲームをクリアーしたのだが、アリスの魔法により異世界にワープする事になった。
・アリス・・・勇者軍に倒された魔王サタンの娘であり、現魔王軍を率いる女王である。勇者軍に奪われたブラッククリスタルを取り戻す為、カズトを召喚したが、クリフに力を奪われてしまう。
・レイラ・・・勇者軍の1人。レイラについたあだ名は戦略兵器レイラであり、カズトの事を勇者テトだと思っている。かつて仲間だったクリフをとめるべくカズト達と行動を共にする。(元人間)
・ナナ・・・魔女族。大切な姉を助けるべく、カズト達と行動を共にする。
・輝基 美姫・・カズトの妹で、ブラコン(重症)
・ナナミ・・・ナナの姉。大切な妹を守る為、魔女族を滅ぼした。一族殺しの魔女が通り名である。
・クリフ・・勇者軍の1人。クリフについたあだ名は魔法剣士クリフであり、ブラッククリスタルにより性格が変わってしまう。
【あらすじ】
ある日ゲームをクリアーしたカズトは、ゲームの中に召喚されてしまう。
そんなカズトを待っていたのは、かつて自分が操作していたキャラクターであった。
ブラッククリスタルによって、性格が変わってしまったクリフから逃げる為、アリスは魔法を唱えるのだが、逃げた場所は和斗が暮らす世界であった。
【本編】
レイラ。
金髪で、ツインテールで、ゴスロリ服を着ている少女。性格はとても優しく、誰からも好かれる存在の彼女だが、向こうの世界では、一番強い存在ではないかと噂されている。
そんなレイラの、とある日の出来事である。
「好きです!俺と、付き合って下さい」
何気ない日常の1ページ。
しかし、それは第三者からしたらの話しであり、当の本人からしたら、何気ない日常ではない。
何気ない日常を送る少女は、とても困ったような顔をしてしまっていた。
好意を寄せられる事は嫌なものではない。
しかし、自分が好意を向けられないという事に、少女は困ってしまうのであった。
深々と頭を下げる少年を見下ろしながら、少女は戸惑いつつも声をかける。
「…す、すいません」
少年に負けないぐらい深々と頭を下げる少女。
この少年にとって残酷な言葉をかけなくてはいけない、そう思うと、とても心苦しかった。
しかし、嘘をつく訳にもいかないだろう。
「くぅー。やっぱりかぁ…」
何がやっぱりなのだろうか?
頭を下げながら、少女は考える。
まさか断られると分かっていながら、告白をしてきたという事なのだろうか。
「レイラちゃん。顔をあげてよ」
顔?頭を下げた状態で、どうやって顔をあげろというのだろうか?
かけられた言葉の意味が分からず、レイラは顔をあげなかった。
そんなレイラの態度を見た少年は、深刻に受け止めてくれたと勘違いしてしまい、慌ててしまう。
「ほ、本当に大丈夫だからさ、ほら、こっちを向いてよ」
向けと言われたレイラは上体を起こし、少年の方を向く。
「フラれるって分かってたんだけどさ、どうしても伝えたくて…ごめんな」
右手で後頭部をかきながら、爽やかに笑う少年。
何故謝るのだろうか?自分は何て返せばいいのだろうか?本当に…どうしたらいいのだろうか。
「こちらこそ、すいません」
嫌な想いをさせてしまったのは、事実のはずだ。
そう考え、レイラは再び頭を下げた。
ーーーーーーーー
次の日。
1時間目の授業が終わり、次の体育の準備の為、男子生徒は隣のクラスへ、隣のクラスの女子は、レイラ達のクラスへとやって来る。
言うまでもなく着替える為であり、隣のクラスから飛んできた、いや、やってきた美姫は、カズトの席に真っ先に座っていた。
「えへへ…お兄ちゃんの席…」
とても幸せそうな美姫を、生温かい目で見守る女子生徒達。
美姫は重度のブラコンである。
その容姿や人柄などから、男子生徒から人気は高いのだが、ブラコンという事もあってか、告白などあまりされない。その所為か、本人はモテているという事を自覚していない。
相変わらずですね…っと、羨ましそうな視線を送りながら、レイラは体育服に着替え始めた。
アリス、レイラ、ナナの三人は、転校生という事になっている。
アリスの魔法によって、カズトがいる世界へワープしできた三人。
カズトや美姫が通う高校には、カズトと同じクラスに転入させろ!と、アリスが理事長を捕まえて、魔法をかけている。
当然、カズトと一悶着あった。
制服や体育服、教科書などもそうだが、この世界には魔法という概念が存在していない為、パニックを引き起こし兼ねないという理由が一番であった。
