世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
第三章8 異変 下
(前回)
アリ女王とアリ王様を遂に倒したカズト達。
しかし、レイラは・・・。
【本編】
カズトは自分の目を疑っていた。
つい数時間前まで、あどけない笑顔を見せていた彼女は、木の側に倒れていた。
ゴスロリ服を着た彼女の服は所々破け、トレードマークのツインテールはほどけている。
辺りは激しい戦闘の後なのだろうか、地面がえぐれており、木には大きな穴があいていた。
いつ倒れてもおかしくない木の下で、彼女は笑顔で目を閉じているのであった。
目を閉じる彼女に、小さな鳥達が、彼女を守るように寄り添って鳴いていた。
その光景にカズトは、胸が熱くなりギュッと誰かに心臓を握り潰されている、そんな感覚に落ちいる。
(うそ・・だろ?)
込み上げてくる様々な感情に、カズトはパニックになりながらも、彼女の元へと歩みよる。
ゆっくり、ゆっくり1歩ずつ歩みよるカズトは、首を横に振る。
(ありえない。あのレイラが、死・・)
死という単語が頭をよぎった時、目から流れ出す大粒の涙。
カズトは我を忘れ、一気にレイラの元へ駆け出して行く。
「レ、レイラ!!し、しっかりしろ!」
カズトがレイラの元へ近づくと、鳥達が一斉に飛び立った。
それはまるで、彼女を連れて天高く羽ばたいていく、天使の使い魔のようであった。
どれぐらいの時間が経ったのか、カズトには解らない。
笑顔で眠る彼女を抱きしめながら、溢れる様々な感情に、精神が崩壊しそうであった。
レイラは人間である。
普通の女の子だ。
誰にでも優しい彼女。
そんな彼女を変えたのは、カズトである。
バーサーカーモード。
忌々しい、自分の意志では制御しきれない、呪いのような体質。
カズトから溢れ出てくる感情の多くは、謝罪であった。
何度、何度確認しても、彼女の心臓はとまっている。
レイラは死んだのだ。
誰かが自分を呼ぶ声がする。
どうでもいい。
誰よりも優しい彼女が死なないといけないような、こんな世界。
「この、馬鹿!!」
突然訪れる衝撃。
カズトは誰かに、頭を殴られた事を数分遅れで理解した。
抱きしめていた彼女が、これ以上傷つかないように、そっと地面に置いてカズトは顔をあげる。
顔をあげると、カズトに向かって手を振りかざす、アリスの姿が見えた。
見えると同時にカズトは頬を叩かれる。
「しっかりしなさい!!」
その声が、涙声に聞こえたのはカズトの気のせいではなかったはずだ。
後ろの方では、ナナがひざまづいて両手で顔を隠している。
ナナもまた、罪悪感で心が押しつぶされていた。
自分のせいでこんな事になってしまったと考える事よりも、この魔力の痕跡、木にあいた大きな木。
忘れるはずがない。
大好きなお姉ちゃんの魔力だ。
お姉ちゃんが・・レイラさんを殺した・・。
そう答えを導き出したナナを襲う激しい頭痛。
頭を抱え、吐き出しそうになる胃の中の物を無理矢理飲み込んで、ナナは立ち上がってレイラの元へと歩み寄った。
レイラの顔を見たナナは、溢れだす涙を抑えきれなかった。
何故この人は笑顔で眠るのだろうか。
ナナは右手で溢れ出す涙を強く拭く。
そして、意を決してカズトの真正面に座った。
「カズトさん。レイラさんはまだ死んでいません」
「・・・!?」
どういう意味なのかとか、そんな事はどうでもいい。
レイラが生きているなら、それは些細な事でしかない。
カズトがナナの両肩を掴む。
強く握りしめてしまったのか、ナナは一瞬だけ痛そうな表情を見せたが、すぐに真剣な表情に変わる。
「レイラさんをこんな・・目に合わせ・・たのは・・すいません。わ・・私の姉です」
所々間があったのは、いい辛かったからであろう。
しかし、ナナは言い切った。
自分が責められる事を覚悟したそんな表情で。
ナナは続ける。
「魔女に殺された人がどうなるか、ご存知でしょうか?」
この質問はカズトに向けてではなく、アリスに向けてのものである。
「・・知らないわ」
アリスはナナの質問に背を向けて答えた。
「魔女に殺された人間は魔女になるのです。お姉ちゃん、嫌、ナナミに殺されたてしまったレイラさんは、これより魔女族になる為に、魔女化してしまいます」
カズトはナナの言葉を聞いて、バッとレイラを見る。
