おうこく!

伊達\\u3000虎浩

第2章6トランプすごろく決着…下

 
 りのは閃いた。


 突然、ビビビッときたというか、稲妻に撃たれたとか、よく漫画で見るようなワンシーンのような出来事であった。


 急に立ち止まるりのを、不思議そうに思うモッキーとゴン太。


「なんだいなんだいリノっちYO!トイレならいっトイレ!ウキーッキキ」


「は?違うから。ていうかキモイ」


 女の子にトイレ?とか聞いてくんな!と、言葉と表情で注意するりの。


「ひっかかるのよ」


「何がだい?」


 落ち込むモッキーの後ろから、ゴン太が尋ねる。


「ゴールをする為には、トランプを全て使用しないといけないってルールにあるじゃない?」


「そりゃぁ私も、可能なのかと思ったね」


「可能性は0じゃないじゃんyoごめんyo」


「はいはい。ではなぜ、ジョーカーだけは残しておくのはいいのかってところに、私はひっかかってるの」


 ルールには、トランプを全て使用しないとゴール出来ない。正し、ジョーカーは残しておいても良いとされている。


「ジョーカーを使う機会が、ないからじゃないのかい?」


「いいえ、その逆よ。ジョーカーを使う機会はたくさんあるわ。例えば、チャレンジマスに止まった時に、答えが分かっていても、分からないフリをして使えばいい」


「確かにそうだね」


「もしかして…」


 りのはこのゲームの突破口に、気付きはじめていた。


 ーーーーーーーーーー


 ゲームも終盤へと、差しかかっていた。
 りの達が先を進み、ミツバとヨツバが後ろから追いかけてくる形だ。


 トランプはすでに2周目である。


「おいおいおい。リノっちyoまだまだトランプが残っているZE」


 ゴールまで残り50マスあるかないかだが、トランプのヤマは、30枚も残っている。


「猿のいう通りだよ。アンタ…勝算はあるのかい?」


「えぇ…けど、その為にはジョーカーを一枚だけ残してゴールする必要があるわ」


『は?何で…』


 言われている事の意味が分からず、思わず聞き返してしまう二人。


「ゴールする為の条件は、ジョーカーで回避出来るのよ」


 りのは二人に説明しだした。


 このゲームにおいて、ジョーカーというカードは、全ての攻撃を回避できる最強の盾である。
 つまり、ゴールする為の条件である、トランプを全て使用してからのゴールや、ぴったりゴールマスに止まらないとダメというルールを、全て回避できるのではないか?と、考えたのだ。


