おうこく!

伊達\\u3000虎浩

第1章10 火をつけよう

『登場人物』
 水瀬 りの
 現役高校生アイドル。不運な事故にあって死んでしまったが、神さまが半分生き返らせてくれた。
 生き返る為には、何もない荒野に国を作る事である。
 アリア
 りのの手助けをする為、神さまからいただいた妖精。
 1日3回まで、お助けアイテムをだしてくれる。


【本編】


 水瀬りのは何処にでもいる、普通の女子高生ではない。
 女子高生アイドルとして活動する彼女を、普通の女子高生と呼ぶ事はできないだろう。
 だがしかし、普通の女子高生ではなくても、水瀬りのは何処にでもいる普通の女の子なのである。
 何が言いたいのか?


 つまりは、普通の女の子は普通であり、超能力者でもなければ、宇宙人でもないし、もちろん未来人でもない。
 世界を変えるだけの、力も持っていないんだからと、りのはピクピク動きまわる魚を前に、そんな事を考えていた。


「・・無理。釣った魚を、釣り針からとりはずすなんて事、私にはできない」


「未来人や超能力者でも無理だろうな」


 アリアにつっこまれ、先ほどの考えが、声にでていた事にりのは気づき、顔を赤くする。
 宇宙人である彼女や、世界を変える彼女なら簡単に取り外してみせるのかもと、大好きなアニメを思いだしていたのが、今はそれどころではない。


 現実逃避していたんだ・・とりのは頬を両手で叩いて、気合いを入れるのだが、気合いでどうこうできる問題でもない。


「ミミズがいけたのに、魚がダメだなんて、りのは変わってるなぁ」


「だって動いているじゃない!!それに魚がダメな人は変わってなんかいない!!キッド様に謝って」


「・・・・。」


 何か感に触ったのだろうか?
 急に訳の解らん事で怒りだしたりのに、アリアは遠い目を向ける。
 熱くなりすぎていたのを自覚したのか、りのは頬を赤らめて、ボソボソと呟いた。


「そ、それに・・私図工の成績2だったし・・。」


「・・関係あるのか?」


「関係あるわよ!!ワクワクさんと一緒に仕事する為には、手先が器用でなきゃダメなんだから」


 さっきからこいつは、何を言っているのだろうか?
 最後の方から察するに、手先が不器用だと伝えたいのだろうか?


「と、とにかく、私にはできない」


「そうは言っても誰かがやらないと、先に進めんぞ」


 アリアにそう言われ、りのは何かいい案がないか考えるのだが、どうしようもないと諦めかけていた。
 そこに、救世主が現れたのだ。


「ウキー」


「モ、モッキー」


 救世主ではなく、救世猿であった。
 モッキーは慣れているのか、素早い手つきで魚を釣り針から外していく。
 その様子を涙ながらりのとアリアは眺めていた。


「あ、ありがとうモッキー!!今日から貴方を我がりの帝国の大臣にしてあげる」


 モッキーを抱きしめながら、歓喜するりの。
 大臣が猿の国なんて、大丈夫なのかとアリアは心配してしまうのであった。


 モッキーの活躍もあり、4匹の魚を釣ったりの。
 やはり、ミミズには抵抗があったものの、5回目には何も感じなくなっていた。


 正確には5回目の時点で、エサだけをとられてしまい、頭に血がのぼっていたから、ミミズにギャーギャー騒ぐ余裕がなかったのだ。


 魚をアリアの魔法で保存してもらい、温泉に浸かってから、我が家に帰る。
 我が家と、呼ぶには相応しくない牛小屋なのだが、贅沢な事は言っていられない。
 雨風凌げるだけでも、神さまに感謝しなくてはいけないのだ。


 歩きながら、りのはアリアに疑問をぶつけた。
 魚を保存してくれるなら、卵の時といい、最初から魔法を使ってくれればよかったのにと。


「この前も言ったが、すぐ人に頼るクセをなおせ」


 人ではなく妖精じゃないといいかけて、りのは考える。
 人は一人では生きていけない生き物である。
 だからこそ、助け合っていかなくてはならない。
 それなのに、頼るなと言われてしまうという事は、一人で生きていけという意味なのか?
 答えはNOだ。


 アリアが言っているのは、まずはやってみて、ダメなら頼れと言っているのだ。
 だけど、やる前から結果は解っているんだからと、言いかけたが、アリアに遮られてしまう。


「ミミズだって触れたじゃろ?りのは自分で勝手に、限界地点を決めているだけなのだ」


 そう言われて、りのは言葉を失ってしまう。
 ミミズなんて、絶対無理だと言っていたが、それは単なる決めつけである。


「だいたい国を作ると言えて、魚が触れませんなんて」


 尚も続くアリアのお説教を、りのは華麗にスルーした。
 国を作るのは、生き返る為である。
 生き返る為なのであれば、魚ぐらい触れるようにならなくては・・いや、それとこれとでは別問題だ。