レイラを見ているカズトに、ナナは構わず続ける。
「しかし、魔女化が成功できるかは、選ばれた人のみになります。おそらくレイラさんならきっと」
きっと大丈夫。
その言葉をナナは口にしなかった。
できなかったが正しいのかもしれない。
レイラのこの姿を見て、何が大丈夫なものか。
ギュッと唇を噛み締めるナナ。
ナナは続ける。
その昔、魔女族は凄まじい差別にあっていたこと。
人間達の町から追放され、魔女だというだけで、食べ物を売ってもらえず、何かあれば自分達のせいにされるそんな毎日。
魔女達は人間に対し、深い絶望と悲しみに包まれる。
そんなある日の事である。
1人の魔女が、新魔術を完成させた。
それは、人間達にも自分達と同じ気持ちに合わせてやろうという思いのもと作られた魔法であった。
その新魔術は人間を魔女に変えてしまうおそろしい魔法。
魔女達は、自分達を苦しめた人間に復讐を決意したのだった。
しかし、ここで大きな問題が生じてしまう。
それは、この魔法を使うと使った術者は死んでしまうということであった。
そこで、魔女達はこの魔法に改良を重ね、結果できたのが、子孫に新魔術を授けるといった新魔法である。
その魔法は術者が死ぬ事はないのだが、強い魔女にしかその効果は現れないという欠点があった。
この魔法によって、レイラは魔女化して、人間から魔女族に転生することになるらしい。
魔女が人間を魔女化させる、吸血鬼が吸血鬼化させるように。
ナナは話し終えると、レイラを抱き起こし背中が見えるように、服をめくった。
レイラの透き通る白い肌が露わになる。
カズト達が見ていると、レイラの身体に異変が起きた。
野球ボールぐらいのサイズの黒い紋章がレイラの背中に現れたのだ。
その奇妙な紋章が現れた場所は、右側の背骨から脇腹にかけてであり、まるで背中にポンっとスタンプが押されたような感じであった。
その紋章を見ていたカズトとアリスに、ナナは言いづらそうな顔で説明する。
「この紋章は、魔女族の落第の印と呼ばれる紋章です。魔女族の中で、差別する為にできあがるのが、この紋章です」
ナナは辛そうな顔をしながら、レイラの服をもとに戻した。
しばらくすると、レイラを黒い霧が包み込んでいく。
ナナによると、これが魔女化の兆候だという。
心配そうな表情を浮かべるカズト。
背中を向けている為、表情がうかがえないアリス。
時折、チラチラと盗み見ていることが、雰囲気で伝わる。
ナナは祈りを捧げていた。
カズトはナナに質問する。
「魔女化になってしまうと言ったが、レイラは大丈夫なのか?魔女化はとめられないのか?」
祈りを捧げていたナナは、目だけを開きカズトの質問に答えた。
「魔女化をとめてしまえば、レイラさんが死んでしまいます。大丈夫です。魔女族になるだけで、何も変わらないはずですし、治し方もあります」
治し方もありますとつげたナナは、とても哀しそうな目をしていた。
哀しい瞳で、治す方法をカズト達に説明する。
魔女化を治す方法。
魔女化をかけた術者、ナナの姉を殺す事である。
その言葉を聞いたカズトは、黙っていることしかできなかった。
ナナが言うには、人間が一度死んでから魔女化が始まると、魔女としての生命が与えられる。
黒い霧がレイラを包み込んだのは、その準備をしているからだと言う。
またその逆で、魔女化を解くと一度死に、白い霧に包まれて人間としての生命が与えられる。
しかし、これはレイラが人間だからできる事であり、多種族にはこれはあてはまらない。
何故なら、人間に対し、魔女の深い怒りと悲しみから生まれた呪いのような魔法だからだ。
黒い霧が晴れる。
「レ、レイラ!!」
カズトは慌てて、レイラの心臓の音を確認する。
(う・・動いている)
心臓が動いているという事は、レイラの魔女化が成功したということでもある。
カズトは強く抱きしめ、ナナは思わず泣き出した。
アリスは相変わらず背中を見せたままである。
しかし、そんなアリスの肩は少しだが震えていた。
「・・・テト!!」
バッっと目を開き、慌てて目を覚ますレイラ。
アリ王様達がカズト達に危害を与えていないかと、思い出したからである。
そんなレイラは、誰かに抱きしめられている事を数秒遅れで気づく。
レイラが目だけで確認すると、抱きしめていたのは、カズトであった。
顔を真っ赤に染め上げ、頭から煙があがりそうなレイラは、フリーズしてしまう。
