おうこく!

伊達\\u3000虎浩

第2章5 ミツバとヨツバ 下

 
 一歩、また一歩と後退するりの。


 一歩、また一歩と前進するミツバとヨツバ。


「ね、ねぇ、お願い。アリアだけは勘弁してくれないかしら?」


 涙目になりながら、りのは二人にお願いをする。


「クスクスクス。勝負は勝負」


「スクスクスク。待ったなし」


 そんなりのの提案を、キッパリ断るミツバとヨツバ。


「待ったとは言ってないわ。持ち物って万歩計の事だと思ってたから…そ、そうよ!持ち物って言ったら所有物の事よね?だったら、やっぱりアリアは渡せないわ!!」


 閃いたりのは、ここぞとばかりにたたみかけた。


「アリアは私の友達。そう友達なのよ!友達は所有物ではないはず。貴方達は持ち者っていったのよね?つまり、アリア、妖精とは言っていない」


 だから、そちらにも非があるはずだと、りのは猛抗議するのだが…ミツバとヨツバは顔色一つ変えずに、りのに語りかけた。


「スクスクスク。妖精さんとは、どうやって知り合ったのかしら?」


「どうって…神さまからいただいた…!?」


「クスクスクス。つまりは貰ったということ」


『貰ったモノは所有物、または所有者ということになる!お姉さんも気づいたでしょ?』


 所有物、所有者=貰った人の持ち物だと主張するミツバとヨツバ…このままではマズイと、焦るりのであったが、りのの頭の上で、ずっと黙ったままのアリアが口を開いた。


「りの。どうやらお別れのようじゃ」


「ちょ、ちょっと待ってよアリア!?」


 スーっと、りのの頭の上から飛び立つアリア。


「友達か…その言葉、何より嬉しい言葉じゃったわい。オイ!ウサギどもよ。りのに危害を加えんと約束せい」


「クスクスクス。勿論よ」


「だ、ダメよアリア!戻って来て!!」


 バッと右手を伸ばすりのであったが、アリアは高度を更にあげた為、右手は空をきった。


「りのよ。少しの間じゃったが、ワシは楽しかった。りのならきっと、ワシがいなくても生き返れるはずじゃ」


 そう言って、プイッと背中を向けるアリア。


 アリアは自分に対し、お別れの言葉を言っているのだ…しかし、認められない。


 それだけは、絶対に!!


「ダメ、ダメ、ダメったらぜぇぇったいダメ!!私は、私はアリアがいな…ぐ…ぢゃ」


 私はアリアがいなくてはダメなのだ。


 アリアはどうなの?


 アリアは私がいなくてはダメなんじゃないの?


 大粒の涙を流し、嗚咽を漏らしてしまう。


 構うものか。


 私は貴方が、貴方がいないとダメなのだ。


 貴方は、どうなのか?


「フン!泣き虫め…ほらウサギどもよ。ワシは腹が減って死にそうなんじゃ。肉!肉を用意せい」


 背中を向けたまま、サーッと遠くに行く小さな背中を、私はぼんやりと眺めていた。


 待って。


 たった三文字の言葉が、なぜか出てこない。


 アリアにとっての私とは?


 そんな事を考えながら…


 ただただひたすら私は…膝をついて泣いた。


「クスクスクス。それじゃぁお姉さん」


「スクスクスク。またのお越しをお待ちしています」


 ミツバとヨツバはそう告げ、くるりと背中を向けた時であった。


 私の髪の毛が、なびくほどの風が吹いた。


 生暖かい何かがピチャっと頬を叩く。


「…ア…リア?」


 雨など降っていない。生暖かい何かが、アリアの涙だと気づくりの。


 なぜなら、鳴いている声が漏れていて、小刻みに震えているからだった。


 考えろ!この状況を打破できる何か…突破口を、突破口を見つけろ!私。


 またのお越しをお待ちしておりますと、ミツバとヨツバは言った。つまり、再戦が可能というわけだ。
 なら、もう一度勝負して、勝てばアリアを取り戻せるはず。


「もう一度、もう一度私と勝負しなさい」


 右腕で涙を拭いて二人にお願いではなく、命令する。こんな卑怯なやり方をする二人に、頭など下げたくないという理由もあったが、自分を鼓舞する為でもあった。


「スクスクスク。けど、お姉さん」


「クスクスクス。パートナーがいない」


「え??」


 りのの申し出に、二人は再戦出来ない理由を述べる。


「クスクスクス。気づいているかもしれないけれど」


「スクスクスク。私達が欲しいのは持ち者」


 つまり、人を賭けろという事である。


「ば、馬鹿な事言わないでよ!そんな非合法な」


 そんな賭け事は、国が認めないはず。


「クスクスクス。では、妖精さんを賭けて勝負するって事じゃなくていいのですね?」


「……!?」


「スクスクスク。そちらが万歩計を賭けるというのでしたら、私達は人参を5本賭けましょうか」


 りのは、気づいてしまった。
 再戦を申し込み、アリアを賭けろというのであれば、アリアと同等のモノを賭けなくてはいけないと言われてしまっても仕方がないという事に。


 そしてりのは、その賭けるモノを持っていないという事に。


 つまり、チェックメイトという事だ。


「もう良い。もう良いのじゃりの…ワジは…ワジは…」


 どうすればいい。


 私自身を賭けるのか?
 いや、何をためらっているのよ!?
 大切な友達を取り戻す為じゃない!!
 りのはそう決意し、自分を賭けるわっと、口を開く前にヨツバに警告される。


「スクスクスク。賭けるモノはプレイヤーには出来ない」


 今度こそ本当に、チェックメイトであった。


 ーーーーーーーーーー


 ゆっくりと、時間が流れていく。


 生き還る為に私はここにいて、生き還る為には国を作らないといけなくて、その為には、アリアが必要不可欠で…違う。


 国を作るため何かじゃない。
 もう一度、もう一度考えろ!


「クスクスクス。では、今度こそ」


「スクスクスク。さようなら。可愛いお姉さん」


「り、りのーー!?」


 りのは駆け出した。


「ま、待って!!お願いだから待ってよ…キャッ!?」


 足がもつれ、激しく転んでしまった。


 悔しい。


 悔しい。


 いや、違う。


 悲しい。


 りのが涙を流したその時であった。


「待たせたな!」


「何やってるんだい?ホラ、立ちな」


 りのの後ろから、そんな声がする。
 頭をあげ、後ろを振り返ったりのは、声をかけてきた人物に驚いた。


「ゴ、ゴン太!?モッキー!!」


 そこには、小屋に置いて行ったはずの、ゴン太とモッキーが立っていたのであった。

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