そこでカズトは、学校に通う条件をつけた。
・あまり目立たない事。
・学校にいる時に限らず、この世界にいる時は、カズトと美姫の言う事を守る事。
・魔法など、向こうの世界の話しは、アリス、ナナ、レイラ、カズトの四人だけの秘密にする事。
この条件を守るのなら、通ってもいいという事になっている。
制服を脱ぎ、美姫に買ってもらった可愛い下着姿になるレイラ。体育服…体育服…と、鞄を探っていると、後ろから声をかけられた。
「レイラちゃん、レイラちゃん」
体育服を取り出しながら、レイラは呼ばれた方へと顔を向けた。
「…何でしょう?」
体育服を着てから、声をかけてきた人物に声をかけるレイラ。
「昨日の放課後にさ、サッカー部の先輩とさ、何かさ、あったんじゃなかった?」
そう聞かれるレイラであったが、身に覚えがない。サッカー部?と、可愛らしく首を傾げていると、別の女子生徒が声をかけてきた。
「私も聞いたよ〜。放課後呼び出されて、体育館裏で告られたって」
そう言われて、ようやくレイラは理解した。
どうやら昨日告白してきた人は、サッカー部の人らしい。
「マジマジ!?それでそれで!」
女子生徒の声が聞こえたのか、別の女子生徒が、会話に加わってきた。
どう答えるべきなのかと迷うレイラ。
そもそも、何故昨日の件を知っているのだろうか…そんな事を考えていると、最初に声をかけてきた女子生徒が、昨日の結果を答えた。
「それでって、分かるでしょ夏子」
「いやいや、中村先輩だよ?サッカー部のエース。もしかしたらがあるじゃん。ねぇ佳代子」
「確かにねぇ〜。敦子だって、もしかしたら?って思ったから、レイラちゃんに質問したんでしょ?」
「いやいや…私はガールズトークをだなぁ…あっ!?ごめんごめん」
「…いえ、大丈夫です」
会話に入ってこないレイラに対し、謝る敦子。
謝まられたレイラは、首を小さく左右に振った。
「やっぱりさ、和斗君の事が好きだから断ったの?」
「……!?」
思わず肩が、ビクッとする二人。
誰がビクつかせたかは言うまでもなく、レイラと美姫である。顔を赤くしてうつむくレイラに、目を細める美姫。レイラの席の左斜め後ろが、和斗の席であり、美姫の耳にも届いていた。
ちなみに、レイラの左隣はアリス、レイラの後ろの席はナナであり、これは魔法を使ったからではなく、三人を監視しろと和斗が、担任から言われたからであった。
「いやいや夏子、ストレートすぎだから」
「あははは…ごめんね」
下着姿のまま、繰り広げられる会話。
「そ、そろそろ着替えた方が、い、いいですよ」
恥ずかしかったのか、レイラにしては珍しく噛み噛みであった。また、話題をすり替えようとしているのが見え見えであった。
「レイラちゃん可愛い」
レイラはクラスだけでなく学校内で、一番モテている。本来モテる女子というのは、クラスでは浮きがちなのだが、レイラの場合、女子からもモテていた。
可愛らしい容姿だけでなく、性格も優しく、たまに見せる天然な所、スタイルなど、嫌いになる要素がないうえに、転校生という事も大きかった。
【閑話休題】
ちなみに、アリスやナナも人気はある。
アリスの場合、クリフに力を奪われてしまった所為で、実年齢は8歳と、子供が高校生の制服を着ている状態の為、マスコット的人気を博している。
ナナの場合、いつもオドオドしている所為か、ほっとけない、母性本能をくすぐられている節もあってか、人気は高い。
【閑話休題終わり】
「まぁでも分かるなぁ」
「…何がですか?」
何の事について言っているのかが分からず、聞き返すレイラ。
「和斗君だよ!他の子達もよくうわざっ…!?」
「ば、馬鹿!?それは禁句!!」
両手をあわせ、和斗を褒める佳代子を、夏子が全力で阻止する。具体的には、佳代子の口をふさいだのだが…時すでに遅し、レイラの機嫌が急速に悪くなる。
「あ、あははは」
「笑ってごまかさないでよ」
ヒソヒソと話す三人を、レイラは冷ややかな眼差しで見つめていた。後ろの方では美姫が、うんうん。当たり前じゃない!と、言いたげであった。
"レイラの前では、和斗を褒めない"
このクラス、いや、この学校にある掟。
唯一レイラに対してのタブーは、和斗を褒める事であった。
美姫のように、好きな異性を褒められると喜ぶ女子もいれば、レイラのように、好きな異性を褒められると怒る女子もいる。
もしかして、貴女も和斗の事が好きなのか?