「お、おい!レイラ!しっかりしろ」
「カ、カズトさん。あまり揺らしてしまってはダメです」
慌てているカズトとナナ。
幸せそうな顔で、固まっているレイラ。
そんな3人にアリスが話しかけた。
「モンスターが、こっちに向かっているわよ」
「ちっ、やっかいな。」
「どどど、どうしましょう?」
こちらの戦力はほぼ無いといっていい。
できることなら戦闘は避けたい。
カズトはアリスを呼ぶ。
アリスはうなずいて、呪文を唱えた。
「リゼクト」
カズトは目の前が、真っ暗になった。
現在カズトの部屋。
音が鳴っているのは目覚まし時計だろう。
カズトは、目覚まし時計のスイッチを切ろうと腕を伸ばし、スイッチをプニっと押した時であった。
きゃーっと言う大きな音と共におとずれる衝撃。
真っ赤になった頬をさすりながらカズトは状況を整理する。
そんなカズトに、頬を叩いた張本人、ナナが謝罪する。
「すすすすすいません。大事な・・所を・・触られたものですから」
カズトはそれが何かを確認しようとはしなかった。
真っ赤になった頬をさすりながら、きょろきょろ辺りを見渡すナナに声をかける。
「いや、すまない。ナナ。ここは俺の部屋で、信じられないかもしれないが別の世界だ」
カズトの言葉に耳を疑うナナ。
ナナが声をかけようとした時であった。
バンっという音と共に現れたのは、妹の美姫の姿であった。
「おおおお兄ちゃん!!今声がってぇぇぇええええ!!」
ナナの姿を見た美姫は絶叫する。
「おおおおお兄ちゃんが、ハーレム帝国を築こうとしていたなんて!!」
その言葉にカズトは、頭を抱えるのであった。
カズトが頭を抱える数十分前。
一人の女の子が、目を覚ます。
背中に小さな羽をはばたかせ、頭の上に黄色い輪っかが浮いている。
彼女の姿を見た人は、彼女の存在を、神話にでてくる天使と呼ぶだろう。
だが不思議なことに、翼の色は黒かった。
次回 第四章1 漆黒の堕天使 上
※ここまで読んで頂きありがとうございます。
さて、今回はいかがだったでしょうか?
次回から四章へと移る訳ですが・・いや、ネタバレになるかもなのでふせましょう。
では次回もお楽しみに。
アリ女王とアリ王様を遂に倒したカズト達。
しかし、レイラは・・・。
【本編】
カズトは自分の目を疑っていた。
つい数時間前まで、あどけない笑顔を見せていた彼女は、木の側に倒れていた。
ゴスロリ服を着た彼女の服は所々破け、トレードマークのツインテールはほどけている。
辺りは激しい戦闘の後なのだろうか、地面がえぐれており、木には大きな穴があいていた。
いつ倒れてもおかしくない木の下で、彼女は笑顔で目を閉じているのであった。
目を閉じる彼女に、小さな鳥達が、彼女を守るように寄り添って鳴いていた。
その光景にカズトは、胸が熱くなりギュッと誰かに心臓を握り潰されている、そんな感覚に落ちいる。
(うそ・・だろ?)
込み上げてくる様々な感情に、カズトはパニックになりながらも、彼女の元へと歩みよる。
ゆっくり、ゆっくり1歩ずつ歩みよるカズトは、首を横に振る。
(ありえない。あのレイラが、死・・)
死という単語が頭をよぎった時、目から流れ出す大粒の涙。
カズトは我を忘れ、一気にレイラの元へ駆け出して行く。
「レ、レイラ!!し、しっかりしろ!」
カズトがレイラの元へ近づくと、鳥達が一斉に飛び立った。
それはまるで、彼女を連れて天高く羽ばたいていく、天使の使い魔のようであった。
どれぐらいの時間が経ったのか、カズトには解らない。
笑顔で眠る彼女を抱きしめながら、溢れる様々な感情に、精神が崩壊しそうであった。
レイラは人間である。
普通の女の子だ。
誰にでも優しい彼女。
そんな彼女を変えたのは、カズトである。
バーサーカーモード。
忌々しい、自分の意志では制御しきれない、呪いのような体質。
カズトから溢れ出てくる感情の多くは、謝罪であった。
何度、何度確認しても、彼女の心臓はとまっている。
レイラは死んだのだ。
誰かが自分を呼ぶ声がする。
どうでもいい。
誰よりも優しい彼女が死なないといけないような、こんな世界。
「この、馬鹿!!」
突然訪れる衝撃。
カズトは誰かに、頭を殴られた事を数分遅れで理解した。
抱きしめていた彼女が、これ以上傷つかないように、そっと地面に置いてカズトは顔をあげる。