「…そんな事が、可能なのかい?」


「やってみないと分からないわ…けど、トランプを全て使用してからのゴールとか、ぴったりゴールマスに止まるというルールよりかは、はるかに確率が高いわ」


「ならyo!ジョーカーを2枚、残しておいた方がいいんじゃないか?」


 ゴールする為に必要なルールは、二つある。
 もしも、ジョーカー1枚につき、回避が一つにしか効かなかったら?そう考えての提案であった。


「勿論、残しておきたいけど、ゴール前にあるあのスタート地点に戻りマスの数が半端ないのよね」


 すごろくゲームの醍醐味といってもいい特殊ルール。強制的にスタート地点からやり直さないといけないというルールが、ゴールマスの前に並んでいる。


 つまり、最低でも一回は、ジョーカーを使う場面があるという事であった。


「多分大丈夫のはずだけど…もしもの時は、その…ごめんなさい」


 もしも駄目だったら…頭の中は、その事でいっぱいだった。


「何を言ってるんだい」


「え?」


「駄目だった時は駄目だった時で、この国でのんびり暮らすのさ」


「そうだZE」


 トランプ王国でのんびりと暮らす事が出来る保証など、どこにもない。
 それでも前を向き、ポジティブな事を言ってくれた二人の心遣いが、とても嬉しかった。


 勝つにはそれしかないハズだ。
 トランプを引きながら、りのはそう決心するのであった。


 ーーーーーーーー


 ゲームもいよいよ終盤に差し掛かっている。
 ヤマにあるトランプは、10枚以上残っているように見える。


「そろそろゴールね。あの二人は…良し!まだまだ後ろの方だわ」


 二人の位置を確認したりのは、辺りを見渡した。


「やっぱり…そうだわ」


 りのは確信する。
 辺りには看板など立っておらず、ゴールまでの直進コースか、右に曲がるコースしかない。


「どういう事だい?」


「いい?今私達は、トランプが10枚以上残っている。ゴールまで残り20マスあるかないかってとこかしら」


「それで?」


「例えば、ここで13マス進むカードを引いてしまった場合、ゴン太やモッキーならどうする?」


「どうするも何も、ピッタリゴールできる可能性が0になるんだから、右に曲がるZE」


「そういう事。つまり、直進しても意味がないと思って右に曲がる。けど、もしもさっきの仮説が正しいとしたら、直進するのが正解って事。要は、行っても無駄だという心理を逆手にとった罠だったのよ」


 深層心理という事なのだろう。
 時間の無駄だとかそういう事を、現代の私達は常日頃から、知らず知らずの内にそう考えてしまっている。


「本来、この近くに看板があって、ピッタリゴール出来なければ右にとか、ピッタリゴール出来るのであれば直進してとかが、書かれていないといけないハズなのよ」


 ピッとヤマからトランプを引くりの。
 引いたのは、スペードのK。つまり、13マス進む事になる。


「…良し!行きましょう」


 一歩、また一歩と歩き出すりの達。問題はここだ。


 運命の分かれ道と言ってもいい。


「ピッタリじゃないと、ゴール出来ないってルールが適用されているなら、この先には行けないはず」


 ゆっくり、慎重に、右足を前に出すりの。


「良かった。やっぱり、やっぱりそうなのよ!」


 ジョーカーを所持しているからなのかわからないが、遂にりのはゴールまでの道に入った。


「やったやったやった!」


 思わずガッツポーズをするりの。
 足取りは軽い。
 これで、全てが元通りになると思ったのだが、直ぐに思い直す事になってしまう。


「リ、リノっちyo…」


「…これは、仕方がないわ」


 進んだりの達を待ち受けていたのは、スタート地点に戻りマス。予想していた事だったので、絶望感に浸る事はない。


 このマスの効果をジョーカーで回避し、相手のターンが終わるのを待つ。大丈夫。きっと大丈夫。
 自分にそう言い聞かせながら、りのはゴールまでのマスに目を向けた。


「ゴールまで残り7マス。マスは…全てスタート地点に戻りマス。最悪ね」


「けど、引くしかないんだろ?」


「いけるZE!リノっちYO!」


 トランプに手をあて、ボソリと呟いた言葉に、ゴン太とモッキーが答えてくれる。


 言われなくても分かっている。


 いける何て、根拠がないのも分かっている。


 それでもだ。


「ありがとう。二人とも…引くわ!」


 勇気をもらった。


 チャンスをもらった。


 二人が居なかったら、今の自分はいない。


 その事に感謝をし、言うべき言葉は、やはりありがとう以外ないのではないだろうか?


 バッ!と引いたトランプの数字は、8である。


 つまり、ピッタリの7ではない。


 もしも、自分の考えが間違っていて、1マスオーバーしていたら?恐らくは、スタート地点に戻る事になる。


 7マス。約30歩あるかないか。


 時間にして5分もかからないだろう。


「………!?」


 足が重たい。
 一歩、一歩と歩く度に、息が苦しくなる。


 胸元を押さえたのは無意識だった。


「りの」「リノっちYO」


「ゴ、ゴンタ…モッキー」


 声を掛けられたりのは、ゴン太とモッキーの手を繋ぎ、再び歩き始めた。


 ーーーーーーー


 後、一歩でゴールとなった所で、三人は声を揃えてジャンプする。


 同時にゴールマスに着地すると、イベントが発生する。


『良く来たな…と言いたい所だがしかし、残念ながらピッタリではない。しかも、トランプも所持している状態ではないか?』


「ジョ、ジョーカーを使うわ!」


『どちらを無効にするというのかね?』


「りょ、両方よ!ジョーカーは、1ターンの間の全ての効果を無効化できるはずよ!」


 辺りは静まり返る。


 これでダメだった場合、りの達はトランプ王国の物となってしまう。


 しかし、りのは自信たっぷりに答えた。


 これがルールだから。そういう思いを持って。


『良かろう。ゴール。ゴールじゃ!おめでとう』


 パンパカパーンという音とともに、勝者宣言を受けるりの。


 ようやく長いトランプ勝負が、終わりを迎えた瞬間であった。





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