つまり、不安になったり、ヤキモチを焼いたりしてしまうのであった。
「ハァ?あんなヤツのどこがいいのよ?」
「……!?」
しかし、好きな異性をけなされると、怒るのはどちらも変わらない。アリスの発言に、ギロリと目を光らせる二人。
「アリスちゃん!!」
ガッっと美姫に、両肩を掴まれるアリス。
「……訂正を求めます」
美姫の背後から、殺気を放つレイラ。
「ご、ごめんなさい…」
いつも強気のアリスだが、二人のあまりの迫力に、直ぐに白旗をあげる羽目になった。
「ムニャムニャ…カズトさん…食べれません」
未だに夢の中のナナの寝言を聞きながら、暗い空気がクラスを包みこんでしまうのであった。
ーーーーーーーー
2時間目は体育である。
体育教師から、今日はソフトボールをやろうと言われ、アリスとレイラ、ナナは、すぐさまカズトの元へと急ぐ。
「ちょっとカズト!」
「カ、カズトさん!」
「…すいませんテト」
「またか…」
三人が転校した時、同じような事がおきた。
一体何事かと、和斗を含むクラス中が思ったのだが、今となっては特に気にならなくなっていた。
「いいか、ソフトボールっていうのはだな…」
それぞれの生徒が、キャッチボールなどをして、軽いウォーミングアップをしている中、和斗は地面に書きながら、ソフトボールについて説明をする。
このように三人はまず、授業の説明を和斗から受け、実際にやってみて、分からない事はまた聞きに行き、女子生徒だけの授業の場合は、美姫に聞きに行くのが、授業の日課となっていた。
「つまり、あそこからボールが投げられるから、この棒で打てばいいのね?」
「バットな。打ったらあそこにあるベースと呼ばれる白いヤツに、ファースト、セカンド、サード、バックホームと、順番に踏んで行くんだ」
「…アウトの条件は、ストライクを三回とられるか、打った球が地面に着かずに取られるか、ファーストを踏む前にボールが先に着くか、ベースに足が着いていない状態でタッチされるか…ですね」
「大体はそんな感じだ。他にも細かいルールがあるが、まぁやっていけば分かるだろう」
「わ、わか、分かりました」
「おらー輝基!始めるぞー!」
どうやら試合を、始めたいようだ。すいませんと一言謝ってから、それぞれがチーム分けの為のクジを引く。
「…テトと一緒」
「頑張ろうね、お兄ちゃん」
和斗はレイラと美姫と、同じチームであった。
「いーい!ナナ?私に負けるという選択肢はないわ」
「は、はい!が、頑張ります!!」
相手チームは、アリスとナナである。
他の対戦チームの生徒達は、別のグラウンドへと移動して行く。
こうして、アリス、レイラ、ナナの、初めてのソフトボールが幕を開けた。
先行、アリスチーム。
「一番っていったら、私しかいないじゃない」
バットを肩に乗せ、自信満々で出てくるアリス。
「ア、アリスちゃん!ヘルメット!ヘルメット!」
味方の女子生徒が、アリスにヘルメットを手渡す。手渡されたアリスだが、このヘルメットをどうすれば良いのかが分からない。
「おーいアリス!頭に被るんだよー」
仕方がないので、ファーストから和斗が声をかけるのだが…
「ストラーイク」
「……??」
アリスが和斗の方を向いている間に、ボールが投げられてしまう。ストラーイクの意味が分からず、再び首を傾げるアリス。
「タ、タイム!」
敵チームのアリスに、ルール説明の為、タイムを使う和斗。