顔をあげると、カズトに向かって手を振りかざす、アリスの姿が見えた。
見えると同時にカズトは頬を叩かれる。
「しっかりしなさい!!」
その声が、涙声に聞こえたのはカズトの気のせいではなかったはずだ。
後ろの方では、ナナがひざまづいて両手で顔を隠している。
ナナもまた、罪悪感で心が押しつぶされていた。
自分のせいでこんな事になってしまったと考える事よりも、この魔力の痕跡、木にあいた大きな木。
忘れるはずがない。
大好きなお姉ちゃんの魔力だ。
お姉ちゃんが・・レイラさんを殺した・・。
そう答えを導き出したナナを襲う激しい頭痛。
頭を抱え、吐き出しそうになる胃の中の物を無理矢理飲み込んで、ナナは立ち上がってレイラの元へと歩み寄った。
レイラの顔を見たナナは、溢れだす涙を抑えきれなかった。
何故この人は笑顔で眠るのだろうか。
ナナは右手で溢れ出す涙を強く拭く。
そして、意を決してカズトの真正面に座った。
「カズトさん。レイラさんはまだ死んでいません」
「・・・!?」
どういう意味なのかとか、そんな事はどうでもいい。
レイラが生きているなら、それは些細な事でしかない。
カズトがナナの両肩を掴む。
強く握りしめてしまったのか、ナナは一瞬だけ痛そうな表情を見せたが、すぐに真剣な表情に変わる。
「レイラさんをこんな・・目に合わせ・・たのは・・すいません。わ・・私の姉です」
所々間があったのは、いい辛かったからであろう。
しかし、ナナは言い切った。
自分が責められる事を覚悟したそんな表情で。
ナナは続ける。
「魔女に殺された人がどうなるか、ご存知でしょうか?」
この質問はカズトに向けてではなく、アリスに向けてのものである。
「・・知らないわ」
アリスはナナの質問に背を向けて答えた。
「魔女に殺された人間は魔女になるのです。お姉ちゃん、嫌、ナナミに殺されたてしまったレイラさんは、これより魔女族になる為に、魔女化してしまいます」
カズトはナナの言葉を聞いて、バッとレイラを見る。
レイラを見ているカズトに、ナナは構わず続ける。
「しかし、魔女化が成功できるかは、選ばれた人のみになります。おそらくレイラさんならきっと」
きっと大丈夫。
その言葉をナナは口にしなかった。
できなかったが正しいのかもしれない。
レイラのこの姿を見て、何が大丈夫なものか。
ギュッと唇を噛み締めるナナ。
ナナは続ける。
その昔、魔女族は凄まじい差別にあっていたこと。
人間達の町から追放され、魔女だというだけで、食べ物を売ってもらえず、何かあれば自分達のせいにされるそんな毎日。
魔女達は人間に対し、深い絶望と悲しみに包まれる。
そんなある日の事である。
1人の魔女が、新魔術を完成させた。
それは、人間達にも自分達と同じ気持ちに合わせてやろうという思いのもと作られた魔法であった。
その新魔術は人間を魔女に変えてしまうおそろしい魔法。
魔女達は、自分達を苦しめた人間に復讐を決意したのだった。
しかし、ここで大きな問題が生じてしまう。
それは、この魔法を使うと使った術者は死んでしまうということであった。
そこで、魔女達はこの魔法に改良を重ね、結果できたのが、子孫に新魔術を授けるといった新魔法である。
その魔法は術者が死ぬ事はないのだが、強い魔女にしかその効果は現れないという欠点があった。
この魔法によって、レイラは魔女化して、人間から魔女族に転生することになるらしい。
魔女が人間を魔女化させる、吸血鬼が吸血鬼化させるように。
ナナは話し終えると、レイラを抱き起こし背中が見えるように、服をめくった。
レイラの透き通る白い肌が露わになる。
カズト達が見ていると、レイラの身体に異変が起きた。
野球ボールぐらいのサイズの黒い紋章がレイラの背中に現れたのだ。
その奇妙な紋章が現れた場所は、右側の背骨から脇腹にかけてであり、まるで背中にポンっとスタンプが押されたような感じであった。
その紋章を見ていたカズトとアリスに、ナナは言いづらそうな顔で説明する。
「この紋章は、魔女族の落第の印と呼ばれる紋章です。魔女族の中で、差別する為にできあがるのが、この紋章です」
ナナは辛そうな顔をしながら、レイラの服をもとに戻した。
しばらくすると、レイラを黒い霧が包み込んでいく。
ナナによると、これが魔女化の兆候だという。
心配そうな表情を浮かべるカズト。