「ね、ねぇアリア?さすがにお刺身は嫌なんだけど。ひ、火をつけて、焼き魚にしない?」


 醤油もなければ、ワサビもない、ただの魚の切り身を食べるのは、味もしなくて嫌だ。
 焼き魚にした所で塩もないのだが、それでも冷たい切り身を食べるよりかはいい。


「そうじゃな。しかし、つけられるのか?」


「う、、頑張ってみる」


「頑張ってみるのはイイ事じゃ」


 りのが頑張ってみると言うと、アリアはとても嬉しそうに微笑んだ。


 牛小屋の前までやってきたりの。
 とりあえず、火をつける為に色々と、森から持って来たのだが・・どうする?
 りのは牛小屋に背中を預け、アゴに手をあてて考える。


 草や、木の枝、石などをモッキーと一緒に運んで来たものの、さすがに虫眼鏡で火をつけようとは思わない。
 時間も時間だし、前回失敗しているからだ。


「やっぱりこれしかないのかしら」


 りのは木の枝を手に取り、ブツブツと呟く。
 木の枝と木をくるくる擦りつけるようにし、摩擦によって生じる熱で、火をつけるといった方法である。


 世の中の人に、ライターなどを使わずに火をつけて下さいと聞いたら、ほとんどの人が、この答えに辿りつくであろう原始的なやり方である。


 くるくる、くるくる、くるくる。
 どれだけ回しただろうか?
 りのは一心不乱になりながら、木の枝を回し続けた。
 手を怪我しないように、スカーフを手に巻いて、一生懸命回し続ける。


 額に汗をかきながら、回し続けるりの。
 アリアは木の枝と木、りのが擦り続けている中心点を見ながら、情況を説明したり、時にはフーフーっと息を吹きかけながら、りのの手助けをしている。


 一人でやれと言いながら、手助けしてくれるアリアを微笑ましく思いながら、りのはその事にふれずに回し続けた。
 その事にふれると、この妖精はヘソを曲げるだろう。
 ふふ。ツンデレ妖精なんて萌えるだけじゃない!
 りのは気合いを入れなおしながら、回し続けた。


 人は一人では生きていけない。


 だけども、すぐ人に頼るクセを全員がもっているだろう。


 誰かに頼らずには、生きてはいけない。


 しかし、それではいけないのだ。


 いけない事なのだろうか?


 今はまだ解らない。


 けどいつか、その答えを見つけないといけないな。


 りのは火をつけようと頑張りながらも、そんな事を考えていた。
 すると、アリアが急に大声をあげる。


「りりりり、りの!!煙、煙がでたぞ!!」


「ほ、本当!!も、もう少しで・・」


 アリアの言葉をうけ、りのはスピードアップする。
 種火と呼ばれるものが、もう少しでできそうになっているのだ。


「ゆ、勇者部五箇条ひとーつ!!なるべく諦めない!!」


 りのが急に大声で叫びながら、木の枝をくるくる高速回転させる。
 アリアも必死に息を吹きかけ続ける。
 そして、遂に種火ができあがるのであった。


 種火に触ると火傷する為、さすがにりのにそれはさせられないと、アリアが魔法で草に持っていく。
 りののほっぺにキスをしながら、アリアがご苦労さんと伝えてくる。


「あ、汗かいてるから」


「何を言うておる。頑張った証じゃろうが」


 お助けアイテムで、出てきたフライパンの上に魚の切り身を乗せ、木の枝でうまく魚をひっくり返しながら、りのはアリアに注意するが、アリアはお構いなしに、チューしてくる。


「モッキー大臣もご苦労様。はい魚」


「モー」「・・ゴン太もハイ」


 満天の星空の下、焚き火をしながら、妖精、牛、猿と人間が、小さな小さな宴をする。
 現実世界では絶対に、ありえないだろう。
 ゴン太に背中を預け、モッキーが背中を預けてくる。
 アリアはりのの、頭の上で眠っている。
 りのにとってそれは、幸せな時間なのかもしれない。
 ずっと続いていけたらいいな。
 そんな事を思いながら、眠りにつくのであった。


次回      第1章11      花壇をつくろう


※ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
さて今回私が伝えたかった事が、読んで下さった皆様に、伝わっていたら幸いです。
アニメ好きすぎ問題ではないですよ笑
人は皆誰かに頼っていく、いわば依存と言った方がいいのかもしれません。
いけないことだと思いますか?
そういったメッセージ作品として、今後も書けたらいいなと思います。
いゃ、書いていきます。
長くなってしまいましたが、次回もお楽しみに。

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