一体どんなスポーツだよと、心の中でツッコミながら、和斗はアリスのもとへと駆け寄った。
「ヘルメットはだな…ほら、次のバッターのように頭に被って、バットを持って打席に立ったらゲームは始まってると思え」
「バッタ?虫?だ、打席?」
謎の言葉に戸惑うアリス。
深いため息を吐きたい衝動にかられながら、和斗は体育教師に近づいていく。
「すいません先生。俺、こっちのチームに移動します」
「……テ……ト」
「おおおお兄ちゃん!?」
和斗の提案に、固まる少女二人。
しかし、今の一連を見ていた体育教師は、その方がいいだろうと判断し、和斗の提案を認めた。
「ほら。とりあえずこの打席は、三振でもいいから行って来い」
「わ、分かったわよ!三振してこればいいんでしょ?楽勝よ!」
だろうな。
三振が難しいというバッターなど存在しない。
それにしてもレイラのヤツ…上手いな。
アリスを見送りながら、和斗はレイラを見ていた。
「……!?」
突然、和斗から熱い視線?を、向けられたレイラの顔が赤く染まる。何故見られているのかは分からないが、とにかく答えようと、レイラは小さく手を振った。
『おぉぉ!!』『キャー!!』
まるで、天使のような微笑みを向けてくるレイラに、アリスチームの選手一同は歓喜した。
敵チームとなってしまった為、手を振り返していいものか悩む和斗だったが、直ぐに悩む必要は無くなった。
なぜなら、アリスチームの全員が、レイラに向かって手を振り始めたからであった。
「…し、試合を始めるぞ!!」
教師の顔が赤くなっていた事に、アリスだけは気づいていた。
とにかく、試合が再開される。
ピッチャーはレイラである。
レイラは人気からか、運動神経をかわれてか、良く部活の助っ人を頼まれる事が多い。
基本的に一度教えれば、難無くこなすタイプのレイラは、どうやらソフトボールの助っ人をした事があるらしい。
なら何故最初に、ソフトボールについて聞いてきたか悩む和斗であったが、レイラが仲間ハズレを嫌がっての行動だったと、理解する事は最後まで無かった。
『キャー!アリスちゃん頑張ってー!』
そんな事を考えていた、和斗の耳に届く言葉。
いかんいかんと首を左右に振り、和斗は試合に集中する。
「ったく、三振ぐらい楽勝だってぇの」
悪魔族や魔族の頂点に君臨する、魔王サタンの娘アリス。頑張れなどと、応援される事などあまりない。勝って当たり前、いや、勝つ事を前提として、育てられてきたアリスは、この手の声援に弱い。
顔を赤くしながら、アリスはレイラを見る。
「ストラーイク」
「……なるほどね」
アリスは理解した。
バットと呼ばれるこの棒を振らずに、ボールと呼ばれるこの白い球が、この訳の分からない茶色い防具へと移動すると、ストラーイクと言われてしまうという事に。
ニヤリと微笑むアリス。
バットをギュッと握り、相手を威嚇するかの如く睨みつける…が、相手は勇者軍の最強戦士と噂されている少女レイラ。あまり、効果はなかった。
レイラが振りかぶる。
アリスがバットを後ろへと引く。
レイラがボールを放る。
アリスの目がギラリと鋭くなる。
「もらったぁぁあぁ!!って、ちょ、ちょっと!?」
バットを振った瞬間、被っていたヘルメットがズレて、アリスの視界を遮った。
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