背中を向けている為、表情がうかがえないアリス。
時折、チラチラと盗み見ていることが、雰囲気で伝わる。
ナナは祈りを捧げていた。
カズトはナナに質問する。
「魔女化になってしまうと言ったが、レイラは大丈夫なのか?魔女化はとめられないのか?」
祈りを捧げていたナナは、目だけを開きカズトの質問に答えた。
「魔女化をとめてしまえば、レイラさんが死んでしまいます。大丈夫です。魔女族になるだけで、何も変わらないはずですし、治し方もあります」
治し方もありますとつげたナナは、とても哀しそうな目をしていた。
哀しい瞳で、治す方法をカズト達に説明する。
魔女化を治す方法。
魔女化をかけた術者、ナナの姉を殺す事である。
その言葉を聞いたカズトは、黙っていることしかできなかった。
ナナが言うには、人間が一度死んでから魔女化が始まると、魔女としての生命が与えられる。
黒い霧がレイラを包み込んだのは、その準備をしているからだと言う。
またその逆で、魔女化を解くと一度死に、白い霧に包まれて人間としての生命が与えられる。
しかし、これはレイラが人間だからできる事であり、多種族にはこれはあてはまらない。
何故なら、人間に対し、魔女の深い怒りと悲しみから生まれた呪いのような魔法だからだ。
黒い霧が晴れる。
「レ、レイラ!!」
カズトは慌てて、レイラの心臓の音を確認する。
(う・・動いている)
心臓が動いているという事は、レイラの魔女化が成功したということでもある。
カズトは強く抱きしめ、ナナは思わず泣き出した。
アリスは相変わらず背中を見せたままである。
しかし、そんなアリスの肩は少しだが震えていた。
「・・・テト!!」
バッっと目を開き、慌てて目を覚ますレイラ。
アリ王様達がカズト達に危害を与えていないかと、思い出したからである。
そんなレイラは、誰かに抱きしめられている事を数秒遅れで気づく。
レイラが目だけで確認すると、抱きしめていたのは、カズトであった。
顔を真っ赤に染め上げ、頭から煙があがりそうなレイラは、フリーズしてしまう。
「お、おい!レイラ!しっかりしろ」
「カ、カズトさん。あまり揺らしてしまってはダメです」
慌てているカズトとナナ。
幸せそうな顔で、固まっているレイラ。
そんな3人にアリスが話しかけた。
「モンスターが、こっちに向かっているわよ」
「ちっ、やっかいな。」
「どどど、どうしましょう?」
こちらの戦力はほぼ無いといっていい。
できることなら戦闘は避けたい。
カズトはアリスを呼ぶ。
アリスはうなずいて、呪文を唱えた。
「リゼクト」
カズトは目の前が、真っ暗になった。
現在カズトの部屋。
音が鳴っているのは目覚まし時計だろう。
カズトは、目覚まし時計のスイッチを切ろうと腕を伸ばし、スイッチをプニっと押した時であった。
きゃーっと言う大きな音と共におとずれる衝撃。
真っ赤になった頬をさすりながらカズトは状況を整理する。
そんなカズトに、頬を叩いた張本人、ナナが謝罪する。
「すすすすすいません。大事な・・所を・・触られたものですから」
カズトはそれが何かを確認しようとはしなかった。
真っ赤になった頬をさすりながら、きょろきょろ辺りを見渡すナナに声をかける。
「いや、すまない。ナナ。ここは俺の部屋で、信じられないかもしれないが別の世界だ」
カズトの言葉に耳を疑うナナ。
ナナが声をかけようとした時であった。
バンっという音と共に現れたのは、妹の美姫の姿であった。
「おおおお兄ちゃん!!今声がってぇぇぇええええ!!」
ナナの姿を見た美姫は絶叫する。
「おおおおお兄ちゃんが、ハーレム帝国を築こうとしていたなんて!!」
その言葉にカズトは、頭を抱えるのであった。
カズトが頭を抱える数十分前。
一人の女の子が、目を覚ます。
背中に小さな羽をはばたかせ、頭の上に黄色い輪っかが浮いている。
彼女の姿を見た人は、彼女の存在を、神話にでてくる天使と呼ぶだろう。
だが不思議なことに、翼の色は黒かった。
次回 第四章1 漆黒の堕天使 上
※ここまで読んで頂きありがとうございます。
さて、今回はいかがだったでしょうか?
次回から四章へと移る訳ですが・・いや、ネタバレになるかもなのでふせましょう。
では次回もお楽しみに。
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